ーそうか、ずっと邪魔だったんだな…ー
騒ぐ人々の声。迫り来る特急列車の音。
それを聞きながら、俺は永遠に眠る。
ある日から妻の体調が悪くなった。そこで、俺と妻の共通の知人の医者に診て貰った。
ー余命1ヶ月ー
その言葉を聞いたとき、頭が殴られたような感覚になり、倒れそうになった。
妻は、「覚悟は決めてた。だから、大丈夫だよ」と言っていた。そこで、Aから旅行へ行こうと提案を受けた。妻の思い出作りのため、俺も妻も賛成した。”いつか”、子どもができたときのため、2人で頑張って貯めてきた貯金。それを切り崩す。
その”いつか”はもう永遠に訪れないのだと、そう、身に感じた。
旅行の最後に写真を撮り終わったとき、妻の”死”が唐突に近づいてきた気がして、切なくなった。
俺の妻は心配性で電車に遅れたくないと、早めにきたお陰でホームの列の一番前で待つことができた。「なぁ、」 後ろからAの声がした。
「なぁ、人って邪魔なものがあった場合どうすると思う?」
意味が分からなかった。どけるか要らなかったら捨てるだろ。そんなキャラじゃないのに。
「どけるか、捨てるだろ。どうしたんだ?」
「じゃあ、”俺ら”の気持ちも分かってくれるよな」
どんっ
身体に激痛がはしる。石やレールがあるのを見て俺は落ちたんだと自覚する。やばい、落ちた。死ぬ。やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい。
取り敢えずホームに上がろう。俺は立ち上がる。ホームにはAも妻もいなかった。騒ぐ人々の間から見えたのは、腕を組ながら歩く、Aと妻の姿だった。
俺は膝から崩れ落ちる。
ーそうか、ずっと邪魔だったんだな。俺がー
騒ぐ人々の声。迫り来る特急列車の音。
全てを理解したあとに視界が闇に染まる。