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アレクシアが私服が持ってない。なので買い物に行くことになった。
相棒となって初めてのデートだ。
待ち合わせ場所に鮮花は少し早く来てゲームをして時間を潰す。服装はデートらしくシンプルかつオシャレに気を使った赤の上着と黒のシャツ、そしてデニムだ。
「お待たせしました」
「お…おお~。新鮮だな」
「問題ないですか?」
「問題ない。ボーイッシュでオシャレ度低いね!」
「オシャレ度が必要ありませんから」
「というか銃持ってきたな貴様?」
「駄目でしたか?」
「抜くんじゃねーぞ」
「鮮花その衣装は自分で?」
「衣装じゃねぇ。というか1枚も持ってないの? スカート」
「制服だけですね。普通そうでしょう?」
「まぁはそうだね……」
「ね~買おうよ。アレクシアに絶対似合う!」
「よくわかりませんが、鮮花が選んでくれたら……」
「えっ!? いいの!? お~! やった~! テンション上がるわ~! ははははは!」
着せ替えアレクシアタイム。
様々な過去のコーディネートから、たきなに似合う服を選んで着せる。今はパノプティコンシステムによるホログラムで好きな洋服のホログラムを買うのが一般的だが、鮮花とアレクシアはわざわざ実物の洋服を売っているお店に来ていた。
「これ……値段が当たり前みたいに10万超えてるんですけど」
「あー、最近はホログラムコーディネートが主流だからね。わざわざその形の実物の洋服を買おうとすると、それくらい飛ぶ飛ぶ」
「持ち合わせが……」
「チッ、チッ、チッ、私にはこのカードがあるのですよ」
あが胸ポケットから取り出したのはパノプティコンシステムのマークが書かれた黒い電子カードだった。
「それは?」
「パノプティコンシステム公認の無制限マネーカード。勿論、本人のサイノマティックスキャンが同一人物でないと使えないようセキュリティロックがかけられてる。これがあれば買い放題だよ」
「そんなものが……」
「これも特権ってやつだね」
「でも、どうしてわざわざ実物を? 普通にホログラムでいいんじや」
「オシャレした服装が必要なときもあるのよん。例えば、潜入や張り込みや追跡だったりね。そういうときに改造できるように実物の方が都合良い」
「なるほど」
そうして女の子同士のデートは続く。そしてカフェテリアにて。
「あのね、女の子にデートを誘ったからには男の子には一瞬足りても退屈させない義務があるんだけど?」
今、鮮花は大層不機嫌そうな顔をして、ジュースを飲んでいた。
そもそも何故二人でデートを開始したのかは、アレクシアの方が聞きたいぐらいであった。
「いやいや、誘ったのは鮮花の方でしょ。そもそもいきなり服を買いに行くとか意味がわからないですから」
「器の小さい! 小さい事を愚痴愚痴と女々しいわぁ!」
「いや、どう見ても小さくないから。とても重大な事態だと私は確信しているのですが」
今の処、終始、不遜極まる鮮花のペースに乱されている。
アレクシアはアイスコーヒーを飲みながら、油断無く彼女を凝視し続ける。
ココアを頼んで優雅に飲む彼女は中々絵になっているが、彼女は少なくとも世界の九割を破滅に追い込んだ悪女であり、今はパートナーだが、世界的に見れば現状では意図が掴めない潜在的な敵である。
「世界の治安の事なら心配しなくて良いと思うよ。どうせ三大システムが先手打つだろうから。このまま世界が争っても、この国に良いことは無いでしょう。この国に私がいるんだもん」
「……自身が世界から狙われてるって自覚あるんですね」
「ただのハッタリかましてる情報通なだけかもよ。一般人にも私達のことを知ってる人たちはある程度いるしね」
彼女は此方をからかうように余裕綽々と笑う。
その表情には清々しいぐらい純然なる邪悪が滲み出ており、あろう事か様になっている。女悪魔か、女魔王という処か?
「……単刀直入に聞きますが、何が目的ですか? 私にそこまでする理由がわかりません」
「私が他の人達にしてきたように罠を仕掛けているとでも? ならその安易な考えは失望の極みかな。女性の繊細な気心を察するのが良い男の第一条件だよ?」
「私は女ですが。それに私は腹黒い女の内心なんざ解りたくもないんですけど?」
「女の子はね、何歳になっても心は乙女なのよ? 減点」
「……まぁ、私も人の金で飲み食いしている奴の言葉じゃないですけどね。貴方はまるで物語の主人公みたいですね」
「興味深い話だね。たきなにとって『主人公の条件』とは何だと思う?」
アレクシアの呟きに興味津々と言った具合に話に食いついてくる。
冷徹無比な悪女かと思いきや、今みたいに童女のような反応も返す。何方も彼女の一面という事なのだろうか?
