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「お、来た」
駅の改札内で待っていると、予想通りの軽装備な男が現れた。
「お前、荷物多いな。何入ってんの」
「色々と必要なんだよ」
「一泊二日なのに?」
変なものでも見るかのように俺の荷物を睨みつける。俺の荷物はキャリーバッグとリュックだが、こいつはリュック1つと、まるで旅行の荷物とは思えない。
「まぁいいや、行こうぜ」
改札を入り、駅のホームまで歩いていく。こいつはあくびをしながら電車を待っていた。朝早いからな、眠いんだろ。
目的地の旅館は海沿いにある。窓から見える景色もかなり良いらしく、そのぶん金額もビジネスホテルとは比べ物にならないくらいなのだ。
そんなところへタダで行けるのだと思えば、こいつが誘いに乗ってきたのは当然だろう。
旅館の最寄り駅までは電車で2時間ほどで、鈍行だから着くまでとてつもなく暇だ。途中乗り継ぎもあるけれど、ほぼ電車内にいるため、やることがない。
「なぁ」
車両の端の席に座っていると、眠そうな声で話しかけられる。
「眠いから寝るわ。着いたら起こして」
あー、このパターンね。こいつには道中も楽しむつもりはないらしく、マイペースにそう言い放った。
「わかった」
かく言う俺も、こいつと楽しい話を繰り広げられるほどトーク力に長けているとは思わないので、すぐに目を閉じる奴の邪魔をしないように、音楽を聞きながら窓の外をぼーっと眺めていた。
しばらくすると、高速と並走するような線路を走っていた。目の前に見える青くて広い景色。俺は思わず横で寝てる奴の肩を叩き起こした。
「あろま!起きろ!」
その衝撃に驚いたのか、一瞬体をビクつかせ、そっと目を開けた。
「んだようるせぇな」
「おはよ」
「着いたら起こせっていったじゃん。まだついてねーべ」
「それはごめん、でもさ」
見える景色の方向を指差す。
「あー…」
「いい景色でしょ?」
しばらくぼーっとしていたと思ったら、ふふっと隣で笑っている。
「おい、どうした、急に笑って」
「いや、なんかさ。来てよかったなって」
うわー…こいつがこんなこと言うなんて…
今日は槍でも降るんじゃないだろうか…
「景色めっちゃいいじゃん。旅館からも見えるんだろ?最高かよ」
目に見えてテンションが上がっているこいつの姿を見るのは初めてだった。そんなに旅行が楽しみだったようには見えなかったのに。
そんな姿を見て、俺も思わず笑ってしまった。
「ふふっ」
「おい何笑ってんだよ」
「なんでもない」
「変なやつ…」
他のメンバーではこんな和やかな雰囲気にはならないだろうなと思った。少しぶっきらぼうだけど、それなりに楽しんでくれていると思うと、誘ってよかったと安心した。
To Be Continued…