テラーノベル
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「大丈夫、大丈夫だよ? ごめんね、よく話してくれたね?」
一通り話し終えた女子生徒の肩は、小刻みに震えていた。
これを幼なじみがそっと包み込んだところ、しゃくり上げるような嗚咽が聞こえてきた。
そういった体験をすれば、気弱になるのも無理はない。その心情は察するに余りある。
「無理して話してくれたんだね……。 ごめんね?」
手を差し伸べ、背中をやんわりと擦る。 ひどく華奢な背中だ。
「このこと、先生には?」
「ううん、伝えてないって」
「そっか………」
賢明な判断だと思う。
いつの世も、頭の固い大人はいるものだ。 変な顔をされるのがオチか、最悪この後の学校生活にも響きかねない。
逆に、もしも事態が大事になった場合も同じく、彼女の平穏が遠退くのは目に見えている。
「……なんで幸介も泣いてんのさ?」
「いや、違ぇ………」
感受性の強い幼なじみはひとまず置いておくとして、頼られた私たちはどのように動くべきか。
お化けとやらの正体を突き止めるのは当然だが、彼女のケアも必要だろう。
「お化けなんてね、すぐに撃退してあげるから! こう、バシッて! ね?」
「お化けって……、殴れるの……?」
「う……っ?」
やや空回り気味に落ち着かせようとする珠衣の配慮を、至極もっともな反応が敢えなく粉砕した。
いまだ涙を両目いっぱいに溜めているが、この敏感な切り返しを見るに、そこまで深刻に考える必要はないか。
もちろん、臨床心理の分野には頓と疎いので、早合点するわけにはいかないが。
「私たちが何とかするから、安心していいよ?」
「本当、ですか………?」
安請け合いというものは、正直に言って私の柄じゃない。
しかし、か弱い後輩にこうして頼られた以上、ひと肌脱がない訳にはいかないだろう。
何より、彼女の有様を見て行動を起こさないのは、人道に悖る気がしてならなかった。
「だからね、もう泣かないで? ほら、今度出るんでしょ? 朗読会。 大丈夫だから、切り替えよう」
「ん………」
男性は女の涙に弱いというが、それは女性たちも同様なのである。
むしろ同じ精神構造をしている以上、その重みが手に取るように解ってしまう。
「すげぇよな。 朗読会ってこういうのだろ?」
「ぇ……? なんですか、それ………」
ともかく、問題解決を引き受けたからには、それなりの計画を立てないと。
お座なりでは済まされないし、失敗は許されない。
しかし、私たちに出来るのか?
縦しんばお化けの正体を解明することが叶ったとして、根本の解決にはならないだろう。
“もう何の心配もないよ?”と、この女子生徒にきちんと明示するにはどうすれば良いか。
お化けを殴る。お化けを、殴る。
先ほど幼なじみが口走ったセリフを、心の中で反芻する。
すぐに思い至った。
そういった事が出来そうな知己に、心当たりがある。
「………………」
ただ、ひとつだけ不安がある。
本当に、彼女に協力を仰いで良いものだろうか?
人ならざる身でありながら、なぜか日頃から“お化けが怖い”と明言する彼女である。
『穂葉の“お化け怖い”な、饅頭怖いと同いだぜ? 意味的には』
いつぞやの事、他ならぬ彼女の実父が苦々しい口振りで唱えた言葉が、警告灯のように脳裏にチラついた。