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「明日には帰っちゃうなんて……。せっかく会えたのに、何だか寂しいね」
そう言って俯いた河原さんは、受け付けの横でピタリと足を止めた。
「……今度、遊びにおいでよ」
「え……? っ、うん」
ほんのりと赤く頬を染めると、嬉しそうに微笑んだ河原さん。そんな姿を見て、やっぱりまだ好きだな、と改めて思う。
「……ねぇ、公平くん。隆史くん、何処にいるか知らない? 一緒に帰る約束だったんだけど……見当たらなくて」
「さぁ……。俺は告別式で見かけたきりだから……分からないなぁ」
「そっか……」
「俺が送るよ」
「っ、うん。ありがとう」
照れたようにして微笑む河原さんを横目に、歩き出そうと右足を一歩前へと踏み出した——その時。
俺の目前で何かが落下し、ポトリと地面へと落ちた。
地面に転がる、見覚えあるポーチ。
(これは……智の……? あの時……確かに、井戸の中へ捨てたはず……。空から、降ってき……、た……? っ、え……?)
俺は震える手でポーチを拾い上げると、先程見た猫の死体と、昨日拾った靴のことを思い返した。
その全ての出来事を思い返しながら、ガタガタと小刻みに震え始めた俺の身体。
(じゃあ……。次に、降ってくるのは……っ)
俺は強張る身体をゆっくりと動かすと、絶望に満ちた瞳で空を見上げた。
頭上に広がるその空は、そんな俺を嘲笑《あざわら》うかのように不気味な色で覆われ——それはまるで、底なしの井戸の中のようだった。
——完——
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