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あの日の夜。
彼女から連絡がきて、正直驚いた。
あの時、俺を拒むように立ち去って行った彼女にはもう嫌われていると思っていたから。
それは、とても嬉しく、それでいてどこか不穏な雰囲気を纏ってる文だった。
そして、俺達の…俺の春が終わり、勉強に追われる日々。
アルゼンチン行きを決めてからあらゆる言語を猛勉強していた。
勉強の合間にふと、携帯を取り、無意識に彼女とのトーク画面を開く。
“連絡下さい”
よし、と自分に喝を入れ、文字を打ち込む。
後は送信ボタンを押すだけだ。
何度も何度も誤変換が無いかを見る。
文がおかしくないかを見る。
何もおかしいところなんかない。我ながら完璧な文章だった。
でも押せなかった。
毎回毎回文章を打ち込んで、送る勇気が出ずにそのまま消す………その繰り返し。
「_____おい」
「うわっ!!?」
いきなり後ろから肩を掴まれ、驚いて送信ボタンを押してしまった。
「うわぁぁぁあ!?イテッ」
叫ぶ俺の後頭部を容赦なく殴ってくる岩ちゃん。
え?なんで岩ちゃんってわかったかって?
幼馴染のかn
「お前さっきから何ずっと気持ちわりぃ顔しながらスマホ見つめてんだよ」
「酷!!!!!!!!!」
俺の悲痛な声を他所に、持っていたスマホを奪う岩ちゃん。
「…………お前もしかして、この文送るのにあんなに時間かけてたんか」
呆れた顔をする岩ちゃんにだってぇーと言い訳する。
「あーうるせえうるせえ。ん?なんか返信来たぞ。」
「えっ?」
岩ちゃんからスマホを奪い返して急いで返信を見る。そして急いで文を返した。
その返信に、なんの迷いもなかった。
その様子を見ていた岩ちゃんは、ふんっと鼻で笑っていた。
やっぱり岩ちゃんには敵わないなぁ……。
そう思いながら岩ちゃんを見つめると、「何ニヤニヤしてんだ気持ちわりぃ」と、また頭を殴られた。
そして、当日。
待ち合わせ時間よりも1時間も早く着いてしまった。
当然、彼女の姿はない。
だよねーと思い、とりあえずベンチに腰を下ろす。
いつ来るだろうかとソワソワしながら何度も何度も腕時計に目をやる。
でも、2分ずつしか進んでいない。
何度も何度もキョロキョロしたり、何度も何度も腕時計を見たり…
周りから変な目で見られてしまった。
なんやかんやあったけど、それでも挙動不審に辺りを見渡していたり時間を確認したりしていたら、待ち合わせ時間になった。
まだだろうか、とキョロキョロ辺りを見渡すが彼女の姿は見えない。
彼女は一度も遅刻なんてした事がなかった。
だから、それは異常事態に思えて仕方がなかった。
事故?事件?それとも……すっぽかされた?
いや、彼女に限ってそれはないか…。
一回探しに行ってみようかな、、いや、まず連絡を…
スマホを取り出して、立ち上がる。
彼女とのトーク画面を開きながら公園の出入口へ向かうと、そこには蹲っている彼女がいた。
「っは?」
駆け寄ると、頭をあげこちらを見上げる彼女と目が合った。
「…と、おる」
「どうしたの?」
俺もしゃがみこんで、目線を合わせる。
極力優しい声を意識して話しかけた。
「わ、わた……と、るに嫌われたくな……っ」
ぼろぼろと涙を流しながら俺に訴えかける彼女に胸が締め付けられた。
「大丈夫、俺はお前のこと嫌わないよ。」
微笑みかけると、少し安心したように引き攣った顔を緩ませた。
「とりあえず座ろうか。」
俺がベンチに促すとこくりと頷いてよろよろと立ち上がった。
目を擦ろうとする彼女を慌てて止める。
「ちょ!目で擦っちゃだめ!はいハンカチ!!」
ハンカチを差し出すと一瞬悩む彼女。
そして、おずおずとハンカチを手に取り、「ありがとう」と、ボソリと零した。
俺と一緒にベンチに座る。
「…ごめんね。いきなり泣いたりして」
「ううん、大丈夫」
俺が渡したハンカチで目を抑えながら謝罪を述べる彼女。
謝れる筋合いはないのに。彼女の悪いとこのひとつだった。
それから俺たちは他愛のない話をして盛り上がった。
先生の話が面白かった……クラスメイトが校長の事ハゲって言ってた。やばw…〇〇先生ってズラらしい。…俺、実は髪切ったんだよね。やっぱりー?
色々話した。
すごく、すごく面白かった。
ぷつっ、と話題が切れると、重い沈黙がその場を支配した。
すると、沈黙を破るように彼女が声を上げた。
「あのね…っ!」
彼女に目を向けると、彼女は太陽が沈んでいく様を見つめていた。
綺麗な瞳に、太陽の明るい光が射し込む。
「私………私…」
何かを言いかけては、言え出せないようで、俯いてしまった。その拍子に、瞳から太陽の光が消えてしまう。
もごもごと口を動かして、ついに決心が着いたのか、俯いていた顔をぱっとあげた。
「徹。」
凛とした、真面目な声に耳を傾ける。
「私……私ね」
次の瞬間、衝撃的な声が飛んできた。
「私………癌なの。」
𝙉𝙚𝙭𝙩 ︎ ⇝300♡