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ネオンの光が散る繁華街の裏通りで、夜気を裂くような叫びが響いた。
ガラスが砕け、血に濡れた男が、赤く光る瞳で笑う。
「……オレは……ヒーローだ……!誰も救えないはずがないッ!」
かつて快活な青年だったアルフレッドの姿は、もはや人のそれではなかった。
背からは黒煙が噴き出し、両腕は異形へと変貌してゆく。
「また……ひとり、堕ちましたか…」
低い声とともに現れたのは、本田菊。
漆黒のスーツに身を包み、手には古びた数珠。腰には札を収めた箱を下げている。
陰陽庁――国家公認の妖祓い部隊。その特級陰陽師。
「菊、遅いアルよ!」
背後から聞き慣れた声。
赤い上着を翻して現れたのは王耀。退魔一族の末裔にして、フリーの退魔師。
肩に背負った退魔刀が、街灯に照らされて鈍く光った。
「アルフレッドが妖に憑かれたって報告を聞いた時、我は信じられなかったアル……」
「信じようが信じまいが、現実はここにあります」
菊は短く息を吐き、御札を構える。
王耀は刀を抜き放ち、菊の隣に立った。
「結界は任せたアル。我が時間を稼ぐアルヨ!」
「無茶はするなと、いつも言っているでしょう」
互いに背を合わせ、視線を交わす。
その一瞬に、確かな信頼が宿った。
アルフレッドの拳がアスファルトを砕いた。
破片が飛び散る中、王耀は一歩踏み込み、退魔刀を横薙ぎに振るう。
刃が妖の皮膚を裂き、赤黒い血が飛び散った。
「……ッぐぉおおお!」
だが倒れない。力は増していくばかり。
「おい菊!こいつ、ただの妖じゃないアル!」
「……人間としての心が、まだ残っているのでしょう。だからこそ、不完全に強い」
菊が札を投げる。
瞬時に結界が広がり、青白い光がアルフレッドの腕を絡め取る。
「今です、耀さん!」
「任せるアルッ!」
退魔刀が閃き、妖の核を狙う。だが――
「……斬れない……!?」
核の奥で、まだアルフレッドの瞳が必死に助けを求めていた。
王耀の刃は、ほんの僅かに迷った。
「……助けられるアル。まだ、完全に堕ちてないアルヨ!」
「……耀さん…」
菊の手が震える。
陰陽庁の規定では、妖化した人間は即刻祓え。
救済を試みれば、被害が広がるだけ。
それがわかっていても――目の前の友を、ただ斬り捨てることなどできるのか。
「……我たちの選択で、この街の未来が決まるアル」
「……承知の上です」
二人は再び視線を交わした。
覚悟を決めた者の瞳で。