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※登場人物の名前や建築物の名前は実際と は関係がありません。
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放課後の教室はいつもどこか別の世界のように静まり返っている。
遠くで聞こえる吹奏楽部の不揃いなチュ―ニング音と、グラウンドから響く野球野球部の掛け声。それらが窓ガラスに遮られ生ぬるい秋の空気と一緒に教室の隅で錠んでいた。 少年は自分の席に忘れた数学のノ―トを取りに戻り、そして彼女を見つけた。
逢城港(あいじょう みなと)。
普段はおとなしく、休み時間は決まって自分の席で文庫本を開いている少女だった。
彼女は西日が差し込む窓際の席で細い両腕で自分の胸を強く抱きしめ、浅く、不規則な呼吸を繰り返しており、机の下には読みかけの文庫本が落ちていた。
「逢城?」
声をかけると、彼女の小さな肩がビクッと跳ねた。ゆっくりと振り返ったその顔は、元々白い肌がさらに青白く透き通っていて、まるで今にも消えてしまいそうな危うさがあった。
「…路灯、くん」
かすれた声には、どこまでも優しかった。痛みで顔を歪めているはずなのに、少年に向けられた瞳には怯えよりも、申し訳なさそうな色が浮かんでいた。
「大丈夫?具合が悪いなら保健室に先生 を…」
「ううん、大丈夫。ごめんね、 驚かせちゃ ったよね」
彼女は震える手で制服のポケットから小さなピルケ―スを取り出すと、白い錠剤をひと粒口に含み、水もなしに飲み込んだ。
数分。長い沈黙の後、彼女の強張っていた背中の力がふっと抜け、荒かった呼吸がゆっくりと一定のリズムを取り戻していくのがわかった。机の下に落ちていた本を拾い上げ、彼女の机に置く。
「…ありがとう。もう、平気。いつものことだから」
力なく微笑む彼女の唇には、まだ血ののぼっていない蒼(あお)さが残っていた。
「いつものことって、それ…」
「私ね、心臓少しだけ悪いの。生まれつき、ちょっとだけポンコツで」
自ちょうするような言葉選びとは裏腹に、その声はないだ水面のような穏やかさだった。クラスメイトの誰も知らない、彼女の隠された秘密。それを、偶然知ってしまった。
「だから、お願い。…先生や、クラスのみんなには秘密にしてくれないかな。私、かわいそうって特別扱いされるの、あまり得意じゃないから。」
夕日を背に向けた逢城の黒髪が、オレンジ色に縁取られて淡く光っていた。それは、ただのクラスメイトでしかなかった少年と彼女の間に結ばれた瞬間だった。
「…わかった。誰にも言わない。
僕と逢坂だけの秘密にするよ」
少年がそう答えると、彼女は今日一番の、そして少年が初めて見るような、ふわりと花が咲くような柔らかい笑顔を見せた。
「ありがとう、路灯くん…優しいんだね」
コメント
1件
優しい出会いでしたね…「かわいそうって特別扱いされるの、あまり得意じゃない」という逢城さんの台詞に、彼女の繊細な強さが一瞬で伝わってきました。夕日を背にした黒髪の輪郭が浮かぶ描写も美しくて、ふたりの距離が縮まる空気感が丁寧に紡がれているなと思います。この秘密がどう物語を動かしていくのか、とても気になります。