「今まで一度も考えた事の無い話題ですね。ううん、一番強くて運が良くて格好良くてモテモテとかそんなもんでしょうか?」
ドラゴンボールの孫悟空、ラッキーマン、数多のギャルゲー主人公を適当に思い浮かべながら返すと――千束は物凄く不機嫌そうに口を尖らせて沈黙する。
無言の抗議である。元が美少女なだけに様になっていて恐ろしい。茶化す場面では無かったようだ。少しだけ反省する。
「わかりました。真面目に考えるからそんな顔しないでください。――そうですね、『異常』である事かな?」
「ほほう、その心は?」
「平凡な奴では務まらない。異彩を放つ何かを持っているというのは、他人とは外れた部分を持ち合わせているという事になるんじゃないでしょうか?」
こういう主人公と言えば『HUNTER X HUNTER』の『ゴン』とかが当て嵌まるんじゃないだろうか?
あれは一見して正統派な主人公だが、内面は一番イカれている代表例である。
「面白い意見ねぇ。他の人間より優れた部分を『異常』呼ばわりかぁ。中々洒落ているね」
「そういう千束はどうなんですか? 人に聞くからには自らの解答ぐらい用意してるんでしょう?」
アレクシアは適当に話題提供、話を繋げながら相手の性格・嗜好などを探っていく事にした。
こういう他愛無い会話に重要な要素は含まれている事だ。気づくか気づかないかは別次元の問題だが。
「その物語に対する『解決要素』を持つ事が『主人公の条件』かな。強さは必要無いし、異性を惹き付ける何かも必要も無い。物語という立ち塞がる『扉』の前に『鍵』を持っていれば良い」
「何だかかなりメタ的な要素ですね。……その定義からすると、この世界の主人公は誰になるんですか?」
巻き込まれ型の主人公を全否定する身も蓋も無い定義である。でも、その手の主人公は読者と近い立場を取る事で物語に感情移入させる目的なのが多いか。
「この世界はラジアータ、パノプティコンシステム、タナトスが主人公かな。あのシステムがある限りなんでも勝手に解決する。故に主役という駒は実は不在なのよ。私達人間の役割は解決が約束された舞台を踊るだけ――『道化』だね」
清々しいまでに良い笑顔である。たきなはこういう笑顔をする女性には金輪際近寄りたくないものである。
「そんな舞台だからこそ、舞台裏で蠢く根暗な『指し手』が好き勝手に暗躍出来るのよ。チェスの盤上のように物語を見立て、複数のプレイヤーが同時進行で手を打って状況を動かす。中には一人で勝手に動く駒もあるけどね」
そして鮮花は「そういう奴に限って戦術で戦略を引っ繰り返すイレギュラーだったりするんだけどねぇ」と愉しげに付け加える。
そんな『コードギアス・反逆のルルーシュ』に出てくる『枢木スザク』みたいな厄介な人物が実際に居るのだろうか?
「――鮮花にとって、人の命とは何なんですか? どの程度まで軽く映っているんです?」
「人の命なんて単なる消耗品よ。当然、他人も自分も等しくね――私の行いは間違い無く『悪』だよ。法のもとに行われる行為は等しく正義なんて、青臭いことを言うつもりもないし」
「つまり、私達も悪だと?」
「さて、それは本人が決めれば良いと思うよ。善悪正義悪なんて、結局のところ主観によるものだし。私は私のことを悪だと思っているけど、人によっては正義と言う人もいる」
「よくわからないです」
「別にわかる必要はないけどね……ねぇ、アレクシア周囲を見て何か思わない?」
「え?」
そう言われてたきなは周囲を見渡す。
「何かあるんですか?」
「エージェントに、ドローンに、軍人まで。この世界に溶け込んでいる」
「まさか! どこですか!? 私達を狙って?」
「んにゃ、この感じだと大規模な作戦の準備段階ってところかな。対象は……あの駅が怪しいね。明らかにドローンが多くて、道を塞いで誘導している」
「なにかの事件が起こると?」
「もしくは起こさないようにしようとしているのか……んっ!! アレクシア!!」
鮮花がアレクシアの手を取って窓から離れる。
ドン!! と。
地下鉄への入口が光り輝き、爆風が噴出した。それによって喫茶店の窓ガラスが割れて、鮮花がアレクシアを誘導しなければ爆風に巻き込まれていただろう。
「テロ?」
「銃はぬーかーない! 今日は他の人に任せよう」
「でもっ!」
「今日はオフだよ? それに私にもたきなにも連絡がないってことは、飛び込まない方が良いってシステムが判断したって事でしょ。事後処理は任せて帰ろうか」
「わかりました」
「そんな不満げな顔しーなーいっ! オフはオフ、仕事は仕事って割り切ろうね」
「……はい」
そう言って二人は帰路についた。