テラーノベル
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神殿の私室に漂うのは、いつもと違う濃厚で甘やかな香りだった。
生存者たちから奪い取った戦利品の中に紛れ込んでいた、人間界の熟成されたオーク樽仕込みの強いラム酒。
アルコール度数60度を超えるその褐色の液体を、好奇心と「人間の酒など水のようなものだ」という慢心から一気に煽ってしまったのが、事の始まりだった。
ドサッ……、と重く静かな音が部屋に響く。
「……ウルフ殿……?」
ソファに腰掛け、羊皮紙の報告書に目を通していたMowlは、驚きにモノクルを滑らせそうになった。
いつもなら廊下の床を踏み鳴らし、ドアを蹴り破る勢いで部屋に押し入ってくるウェアウルフが、足元をおぼつかせながら入ってきたかと思えば、そのままMowlの足元へ倒れ込んできたからだ。
「……んあ……Mowlぅ……」
低い、だが普段の凶暴な角が完全に取れた、甘く呆けた声。
ウルフは大きな身体を丸めると、黒い毛並みに覆われた大きな頭を、そのままMowlの膝の上へとドスンと乗せた。
「っ!? う、ウルフ殿! 一体なにを——」
Mowlはハチワレ顔を硬直させ、手袋をはめた両前脚を空中でワタワタと彷徨わせた。
いつもなら強引に腰を抱き寄せ、押し潰してくる狼男だ。
その狼が、今はMowlの膝の温もりにすがるように、ぐったりと重みを預けている。
ウルフの身体からは、芳醇なラム酒の香りと、彼自身の強い熱気が混ざり合った、香気が立ち上っていた。
右目の黒い眼帯は少しズレ、左の鮮烈な赤目は、とろんと半開きになって焦点を結べていない。
「……どこ行ってたんだよ……探したぞ……」
「さ、探したと言われましても、私めは終日この私室にて事務処理を……っ」
「……うるせえ……黙ってろ……」
ウルフはMowlの太ももに顔を埋めると、黒い鼻先を「スリッ……スリッ……」と無防備に擦り付け始めた。
その動作は、まるで親の温もりに甘える幼い仔犬そのものだった。
「……Mowl……暖けえな……お前……」
「あ……」
「……離れるなよ……。」
大きな耳がペタリと後ろに倒れ、ウルフはMowlの服の裾を、ゴツい手でギュッと力なく掴んだ。
「どこにも行くな……俺の傍にいろ……っ」
普段なら服を引き裂くほどの握力を見せる手が、今はまるで宝物を手放したくない子供のように、切なくすがりついてくる。
さらに、ウルフの胸の奥から、今までに聞いたこともない音が漏れ聞こえてきた。
「キュウーン……」
(……っ!?)
初めて聞くようなウルフの鼻鳴き。
ギャップ。
あまりにも暴力的なまでのギャップであった。
普段は「俺の獲物だ」「喰い散らかしてやる」と粗暴に迫り、力づくで自分を乱暴に愛撫してくるあの傲岸不遜な狼が。
たった一本のラム酒に酔わされ、自分の膝の上で甘えた声を上げながら「キューン」と擦り寄ってきている。
(〜〜〜〜っっ!!)
Mowlの胸の奥で、何かが音を立てて砕け散った。
紳士としての理性の壁が、ウルフのこの可愛らしすぎる一撃によって完全に粉砕されたのだ。
心根を撃ち抜かれたMowlは、耳を真っ赤に染め上げ、耳をピクピクと激しく揺らした。
「……っ♡、ん、んん〜〜〜っっ!!(声にならない悶絶)」
あまりの可愛さに頭が狂いそうになりながらも、Mowlは必死に深呼吸をし、胸の黄色いリボンを震える手で直した。
「……コホン。……まったく……酒に呑まれるなど、臣下として……いや、男として実に情けない失態でございますよ、ウルフ殿」
口ではいつものように厳しく嗜める言葉を吐く。
しかし、空中で彷徨っていたMowlの前脚は、吸い寄せられるようにウルフの頭部へと伸びていた。
手袋を外し、柔らかい肉球を丸出しにした手で、Mowlはウルフの耳の裏から、首元のフサフサとした黒い毛並みを、優しく、愛おしそうに撫でさすり始めた。
「ん……ぁ……そこ……気持ちいい……」
撫でてやると、ウルフはうっとりと目を細め、さらにMowlの膝の上で尻尾を小さく振りながら、頭をグイグイと押し付けておねだりしてきた。
「……あぁ、もう……なんて愛らしいのでしょう……っ♡」
理性が完全に溶けたMowlは、ウルフの耳の根元を指先で丁寧に揉みほぐし、顎の下を「サワサワ……」と撫で上げてやる。
「くぅん……っ、Mowl……お前……俺の猫だろ……?」
「……はい、はい。私めは貴方様の猫でございますよ。」
「……ですから、今夜だけは……私めの膝の上で、存分に甘えてください」
Mowlの口からも、押し殺しきれない甘い喉鳴りが溢れ出した。
ゴロゴロ……♡
酔い潰れたウルフの体温とラム酒の甘い香りに包まれて。
Mowlは自ら膝の上の大きな狼の頭を抱きかかえ、その愛おしすぎる甘えん坊の姿を、自分の心に深く焼き付けるのだった。
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城プル
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ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
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