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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第45話 担任視点〚海翔が“守りすぎている”と感じる回〛
正直に言えば、
最初は「よく気がつく生徒」だと思っていた。
班決め。
役割分担。
移動の順番。
海翔は、
どれも自然にまとめていく。
押しつけがましくもない。
目立とうともしない。
——ただ、
常に一人の生徒を視界に入れている。
それが、
澪だった。
(……気のせい、ではないな)
教室。
澪が席を立つと、
数秒遅れて海翔も動く。
廊下。
澪が誰かと話していると、
必ず海翔は近くにいる。
でも。
距離は保っている。
触れもしない。
声も荒げない。
だからこそ、
余計に目についた。
(守っている、というより……)
——張りつめている。
そんな印象だった。
昼休み。
私は職員室の窓から、
校庭を見ていた。
澪が友達と歩き、
少し遅れて海翔が後ろを歩く。
振り返る澪。
それに気づいて、
小さく頷く海翔。
……合図?
胸の奥に、
小さな不安が生まれる。
(中学生に、
こんな役を背負わせていいのか)
海翔は、
子どもだ。
責任感が強くて、
周囲をよく見ている。
でも。
それは、
背負わなくていい重さだ。
放課後。
私は海翔を呼び止めた。
「海翔、少し話せるか」
彼は一瞬、
澪の方を見た。
——一瞬で。
「はい」
その反応で、
確信する。
(……もう無意識だ)
廊下の端。
私は、
言葉を選びながら聞いた。
「最近、
周りをよく見ているな」
「……そうですか」
「班長としては、
助かっている」
一拍。
「でもな」
海翔は、
少し背筋を伸ばした。
「“守りすぎている”ようにも見える」
彼の指先が、
わずかに動いた。
反論はしない。
否定もしない。
それが、
答えだった。
「困っていることがあれば、
大人を頼れ」
私は、
教師としての言葉を置く。
「一人で全部背負う必要はない」
沈黙。
海翔は、
しばらく考えてから言った。
「……分かってます」
でも。
その目は、
全然、分かっていなかった。
(この子は)
——もう覚悟を決めている。
守る側に立つ覚悟を。
私は、
それ以上踏み込まなかった。
正解が、
分からなかったからだ。
ただ一つ、
確かだったことがある。
(何かが、起きる)
そうでなければ、
この目にはならない。
職員室に戻りながら、
私は決めた。
——目を離さない。
澪も。
海翔も。
子どもたちが、
子どものままでいられるように。
そう、
強く思った。