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「俺は、お前のその言い分には納得がいかねぇ。俺の子供なら、俺としては認知して引き取りたいと思ってる」
「それは何故? 私には、惇也が悠真を大切に思っているようには思えない。それなのにどうして引き取りたいなんて言うの? 私は、貴方が八旗組の為に悠真を使おうと思っている気がしてならないの」
「そんな根拠がどこにあんだよ?」
「根拠はないけど、そんな気がするだけ」
「俺さ、お前には悪かったって思ってんだぜ? あの時突き放して悪かったってさ」
「……別に、今更謝って欲しいとは思ってない。私は、あれで良かったって思ってる」
「何だよそれ。お前、俺の事好きじゃなかったのかよ?」
「好きだった。でもそれはもう過去の事だよ。別れたあの日に終わった事なの。今はもう、貴方に何の感情もない」
「…………」
真彩のハッキリとした拒絶が堪えたのか、惇也は再び口を閉じてしまう。
「姉さんの気持ちは分かっただろう? もういい加減納得しろよ。これ以上話し合っても無駄だと思うぜ」
「おい、お前……!」
再び訪れた沈黙に朔太郎が口を挟むと、惇也の付き人の哲と呼ばれた男が割って入り、またしても言い合いに発展しそうになる。
けれど、それは惇也の発言で止まる。
「…………分かった。真彩、お前の気持ちを汲んで、お前と子供は諦める」
「惇也……」
「惇也さん、良いんですか?」
「ああ、もういい。悪かったのは俺だ。もう今更どうにもならない。それが分かったから。そうだ、口約束だけじゃ不安だろ? 一筆書けばいいか?」
「あ、うん……そうして貰えると、有難い……」
「哲、紙とペン用意しろ」
「はい、すぐに」
惇也のあまりの変わりように呆気に取られる真彩と朔太郎。
初めは疑っていたものの惇也は用意された紙に『今後一切真彩と悠真には近付かない』という念書を作成して朔太郎に手渡した。
「悪かったな、真彩」
「……ううん、分かってくれればいいの。その、ありがとう…………さよなら」
「ああ」
完全に疑う心を消す事は出来ない。
それでも何とか話し合いに決着が着いた事を安堵した真彩は早く理仁に結果を伝えたいと思っていた。
話し合いを終え、部屋を後にした双方はそれぞれ反対方向へ歩いて行く。
「良かったっスね、何とか決着着いて」
「うん、本当に」
「もっと長引くかと思ったけど、思いの外早かったな」
「そうなんだよ、アイツ急に引いたんだよなぁ」
「そうなのか?」
「まぁ姉さんがハッキリ自分の気持ちを伝えたのが堪えたんだと思う」
「そうか……」
「姉さん、これからどうします? 真琴くんに連絡したら理仁さんと悠真はまだショッピングモールに居るみたいですけど」
「そうなんだ? 合流しても大丈夫なのかな?」
「寧ろその方が喜ぶと思いますよ、兄貴も悠真も」
「そうかな? それじゃあお願いしてもいい?」
「俺はこれから少し寄るところがあるので、朔太郎、お前が真彩さんを連れて行ってくれ」
「ん? ああ、分かったよ」
「それじゃあ、また」
「翔太郎くん、ありがとうね」
何やら用事があるという翔太郎はホテルを出た所で真彩たちと別れ、翔太郎から車の鍵を手渡された朔太郎と真彩は駐車場へ向かって行く。
「…………?」
「姉さん、どうかしました?」
車に乗り込むさなか、何やら視線を感じた真彩は振り返ってみるも誰の姿も無く、そんな彼女のしぐさに疑問を感じた朔太郎が声を掛けた。
「うん、何だか誰かに見られているような気がしたんだけど……朔太郎くんは何も感じなかった?」
「はい、すいません……」
「ううん、いいの。私の気のせいだと思う。ごめんね」
「いや、俺が気付いてなかっただけかも。気を引き締めます! とりあえず急いで向かいましょう」
「うん、お願いします」
気のせいだと思うものの、何だか腑に落ちない真彩。
けれど、一緒に居た朔太郎は何も感じなかった事もあって、あまり気にするのは止めようと言い聞かせながら窓の外を眺めていた。
「ママー! さくー!」
ショッピングモールに着いた真彩たちはゲームセンター内に居た理仁や悠真と合流すると、好きな事をさせて貰えてご機嫌な悠真が笑顔で二人に抱きついた。
「無事に終わったようだな。翔から簡単に話を聞いた」
「はい。何だか、ちょっと拍子抜けしちゃいました」
「まぁ、俺も少しそれが気掛かりなんだ。檜垣がそんなに呆気なく引き下がる事がな……」
「でも、きちんと一筆書いてもらいましたし、きっと、大丈夫だと思うんです」
「……そうだな、アイツもお前の気持ちを聞いて思い直したのかもしれねぇからな」
「はい」
そう理仁と会話を交わす真彩だったけれど、またしても何処からか視線を感じて後ろを振り向いた。