月夜に映える、翔太は美しい。
病の床に臥せっていた頃は、痩せて、身体の中もボロボロで、俺たちはとても愛し合うどころではなかった。
猫が、人間に変身した、今の『翔太』も、華奢だし、決して剛健とは言い難いような肉体だったけれど、長年彼を苦しめた痛みからも精神的な苦しみからも解放されて今ではとても健康に見えた。
最期は、無菌にするためのカーテン越しでの別れだったから、こうして直に触れることができて、体温を感じていられるだけで、あとからあとからと涙が溢れてくる。
もっと話したいこととか
交わしたい愛の誓いとか
伝えたい想いは原稿用紙に書ききれないくらいいっぱいにあるけど、
そんなことより今はお互いを感じることに夢中になりたかった。
文字通り必死になって愛し合いたかった。
翔太は、するり、と着ていた浴衣を肩から落とすと、その美しい裸体を、月明かりの下に晒した。
🖤「綺麗だね、やっぱり」
翔太の背中を見て、思わず感嘆のため息が漏れてしまう。
💙「俺はお前に愛されるために戻ってきた」
翔太はそんな嬉しい言葉を言うが、それすらも悲しくて、もう聞きたくないと思ってしまう。
細い身体を強く抱きしめる。
翔太は振り返って、唇を求めた。
求めに応えて、重ねた俺の唇に反応して、わずかに開かれた隙間へと舌をねじ込んでいく。
翔太の口の中は熱かった。
おそらく、俺の口も同様に熱いだろう。唇を重ねた瞬間、翔太の甘い声が漏れたから。
🖤「大好きだよ………」
何度も言う。
髪の毛一本一本、爪の一枚一枚、あらゆる彼を形作る細胞のすべてを俺は今夜愛し尽くしたいと思った。全てかつて火に焼かれて、一度失ったものばかりだ。
💙「あっ……蓮…っ…触って、もっと」
翔太の白い首筋も
可愛らしい胸の突起も
敏感な身体の中心も
彼の身体からは、愛猫の力を借りて躍動するエネルギーとともに、強い熱と束の間の輝きが発せられているように感じられた。
3年前のあの日あの時。
病室で冷たくなっていく翔太を俺は無力にも見守るしかなかった。繋がれた計器が、彼の死を表し、一度高い音を立てた後に一切の反応がなくなるのを呆然とした面持ちで見ていた。
あの時の絶望が、ほんの一瞬でも、報われる瞬間があるのなら、それは『今』しかなかった。
🖤「おれ…っ…本当は一緒に……」
愛撫の手が涙で思わず止まり、たまらず翔太を抱きしめた。
💙「蓮」
翔太は優しく、俺の頭を撫でた。
💙「すぐだ。すぐなんだよ、蓮。人の一生はそんなに長くない。俺たちはまたすぐに会える」
そして翔太は一度目に、優しく触れるだけのキスをした。
💙「蓮にその時が訪れたら必ず俺が迎えに来るから。だからもう少し、待ってて?」
🖤「ほんとに?ほんとに、翔太?」
💙「本当。だからもう泣くな」
翔太は笑って、二度目には深いキスをしてきた。
もう一度、初めからしよう。
💙「早く…蓮を感じさせて……」
それからは無我夢中に。
お互いを感じて、感じさせ合った。
翔太の顔も、声も、身体も、全てを俺の肌に、命に、刻み込むために。
翔太の白く滑らかな肢体に、俺は愛の印を残らず付けていき、俺の背中に回された翔太の指が、きりきりと爪を立てる。それすらも甘美で、夢のように愛おしい瞬間の連続だった。
終わった後も俺はずっと、その雪のように白く美しい恋人をただただ抱きしめていた。
そして、『翔太』は、俺の胸の中で、今度こそ永遠の眠りについた。
コメント
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はぁーーー美しすぎて泣ける