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「んっ…」
階段を下りると、急に胸が苦しくなった。足元がふらつき、慌ててそばの壁に手をついて身体を支える。
何だこれは?
「ジェシー、どうした?」
ふいに北斗の声が聞こえて、顔を上げる。衣装のTシャツを着た北斗が、俺の顔をのぞきこんでいる。
「いや、別に…」
俺らはたった今、ライブをアンコールまで終えて舞台を下りたところだ。
いつもは達成感と高揚感でいっぱいだけど、今日は違った。胸が苦しくて、息ができない。
「ちょっと、大丈夫?」
今度は高地の声だ。
大丈夫かなんて、自分でももはやわかんない。俺の頭は思考することをやめている。それでも、「何でもない」と声を出そうとするけど、いつの間にか身体を樹に抱かれていた。かなりギリギリの体勢で。
「っと、危ねえ。お前ヤバいな、息荒いし顔色最悪だべ」
どうやらこけてしまったらしい。確かに、真っ直ぐ歩けている感覚はなかった。
すると、スタッフさんもやってくる気配があった。
「どうしたんですか」
「ジェシーが過呼吸っぽくて…」
慎太郎が答えている。なるほど、この苦しさは過呼吸なのか。
「ほら、控室戻ろ」
大我の声がするけど、足が動かない。肺に空気が入らなくて、呼吸がどんどん浅くなっていく。
「おいジェシー……ちょっとダメだ、そこの椅子」
高地に半強制的に身体を引っ張られて椅子に座る。
「っはあ、はあ、はぁ」
呼吸の仕方を忘れたみたいだ。いつもどうやって息してたんだっけ。わかんなくなって、苦しくて、むせてしまう。
胸を掴んだら、その手を誰かに握られた。あったかくて少し骨ばった手。
「大丈夫だよジェシー、ゆっくり息しよ。深呼吸ね」
落ち着くような低い声は、北斗のものだった。
「吸って……吐いて……そうそう」
俺が北斗と一緒に息をしている間に高地が背中をさすってくれてるから、だんだん息が整ってきた。
「ケホッ…ふう…」
「そうだよ、よくできた。辛かったな」
北斗に頭をなでられ、恐怖が安心に変わる。
「はい、水飲みな。ゆっくりね」
慎太郎に差し出されたペットボトルを受け取り、冷たい水を身体に行き渡らせる。
「ちょっと誰か…北斗、ジェシーお願いできる?」
樹が言った。「俺ら片付けするから。着替えはあとでいいよ」
「行こうか。急がなくていいから」
背中に手を添えられながら、控室に戻る。やっと緊張の糸がぷつんと切れて、俺はソファーに倒れ込んだ。
「よく頑張ったね」
「みんなもだよ…」
それに北斗は小さく微笑しただけだった。
「少し休んだら、ゆっくり話そうか」
ああ、やっぱりメンバーならどんなこともわかってくれるんだ。グループ何年目かの発見をして、静かに目を閉じた。
続く