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守は一日の疲れを感じながら、いつものようにパソコンの前に座り、
登録してあるマッチングサイトをチェックした。サイトの画面には、
いくつかの新しいメッセージが届いていたが、彼の心には不安が渦巻いていた。
「またか…」
画面に表示されるメッセージの数々。人妻や女子大生、専門学校生など、
多種多様な女性たちからのメッセージが彼を誘惑する。しかし、守はそれが全て本物ではないことを知っていた。
経験を積むうちに、サイトには「サクラ」が紛れ込んでいることがわかるようになっていた。
「これもサクラだろうな…」
彼は慎重にメッセージを読みながら、そう呟いた。マッチングサイトでは、月額料金だけではなく、
メッセージを開くためにはポイントが必要だった。そのポイントを購入するにはお金がかかる。
無駄にポイントを消費しないためにも、守は一つ一つのメッセージを精査しなくてはならなかった。
「これ、本当に出会えるのか…?」
「でも、他に出会いの場なんて、ないんだ…」
守はそう思い込んでいた。リアルな世界で出会いを求めることができないと、
彼はどこかで決めつけていたのだ。サイトに頼るしかないという孤独感と焦燥感が、
彼をさらにこの虚構の世界に引き込んでいた。
出会いサイトのチェックをして、ふと今日の紗良の言葉が頭をよぎった
――「私たちの手で地球を守らなくちゃ」
彼女が言っていたサバイバルシューティングゲームを見つけようと、インターネットで検索を始めた。
「こんなに種類があるのか…」守は画面を見つめ、呟いた。
そこには無数のタイトルが並んでいたが、何が何だかわからない。
どれも似たような名前と説明で、初心者の守には判断がつかない。
それでも、紗良の言葉がヒントになるはずだと信じた。
「地球を守る」――つまり、侵略者や宇宙の怪物と戦うゲームに違いない。
スクロールしていると、ふと目に飛び込んできたタイトルがあった。
**「地球防衛軍~宇宙のモンスターを倒せ」**――まさにそのまんまだ。
人気順では下の方に表示されていたが、守にはそれが逆に安心感を与えた。
あまり目立たないゲームなら、初心者の自分でも気負わずに始められるだろう、と。
「よし、これにしよう」と、守は意を決してダウンロードボタンをクリックした。
数分の待ち時間の間、守は落ち着かない気持ちで画面を見つめていた。
昔のファミコンの頃とは違い、今のゲームはリアルで、
オンラインで他のプレイヤーと協力する必要があるという。
守にとって、それは新しい世界への扉を開けるような感覚だった。
ゲームがインストールされ、最初の画面が立ち上がる。
「キャラクターを選んでください」と、鮮やかなグラフィックの画面が表示された。
いくつかの選択肢の中から、守は迷わず女の子のキャラクターを選んだ。
髪型や服装、武器まで細かくカスタマイズできるということで、
画面に映る少女の姿を自分なりに作り上げていく。意外にも、
このキャラクターを作る作業が楽しく、守は自然と夢中になっていた。
「名前は?」と表示された画面に、守は一瞬戸惑った。
何かかっこいい名前をつけるべきだろうか?だが、結局は慣れ親しんだ自分の名前に決めた。
「藤井守」と入力しようとしたが、ふと手を止めた。キャラクターが女の子であることを思い出し、
違和感を覚えたのだ。男の名前では似合わない気がする。
どうしようかと悩んでいると、足元に寄ってきたのは、彼が飼っている猫のフクだった。
「そういえば、お前はメスだったな…」
猫のフクを見つめながら、守は自然に「フク」と入力した。
これでいいだろうと画面を確認し、最終確認のメッセージに「はい」をクリックする。
こうして、守の冒険が始まった。
ゲームの中、守が操作するフクは冒険者ギルドの前に立っていた
周りには同じような装備をした他のプレイヤーたちが集まっている。
これがゲームの世界か――守は不思議な感覚に包まれた。
すると、突然誰かに声をかけられた。「こんにちは、あなた新人ね?」と、
画面の中に女性アバターが現れた。守は少し驚きながらも、まずは礼儀正しく挨拶しなければと思い、
「初めまして、フクと申します。これからよろしくお願いしま…」と話している途中で、
女性はすでに背を向け、どんどん歩いていってしまった。
「こっちに来て、説明するわ」と言いながら、女性アバターは先へ進んでいく。
守は慌ててフクを操作し、彼女の後を追った。次に彼女はこう言った。
「ここにいるうちは安全よ。今から武器の使い方の練習をするわ、準備はいいかしら?」
「えーと、練習ですか?どんなふうに…?」と守は尋ねるが、彼女は「準備はいいかしら?」と繰り返すだけだ。
守はしばらく会話がかみ合わないことに戸惑いながらも、やり取りを続けていた。
ふと気づくと、その女性アバターはまったく反応を変えない
まるで同じ言葉を繰り返す機械のようだ。そこで守は、
相手がNPC(ゲーム内のNPC、いわばアバターではなくゲーム側のシステムである敵や案内役)だったことに気づいた。
「……なんだ、コンピューターか」と守は苦笑いし、
初めてのオンラインゲームならではの不慣れな自分に恥ずかしさを感じた。
守はNPCの指示通りに練習を始め、ゲームの世界に少しずつ馴染んでいこうとしていた。