テラーノベル
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夏休み直前の金曜日。
僕は朝からそわそわが止まらなかった。
昨日、思い切って襟足まで伸びた髪を、
ばっさり切って短くした。
鏡を見ても、自分じゃないみたいで、
今朝は母親と妹に『すっごい可愛いね!』と
大騒ぎされた。
学校に着くなり、
いつも通りに済ませたいのに、
クラスメイトがざわっと集まる。
『うわ、元貴、髪切ったの!?』
『めちゃくちゃ似合ってる!』
『なんか中性的っていうか、
アイドルっぽくない?!』
涼ちゃんまで、
『やば!アイコン書き直さなきゃ!』と
スマホを構える騒ぎぶり。
女子も男子も、思い思いに声をかけてくる。
やっぱり目立ちすぎたかな…
照れたように笑うしかない。
休み時間になると、他のクラスの知り合い
まで窓から覗き込んでくる。
そんな中、若井はノートを忘れた、
と言って教室にふらりと現れる。
周りの盛り上がりに一瞬眉を顰め、
みんなに囲まれる僕の姿を、
じっと見つめていた。
昼休み、
相変わらず仲間に囲まれて落ち着かない。
遠くから若井の視線をビシバシ感じる。
つい目が合った瞬間、
『おい、元貴、ちょっと来い』と
強めの声で手を引かれる。
元貴『え……?』
滉斗『いいから』
そのまま若井は、
人目もある廊下をずんずん歩き、
下駄箱近くの曲がり角――
でもちょうど上級生が集まる人気の廊下――
まで僕を連れていく。
元貴『わ、若井、ここ……!?』
滉斗『うるせぇ』
突然、若井が両手で僕の頬を包み込む。
驚く僕の顔を上向かせたまま、
思いきり深く、甘いキスを重ねる。
じゅわっと熱が舌まで伝わってくる。
最初は驚いて固まってしまった僕も、
やがてそっと目を閉じる。
周りのざわめき。
『あれ、若井!?』『え、ちょっ…元貴?』
生徒たちの視線すら、
もう若井には関係なかった。
キスが終わったあと、
僕は頬を真っ赤に染めて、
若井の制服をぎゅっと掴んだ。
元貴『……やりすぎ、だよ…!//』
滉斗『…今にも、誰かに取られるかと思った、
耐えられない…元貴が可愛すぎるのが悪い、
全部俺だけのもんだからな、』
僕の唇には、まだ甘い余韻が残っている。
元貴『…独占欲強すぎ、///』
滉斗『元貴が全部好きって言ったくせに、』
周囲の視線は痛いほどだったけど、
若井の腕の中で、
僕は少し幸せそうに微笑んだ。
――思いきり愛されている、
恥ずかしくても、みんなの前だとしても、
それが少し嬉しかった。
甘くて強い、夏の予感。
誰にも知られたくなかったはずの“好き”が、
廊下中に広がっていく。
コメント
4件
わぁぁぁ2話更新ありがとうございます🙌 若井さん独占欲強いの最高だし、やっぱりギャラリーは付きものですね✨ 周りの目を気にしないくらい世界に入ってる2人が微笑ましいです☺️ しかも襟足切った大森さん現実にいるから想像しやすくてありがたいです(?)続き楽しみにしてます!