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「すみません、お忙しいところ。常磐先生がこの近くでお仕事があるって聞いたんで、来られるなら少し話しができたらと思って……」
「構わない。どうした、涼平?」
いきなりスクールの事務所に呼び出されて驚いたが、何か大切な話があるんだろうと思った。普段は無いことだから、無理やり時間をこじ開けてやってきた。
「あまり時間が無いと思います。だから、単刀直入に言います」
「……ああ」
「僕は双葉さんが好きです。でも、双葉さんに気持ちを伝えたら、自分が好きなのは理仁さんだって言われました」
え……
そんな話を……?
「結仁君は常磐先生の子どもなんですよね?」
「……ああ。結仁は俺の子どもだ」
「……」
「涼平には申し訳ないが、双葉も結仁も、俺にはかけがえのない存在だ」
こんな大事な話、本当なら誰にもしない。
今、こうして話せるのは、俺が涼平を弟みたいに思ってるからだろう。
「そうですよね。すみません、こんなプライベートなことを、しかも尊敬する常磐先生に突然話して。あっ、もちろん、自分が常盤先生に敵うなんて思ってませんよ。でも……それでも僕は双葉さんのことが好きなんです」
真っ直ぐに俺の目を見て話す涼平。
双葉への想いが嘘ではないことが伝わってくる。
俺は、何も気づいてなかった。
やはり動揺してしまう。
「……そうか。涼平の気持ちは嬉しい。お前が双葉を大切に思ってくれることは感謝したい。でも、男としては絶対に譲れない。どんなことがあっても双葉だけは渡さない」
「……ですよね。わかってます。他の男なら、双葉さんを奪いたかったです。でも、先生からは奪えませんよ。僕のこと、いつも励まして支えてくれた恩人ですから」
「涼平……」
「残念です。双葉さんの相手があなたで。最強じゃないですか、そんなの。僕なんかに勝てるわけがない……」
普段明るい涼平の、こんなにも寂しい顔を見るのは初めてかも知れない。
とても心が傷む。
「すまない。俺はお前のことを弟のように思ってる。涼平のことも大切なんだ」
「ありがとうございます。そう言ってもらえて嬉しいです。でも、僕は双葉さんのことをすぐに忘れることはできないし、これからもきっと想い続けます。常盤先生を困らせるようなことを言ってるって自覚はあります。でもこの気持ちはどうにもなりませんから。本当に……すみません」
「誰かを好きになる気持ちに嘘はつけない。それは、よくわかるつもりだ」
「こんな気持ちで、僕は……このままTOKIWAスイミングスクールにいてもいいんでしょうか?」
「当たり前だ。お前にはずっといてほしい。TOKIWAスイミングスクールにとって、涼平はなくてはならない存在だから」
「常磐先生……」
「ここ最近、ずっと考えていたんだ。そろそろ涼平にはオリンピックを目指せるような選手を育ててもらいたいって。でも、自分自身も今よりハードな練習が必要になるし、色んな勉強も必要だ。簡単なことじゃない」