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12月初旬――。
「ふふふ……。冬合宿の予定は固まったし、理事長からの許可も下りた。楽しみだなぁ」
龍之介は学園内を歩きながら、嬉しそうに呟く。
桃色青春高校の野球部は、彼を除いて全員が少女である。
彼が楽しみにするのも当然と言えるだろう。
それに、純粋に野球へ打ち込めるのもありがたい。
「まだ冬合宿までは時間がある。それまでにしておくべきことは……」
龍之介は呟きながら、歩き続ける。
2099年の今でも、高校野球の晴れ舞台は甲子園である。
夏大会と春大会がある。
100年以上前から続く伝統だ。
だが、桃色青春高校は秋大会の3回戦で敗北した。
これでは、春の甲子園に出場できる機会は限りなく低い。
推薦枠というものも存在するが、その倍率はとんでもなく高い。
桃色青春高校が次に目指すのは、半年先の夏大会になるだろう。
「夏大会まで時間はあるが……。早めに新部員の勧誘をしておきたいな……」
桃色青春高校には、各種の競技で優秀な成績を残した少女が集まっている。
だが、野球に関しては未経験な者ばかりだ。
夏大会の直前に入部してもらっても、即戦力になるとは限らない。
「空いているポジションは……セカンド、サード、ライトだな。その3つが埋まれば、チームの穴が塞がってくる。それに適した人材がいれば理想的なんだが……。ん?」
龍之介が考え事をしながら歩いていると、いつの間にか第二体育館までやって来ていた。
中から元気な掛け声が聞こえてくる。
「第一体育館では、バレーボール部のユイを勧誘したんだったな。しかし、第二体育館はまだ見ていない。よし……ちょっと覗いていくことにしようかな」
龍之介はそう決めると、体育館の扉を静かに開けた。
「えへへ……。マキちゃんのぉ! 必殺・スピニングロータスぅ!!」
「なっ!? 凄まじい技のキレだな……!」
第二体育館に入った龍之介は、そこで衝撃的な光景を目にした。
ピンク色の髪をした少女が、凄まじいスピードで回転しリボンを振るっている。
そのリボンは、まるで生きているかのように複雑な軌道で動いていた。
(あの女子は……新体操部か? 練習のときもしっかりとレオタード姿とは……。なかなか刺激的な部活動だな)
龍之介は感心しながら、彼女の練習を見守る。
レオタードの食い込みがとても煽情的だ。
少女の外見年齢は幼いのだが、それが妙な背徳感を醸し出している。
しばらくして、龍之介の視線に気付いたのか、彼女がリボンを振るいながら近づいてきた。
「あれれ~? お兄さんは誰ですかぁ?」
「おっと悪い。俺はこの学園の生徒でな……。君の練習の邪魔をするつもりはなかったんだ。許してくれ」
「別にいいですよ~。マキちゃんは、1年のマキちゃんですよぉ。よろしくで~す」
「そうか……。俺は2年の龍之介だ。よろしく頼む」
「りゅーさんですね! 覚えたのでぇ、また遊びに来てくださいね~!!」
マキと名乗った少女はそう言うと、練習に戻っていく。
龍之介は、その後ろ姿を見ながら呟いた。
「今の女子……。かなり可愛かったな」
マキの外見はかなり整っていた。
アイドルでも十分に通用しそうなルックスである。
(しかも、新体操の動きも素晴らしかった。あれを野球に活かせれば、あるいは……)
龍之介はそんなことを考える。
そして、今日のところはスカウトに動かず、大人しく第二体育館を後にしたのだった。