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「さて、今日も新体操部の練習を覗いてみるか」
放課後――。
龍之介は第二体育館の近くまでやって来た。
お目当てはもちろん、1年生のマキである。
「お、いたいた。マキちゃんは今日も元気そうに練習しているな」
レオタード姿の彼女が、リボンを手に舞うように動き回っている。
その技術力はとても高く、龍之介は思わず見惚れてしまった。
「あれなら、新体操の大会でも間違いなく上位にいけるだろうな……。容姿も優れているし……」
龍之介はマキを改めてじっくり観察する。
ピンク色の髪をした彼女は、とても可愛らしい容姿をしていた。
「あの技術力と可愛さなら、コーチからも高く評価されているだろう。……ん?」
龍之介がそう呟いた瞬間――。
体育館内に怒声が響き渡った。
「マキ! そんな演技ではダメだ! 何度言ったら分かるんだ!!」
「ううっ……。ごめんなさい、コーチ……」
マキが謝罪する。
どうやら彼女は、女性コーチに叱責されているらしい。
先ほどまでの元気はどこへやら、すっかり落ち込んでしまっている。
「何かあったのか? コーチも、あんな怒鳴らなくてもいいのに……」
龍之介が眉を顰める。
すると、女性コーチがこちらに気付いた。
「ん? お前は……2年の龍之介だな?」
「あ、はい。そうですけど……」
「ちょうどいい。お前からも言ってやってくれ! マキのあの演技はダメだと!!」
「……どこがダメなのでしょうか? とても可愛らしくハイレベルな演技でしたが」
龍之介が訊ねる。
すると、女性コーチは龍之介の意見が気に入らなかったようで、彼を睨みつけた。
「正直に言ってみろ。お前はこの高校で、唯一の男子生徒。だからこその視点もあるはずだ」
「しかし……」
「これはマキのためでもある。男子生徒から言われた方が、素直に聞き入れるかもしれん。どうだ? 教えてやってくれ」
「マキちゃんからも……お願いしますぅ」
女性コーチに加え、マキも懇願する。
2人からの懇願に、龍之介が折れた。
「分かりました……。では、素人意見ですが」
そして――彼は思ったことをそのまま口にした。
「エロさが足りませんね」
「はぇ?」
マキが呆けた顔をする。
龍之介は気にせず続けた。
「もう少し、エロさを全面に押し出した方がいいんじゃないでしょうか? マキちゃんはとても可愛らしいですけど、それは子どもっぽさとも取れます。大人っぽい雰囲気を演出した方が、よりエロさを引き出せると思いますよ?」
「うむ。まさにその通りだ。あまりにも直接的すぎる指摘ではあるが……よく言ってくれた」
龍之介の言葉に、女性コーチが頷く。
マキは暫く呆けていたが――
「な、なななっ!? なんでそんなこと言われないといけないんですかっ!?」
ようやく我に返ったらしい。
顔を真っ赤にして、龍之介に抗議する。
「なんでって……。エロさが足りていないのは問題だろ? 男子生徒を欲情させるには、エロさが大切だ」
「よ、よくじょう……!? マキちゃん、そんなの要りませんっ!!」
マキが泣きそうな顔で叫ぶ。
そして、体育館から走り去ってしまった。
そんな彼女を見て、女性コーチは溜息を吐く。
「やはりこうなるか……。私が言っても、いつもああなるんだ。男子生徒から言われると納得してもらえるかと思ったが、逆効果だったようだな」
「そうだったのですか。……俺が追いかけてフォローしておきます」
「ああ、頼んだ」
龍之介は、体育館を飛び出す。
そして、マキを探して走り回るのだった。
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