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Side 黒


「あれ、もう起きたの?」

ふとジェシーのほうを向くと、さっき眠ったはずなのに目を開けていた。

「ちょっと寝た?」

うん、と答えて腕を伸ばす。過呼吸になっていたときよりかは少し顔色が良くなったように見える。

「……ジェシーさ、さっきのライブ中けっこう音外しちゃってたでしょ」

ジェシーは俺のほうをちらりと見て小さくうなずいた。「うん…」

「歌詞も忘れちゃってたでしょ」

うん、と小さくつぶやく。

「引きずってるんでしょ」

それには答えがなかった。

「俺知ってる。お前が裏ではネガティブで、失敗とかよく引きずること。次が不安になること」

何も言わずに虚空を見つめるジェシー。俺は語を継ぐ。

「みんなも知ってるよ。表に立ってるときは最前列の真ん中で堂々としてくれてるけど、ほんとは繊細で、強がりで、緊張しいだってこと」

俺は立ち上がり、ジェシーの隣に腰掛ける。みんなは片付けが続いているのかまだ帰ってこない。

「そんなときには、深呼吸だよ。息も心も苦しくなりそうなときはゆっくり息すればいい。で、俺ら呼んで?」

ジェシーはおもむろに俺と視線を合わせる。

「何のためのメンバーだよ。ヒーローじゃねーけどさ、呼んでくれたらいつでも行くから」

ふふ、とジェシーの口から息が漏れた。そして唇が緩む。ステージを下りてから初めて表情が穏やかになった。

「よく頑張ってるよ、ジェシーは。ずっとね」

黒色に戻ったばかりの頭を、くしゃくしゃとなでる。髪がもじゃもじゃになって、どこか愛嬌が増した。

「…俺、頑張ってる?」

「うん。誰から見ても頑張ってる」

「…北斗もね」

急にそんな言葉が返ってきて、ちょっと恥ずかしくなる。

すると、控室のドアが開いてメンバーが顔を見せた。

「あ、もう大丈夫?」

京本が訊いて、ジェシーは笑顔になった。

「うん」

無理しているような笑みではないから、安心した。

「ったく、びっくりしたよ。まさかジェシーが過呼吸起こすとかな」

慎太郎がそう眉をひそめる。「珍しいってスタッフさんも言ってた。しっかり休んでって」

「確かにな。ほら、マネージャーさんもうすぐ来てくれるから早く帰れ」

高地が言って、置いてあったジェシーの私服を雑に投げる。

「わかったよ」

俺らもなるべく雰囲気が暗くならないように、いつものように喋り合う。辛さを忘れられるように。

しばらくして、マネージャーが到着して楽屋に顔を見せる。

「じゃ、行くね。お先」

ドアを閉めようとしたとき、俺は呼び止めた。

「ジェシー。苦しいときは?」

「うん?」とつぶやいて固まる。

「深呼吸だよ」

ジェシーはふわっと微笑んだ。

「なんかあっても気にしない」

そう京本も言う。どうやら今日のハプニングには気づいていたらしい。

「だな、お前は裏でもポジティブに笑ってたほうが似合う」

樹が言って、片頬を上げる。

「そうだよ。みんなでずっと笑えればそれでいい」

慎太郎がニコニコと満面の笑みを向ける。

「よく頑張ったよ。お疲れ」と高地もそう笑いかけた。

やっとジェシーもいつもの笑い声を上げた。

「AHAHA、何だよみんなして。ありがとね」

片手を挙げ、扉の向こうに消える。

また明日の公演は、ずっと楽しく音楽ができるといいなと願って。


終わり

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