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第二章
第九話 帰る場所
翌朝。
ダイチは制服へ着替えながら大きく欠伸をした。
「眠っ……」
昨夜は旅のことばかり考えてしまい、なかなか寝付けなかった。
窓の外では青空が広がっている。
絶好のサボり日和やなぁ。
そんなことを考えながら階段を降りる。
「ダイチ」
朝食の席で父に名前を呼ばれる。
「学校をサボるなよ」
「なんで分かったん!?」
思わず立ち上がる。
コバルトは紅茶を飲みながら平然と言った。
「顔に書いてある」
「書いてへんやろ!」
向かいではアズールが吹き出してる。
「書いてあるわよ」
「姉ちゃんまで!」
賑やかな朝だった。
◇
ラディスの学校は街の中心部に建っている。
貴族。
役人。
裕福な商人の子供達。
将来ラディスを支える若者達が学ぶ場所だ。
ダイチにもそれなりに友人はいる。
だが、苦手な連中もいた。
「おい、ダイチ」
教室へ入り席へ着いたところで声が掛かる。
聞き慣れた声だった。
ダイチは露骨に顔をしかめる。
「……何や」
振り返る。
そこにはジャンが立っていた。
明るい緑色の髪。
同じ色の瞳。
東門近くに屋敷を構える貴族家門の息子だ。
そして
幼い頃からの因縁の相手でもある。
「今日はちゃんと授業受けるのかよ?」
ジャンがニヤニヤ笑う。
「どうせまた抜け出すんだろ?」
「別にええやろ」
「黒髪んとこ行くんだ?」
ダイチの表情が消えた。
「……」
「おまえらマジで仲良しだなぁ」
わざとらしい笑み。
昔から変わらない。
ジントをからかい。
石を投げ。
不吉だと言って笑っていた。
その度にダイチは殴りかかった。
一度や二度ではない。
教師室へ連行された回数なら数え切れない。
ジャンは知らない。
ジントがどれだけ優しいか。
どれだけ努力しているか。
何も知らない。
「……お前に関係ないやろ」
低い声で言い返したところで鐘が鳴った。
教師が教室へ入ってくる。
ジャンは肩をすくめながら席へ戻っていった。
◇
「はぁぁぁ……」
午前最後の授業が終わる。
ダイチは机へ突っ伏した。
「無理や……」
隣の友人が笑う。
「まだ午前だぞ」
「剣術や体術なら頑張れるんやけどなぁ……」
歴史。
数学。
政治。
嫌いではない。
嫌いではないのだが。
じっと座っているのが苦手だった。
窓の外を見る。
青空。
風。
外へ行きたい。
その時だった。
「ダイチ君!」
数人の女子生徒がやってくる。
皆少し顔が赤い。
「今日お昼一緒に食べない?」
「また外行くの?」
「たまには付き合ってよ」
ダイチは苦笑する。
「あー、ごめん」
「今日も用事あんねん」
「えぇー!」
不満そうな声が上がる。
「また今度な!」
手を振る。
女子達は残念そうに教室を出て行った。
それを見送って。
ダイチは小さく息を吐く。
「さて」
立ち上がる。
「昼休みや!」
◇
馬を走らせる。
向かう先は決まっている。
途中
いつものパン屋へ寄るのも忘れない。
「あらダイチ君!」
おばさんが笑う。
「今日も薬屋かい?」
「せや!」
「若いねぇ〜」
「何がやねん」
意味深に笑われた。
なんか納得いかない。
◇
カランカラン。
薬屋の扉を開く。
「こんにちはー!」
「おや」
マーサが振り返った。
「また来たのかい」
「またとは何やねん」
「昨日も来たろ」
「昨日は別件や!」
マーサが笑う。
その笑い声を聞くだけで少し安心する。
「今から昼飯や」
「一緒に食べてきな」
「ええの!?
パンも買ってきたで!」
奥から足音が聞こえる。
「ダイチ?」
ジントだった。
皿を運びながら首を傾げる。
「学校は?」
「昼休みやから抜けてきた」
「また?」
呆れたような顔。
けれど少し笑っている。
それを見るだけで嬉しくなる。
ーーー
昼食はいつも通りだった。
温かいスープ。
焼きたてのパン。
採れたての野菜。
豪華ではない。
けれど美味しい。
「今日な、ジャンがまた絡んできてん」
「ああ……」
ジントが苦笑する。
「相変わらずだね」
「ほんま嫌なやつや」
「ダイチもすぐケンカしないでよ」
「だってあいつお前のこと言うやん!」
ジントが少し困ったように笑う。
マーサは微笑んでいた。
何気ない会話。
何気ない時間。
でも、ダイチは思う。
やっぱりここが好きだ。
学校より。
屋敷より。
ここにいる時が一番落ち着く。
◇
気付けば昼休みは終わりに近付いていた。
「そろそろ戻らな」
立ち上がる。
「また来るからな」
「うん」
ジントが頷く。
「ちゃんと勉強してきなよ」
「それは保証できへん」
「ダイチ」
「冗談やって!」
笑い声が響く。
ダイチは馬へ飛び乗った。
手綱を握る。
振り返る。
薬屋の前でジントが手を振っている。
マーサもいる。
「行ってきます!」
馬が走り出す。
風が頬を撫でる。
学校は面倒だ。
勉強も苦手だ。
でも、あと少し頑張ればいい。
その先には。
ジントとの旅が待っているのだから。
ダイチの青い瞳は、
これから始まる未来へ向けて、キラキラと輝いていた。
コメント
1件
読了しました〜! 第17話、ダイチの日常がぎゅっと詰まってて、すごく温かい気持ちになりました🥺 ジャンみたいな嫌な奴は確かにいるけど、それでもジントとマーサのいる薬屋に行けるって思うだけで頑張れるの、すごく分かります。 「帰る場所」ってタイトル、まさにここだなって。 何気ない昼食のシーンが一番沁みました。旅への期待に目を輝かせるダイチ、眩しいです! 次も楽しみにしてます☺️
#見て
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