テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
図書館の隅、夏の終わりの午後。
阿部がページをめくるたび、隣の佐久間がちらちらと彼を見てくる。
💚「……なんか用?」
🩷「ううん。顔、見てただけ」
阿部は苦笑して視線を戻すけれど、少しだけ指がページをめくるのを忘れる。
🩷「今日さ、席どこでも空いてたのに、阿部くんの隣に座ったんだよ。気づいてた?」
💚「うん、さっきからすごい視線感じてた」
🩷「……気づいてたなら、なんか言ってよ」
💚「なんて言えばいいの?」
佐久間は黙って笑う。ふっと、いたずらを企む子どものような目で。
🩷「たとえば……『今日も隣、来てくれてありがと』とか?」
阿部はその言葉に一拍だけ固まってから、今度はちゃんと、彼を見た。
💚「……ありがと。今日も隣、来てくれて」
佐久間の笑みが、くしゃっとほどける。
それだけで、図書館の空気が少しやわらかくなるようだった。
そして――
🩷「じゃあ、明日も来てもいい?」
💚「うん。……待ってるよ」
指先が、机の下でほんの少し、触れ合った。
それはまだ恋とは言えないけれど。
きっと、始まりの音がした。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!