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大森視点
「優里さんは星崎と付き合い長いんですか?」
それは本人がいるのに、
どうして優里さんに聞くのか。
なぜ自分には聞かないかと、
彼の意識を俺に向けさせるためだった。
「お互いが下積み期間中に知り合ったから、
7年くらいだな。
ちなみに深瀬とは3年だよ」
俺は緊急帰国してから知り合ったので、
せいぜい1ヶ月ちょっとくらいしか付き合いがない。
この中でもいちばん関係が短いとわかり、
年単位の付き合いがないと、
彼とは打ち解けられないのかもしれないと思った。
「⋯⋯そんなに?」
俺は年数の長さに驚きを隠せなかった。
二人の空気感とか、
信頼関係の高さとか、
ボディタッチの多さとか、
二人しか知らないことがどれほどあるのだろうか。
もっと星崎のことを聞き出せないかと思っていたが、
どうにも表情が暗く話題を変えたそうにしていた。
「路上と⋯缶コーヒー」
「うわ、
懐かしいなー」
路上と缶コーヒーって何だそれ?
まるで小説のタイトルみたいだ。
もっと知りたい。
俺が深掘りするように、
優里さんへさらに質問を重ねた。
「俺ね⋯最初こいつにナンパされたの」
「し、
してません!
勝手に話盛らないでください」
「本当ですか?
ジョークですか?」
(ナンパって⋯いったい星崎と優里さんは、
どういう出会い方をしたんだ!?)
鵜呑みにしないでほしいと慌てふためきながら否定する星崎と、
面白がって適当のことばかり言う優里さんは、
トンッとお互いの肩が触れるほど近い距離でいた。
その距離感に嫉妬する。
(でも⋯⋯羨ましくもあるんだよな)
彼のことを知りたくて優里さんから話を聞き出したのに、
星崎はというと俺ではなく、
目の前にいた藤澤さんに向かって話し出した。
「僕は元々ピアニストだったけど、
優里さんの路上ライブ聞いて、
ギター⋯⋯格好いいなって」
思い出を振り返るみたいに目を細める星崎は、
優しい表情をしていた。
路上ライブをきっかけに、
ピアニストがギターリストへ転身するだなんて、
なかなか簡単に決断できることではない。
それほど大きな影響力を受けていたのか。
しかも独学でなんて、
どれほどの努力を積んだのか俺には想像すら出来なかった。
そこからさらにアコギだけでは、
バリエーションが足りないからと、
さらに自分の技術に磨き上げることに時間を費やした。
星崎はエアギターも同じく独学で習得し、
フィンランドのオーディション番組にて、
度胸試しでエアギター世界大会に参加したところ、
チャンピョンに選出されたらしく、
まさにシンデレラストーリーだ。
本当に小説みたいな人生だと感心させられた。
『ここまでしないと、
才能がないから、
音楽に愛してもらえない』
ふと彼の言葉を思い出す。
おかしい。
そこまで追求していける精神力と、
努力を惜しまない姿勢があれば、
音楽に愛されているはずだ。
なぜそう思うのだろうか。
彼の核心⋯本音にふれたいと思った。
「マジっすか!?」
その話を聞いていた若井が、
興奮気味に食いついてきた。
生粋のギタリストだから、
ギターが絡むと時折こうして、
子供のようなあどけない表情になる。
「でも練習のしすぎで演奏した時は平気だったけど、
ステージ降りたら左手に激痛がきて、
病院行ったら疲労で骨折だった」
若井は星崎のその発言でポカンとしていた。
まあ確かにエアギターで骨折などあまり聞かない話だ。
動きを大きくしないと多くの人の目を惹きつけられないため、
弾くフリでも体全身を使うため、
パフォーマンス後の疲労感は半端ではないのだろう。
「手はギタリストの命なんだから、
大事にしなきゃだめだろ」
さりげなく彼の手首を優しく撫でながら、
少し怒りと心配が入り混じったような声で囁く。
優里さんが怒っているのは彼が無茶をしたからだ。
本当にどこまででも、
誰に対しても分け隔てなく、
優里さんは優しい。
そう言えば深瀬には名前呼びで牽制していたが、
優里さんは星崎をどう思っているのだろう。
ただの後輩?
恋愛感情は?
そこに下心が無ければ良いがーーー
「ごめんなさい。
でも今日はやたら触ってきますね」
「瑠璃夜の接触癖がうつったんじゃない?」
え?
いつもはこんなに触らないということか。
なにかおかしい気がする。
牽制って深瀬に対してだけじゃなくて、
俺に対してもされているのか?
雫騎の雑談コーナー
はいっ!
これにて食事会シリーズ完結でございます。
仕事をしながらなので、
ノロノロ更新で申し訳ありません。
では本編にふれますかね。
ラストシーンで使用した一文ですが↓
牽制って深瀬に対してだけじゃなくて、
俺に対してもされているのか?
はい。
もちろんそうです。
優里さん→瑠璃夜(本名を名前で呼び捨て)
深瀬さん→たっくん(芸名をあだ名呼び)
大森さん→星崎(本名を苗字で呼び捨て)
に設定することでそれぞれの親密さが一目でわかる。
という利点と深瀬さんに対して名前呼びで牽制をかました時、
優里さんは同時に大森さんにも星崎への独占欲から牽制していたんです。