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「一年」
盛晴が静かに告げる。
「婚約解消の件が落ち着くまで、最低でも一年は待て」
応接室が静まり返る。
短くはない時間だ。
けれど――。
「分かりました、待ちます」
晴永は迷わず答えた。
だが続いて告げられた言葉に、思わず固まってしまう。
「当然のことだが、同居も解消しろ」
「えっ」
まさかそこまで制限されるとは思っていなかった。
なまこのこともある。すぐには即答出来ず、固まってしまった晴永に、盛晴が吐息を落とす。
「当たり前のことだろう」
「ですが……」
「彼女は部屋を解約しておらんだろう? 何の問題がある」
言われて、晴永はなまこのことを告げていいものか迷ってしまう。
「あのハムスターのことか」
「えっ」
驚く晴永に、「わしはなんでもお見通しだと言っただろう」と、盛晴が憮然とした顔をする。
そんなことまで知られていたとは思わなかった。
「どうせお前のことだ。それを出汁に彼女を家に引き入れたんだろう?」
図星だった。
何も言えず黙り込んだ晴永に、清香が吐息を落とす。
「ホント、この子は……」
母と祖母の視線が痛い。
晴永はぐっと拳を握ると、盛晴を見た。
「その通りです。なので、なまこのことをどうにかしない限り、瑠璃香との同棲もやめられません」
盛晴は先ほど瑠璃香と自分の居住形態を〝同居〟と称した。だが、晴永はあえて〝同棲〟と言い換えることで自分なりの意地を示す。
そんな晴永に対して、「――だったらお前が家を出ろ」と盛晴が言い放つから。
余りの急展開についていけず、晴永は瞳を見開いた。
「えっと……それはどういう?」
「ここへ戻って来い」
「……は?」
盛晴は、晴永の困惑した顔を見て、初めてわずかに口元を緩めた。
「公私ともにわしや清香のそばで、色々学べ」
母の名が出て、反対してくれるかと期待した晴永だったのだが、清香は澄ました顔で座っている。
どうやらこの件に関しては、母は異存がないらしい。
晴永としてはここで御曹司扱いされるのが嫌で、晴留とともに家を出たのだ。
なのに――。
「先の言葉は偽りだったのか?」
「え?」
「わしが許すなら角実屋フーズで精一杯自分が出来ることをやらせて欲しいと言ったではないか」
言った。確かに言った。
まさかこんなところでその上げ足を取られるだなんて思っていなかった晴永は、グッと言葉に詰まった。
「一生添い遂げたい相手なんじゃろう?」
静かな声だった。
「ならば一年くらい、死に物狂いで頑張れるはずだ」
そこまで言われては、頷くしかないではないか。
晴永は腹をくくった。
「……はい」
瑠璃香には寂しい思いをさせるかもしれないが、きっと彼女なら分かってくれる。
「必ず認めていただけるよう全力を尽くして……瑠璃香を迎えに行きます」
晴永は深く頭を下げる。
「きっちり一年後に――」
その返事には、決意だけがあった。
盛晴は晴永の返事を聞くと満足そうに小さく頷いてみせる。
「それでこそわしの孫じゃ」
短くそう告げると、テーブルの上へ置かれていた湯飲みを手に取り、一口だけ茶を含んだ。
誰も口を開かない。
鷹槻れん

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鷹槻れん

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鷹槻れん

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#契約結婚
鷹槻れん

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さっきまでとは違う静けさが、応接室を満たしていた。
コメント
2件
一年は長いけど頑張れ!
お疲れ様です!第119話読みました! 1年か…長いけど、晴永くんが腹をくくった姿、めっちゃ熱かったです! 「なまこ」を言い訳にするところとか、あえて「同棲」って言い換えたところに彼の優しさと意地を感じてニヤニヤしました笑 祖父の「わしはなんでもお見通しだ」も渋くて好きです。清香さんが静かに同意してたのも意外だったけど、納得の展開でした。 瑠璃香さんを迎えに行く決意、1年後が楽しみすぎます…!更新ありがとうございました!