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昨日の騒動から一夜明け、私は再び王宮の庭園へと降り立っていた。
目に鮮やかな緑と、鼻をくすぐる芳醇な薔薇の香り。
本来なら優雅なティータイムを愉しむべきシチュエーションだけれど、今の私にそんな余裕はない。
今日の目的はただ一つ。
ヒロイン・マリンとの「友情フラグ」を盤石なものにすること!
(見てなさい……! 私の課金知識と全ルート踏破した記憶を総動員して、マリンを世界一幸せなヒロインに仕立て上げてみせるわ!)
気合十分な私の数歩後ろには、今日も今日とて鉄壁の守護者、レオン様が控えている。
カチャリ、カチャリと鎧が鳴るかすかな音。
背中に突き刺さる彼の視線が、なんだか昨日よりもネットリと張り付いている気がするけれど……
今は無視よ、無視!
推しの視線は「守護」! そう、「守護」なのよ!
「あ、メリッサさん……!」
ガゼボ(東屋)の近くで、私を見つけたマリンがパッと顔を輝かせた。
昨日の、怯えて震えていた様子が嘘のようだ。
「ごきげんよう、マリンさん。昨日はゆっくり休めたかしら?」
「はい! それよりも、あの……これ、お近づきの印にと思って」
はにかみながら差し出されたのは、素朴な刺繍が施された小さな紙袋。
中からは、香ばしく甘い香りが漂ってくる。
どうやら手作りのクッキーのようだ。
(あ、これ……見覚えがある)
ゲーム内の設定じゃ、マリンは実家が貧しくてお菓子作りが得意な努力家。
このクッキーは、本来ならレオン様との親密度を一気に爆上げするための重要アイテムのはず……!
「え、私に? レオンに渡して欲しいってことかしら?」
私が確認すると、マリンはぶんぶんと首を横に振った。
「も、もちろんお二人で食べていただきたいですが、最初にメリッサさんに食べていただきたくて……!」
(順番が違う、順番が!! )
(本来ならここでレオン様に渡して『マリン様の作る菓子は、どれも温かい味がします』とか言われて赤面するイベントでしょうが!)
「……ふふっ、嬉しいわ、ありがとう」
期待とは違う展開に戸惑いつつも、私はすかさず、遠目にレオン様をチラリと見た。
さあレオン様、ここでマリンの健気さにキュンとして!
「僕の分まで用意してくださったのですね」って、優しい声を出して! さあ!
しかし、私の熱い視線を受けたレオン様は、クッキーには一瞥もくれなかった。
ただ、私だけをじっと見つめたまま、低く、重厚な声で答えた。
「……私の職務は、主である貴女を守ること。当たり前のことをしたまでですよ」
(あああ、真面目! 堅物! でもそこが最高に尊い……! けど今は空気を読んで! ヒロインからの好意を無下にしないで!)
私はめげずに、マリンの小さくて柔らかな手をギュッと握りしめた。