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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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 二人揃って私の家へと帰宅すると、そのままひぃくんを自室へと案内した私。勉強机の上に置いてあった箱を掴むと、テーブル前へと移動してひぃくんの隣に腰を下ろす。

 私の横で、ニコニコと嬉しそうに微笑んでいるひぃくん。そんなひぃくんをチラリと横目に確認すると、私はチョコの入った箱を差し出した。



「はい、ひぃく──」




 ────!!?




 言葉を言い終える前に、私の手元からもの凄い勢いで箱を奪い取ったひぃくん。毎年の事ながら、その早さには毎度驚かされる。



「ありがと〜! 花音っ!」


「……あっ。う、うん」



 呆気に取られていた私は、そう答えるとヒクつく口元でヘラッと笑った。



「嬉しいな〜っ! すっごく嬉しいな〜っ!」



 チョコの入った箱を大切そうに胸に抱えると、ユラユラと揺れて嬉しそうに微笑むひぃくん。

 そんなひぃくんを横目に、私は携帯を開くと画面を確認した。



(彩奈からの連絡はまだない、か。もうとっくにお兄ちゃんに会ったと思うんだけど……。どうしたんだろう? 私から連絡してみようかな)



 彩奈からの連絡がない事を不安に思った私は、画面をスライドさせると彩奈の連絡先を開いた。



「ねぇ花音っ! 開けてもいいっ!? 開けてもいいかなーっ!?」



 その声に反応して顔を上げてみると、大事そうにチョコを抱えたひぃくんが瞳をキラキラと輝かせている。



「う、うん。……どうぞ」



 異常なほどの喜びを見せるひぃくんに若干引きつつも、私はそう答えると手元の携帯を再び操作し始める。

 と──その時。一階から玄関扉を開閉する音が微かに響き、驚いた私は手元の携帯から視線を上げた。



(……えっ!? お兄ちゃん帰ってきたの!? じゃあ……彩奈はっ!? 彩奈はどうなったの!?)



 未だ連絡のこない携帯と自室の扉を交互に見て、私は一人その場でオロオロとする。

 


(えっ……何で? 何で彩奈から連絡が来ないの? ……まさか、お兄ちゃんと会えなかったとか!? やっぱり今すぐ電話で確認しなくちゃ!)



 そう思った私は、作成中だった入力画面を閉じると通話ボタンを押した。携帯を耳に当て、そこから聞こえてくるコール音に耳を傾ける。




 ────ピリリリリッ




(……へっ?)



 廊下から聞こえてくる音につられて、反射的に目の前の扉に視線が向いた私。



(あれ……? 偶然、だよね? きっと、お兄ちゃんの携帯が偶然鳴っただけだよね……?)



 そうは思うものの、廊下が気になって扉から目が離せない。




 ────コンコン




「……っ!? はっ、はいっ!」



 見つめていた扉が突然ノックされ、驚いた私は携帯を耳に当てたまま大きな声を上げた。




 ────ガチャッ




 私の返事を確認してから、ゆっくりと開かれた扉。携帯を耳に当てたままの私は、入り口に立つお兄ちゃんを呆然と見つめた。

 お兄ちゃんの背後にある廊下からは、未だに規則正しい携帯の着信音が鳴り響いている。お兄ちゃんを見つめたまま呆然と固まっていると、その背後からヒョコッと姿を現したのは、今まさに私が連絡を取ろうとしていた彩奈だった。




 ────!!?




「……えっ!!? 彩奈っ!? な、なななな、何で!? えっ!?」



 パニックを起こして慌て出す私を見て、小さく溜息を吐いたお兄ちゃん。



「ちゃんと説明するから。とりあえずそれ、切って」



 私の耳に当てられた携帯を指差したお兄ちゃんは、そう告げるとそのまま彩奈を連れて部屋の中へと入ってくる。

 そんなお兄ちゃん達の姿を見て、一体何がどうなっているのかと動揺しながらも、私は言われた通りに携帯を切ると心を落ち着かせた。



「俺達、付き合う事になったから」




 ────!!?




 私の目の前に腰を下ろすなり、そう宣言したお兄ちゃん。その言葉に、衝撃で思わず言葉を失う。

 お兄ちゃんの横に座っている彩奈に視線を移してみると、恥ずかしそうにして頬を赤らめている。



「……っ彩奈!! おめでとーっ!!」



 身を乗り出して彩奈の肩を掴むと、あまりの嬉しさから大きな声を上げる。

 そんな私に驚きつつも、ほんのりと赤らめた頬のまま小さく微笑んだ彩奈。



「ありがとう、花音」



(良かったね……、彩奈っ。私、嬉しくて泣きそうだよ……っ)



 嬉しそうに微笑んでいる彩奈の姿を見ていると、なんだか目頭が熱くなってくる。



「じゃ、そういう事だから」



 それだけ告げると、彩奈を連れて部屋を後にしようとするお兄ちゃん。



「えっ!? ちょっ、ちょっと待ってよお兄ちゃん! それだけ!? それだけなの!?」



 咄嗟にお兄ちゃんの腕を掴むと、必死になって引き止める。



(そういう事だから、って何!? 私が聞きたいのは詳細よっ!!)



「何がどうなって付き合う事になったの!? 教えてよー!」


「何でお前にそんな事教えなきゃいけないんだよ」


「聞きたいっ! 聞きたいんだもんっ!」



(だって、お兄ちゃん彼女は作る気ないって言ってたじゃん! 勿論、彩奈と上手くいった事は嬉しいよ。凄く嬉しいっ! ……だけど何で!? 何で付き合う事になったの!?)



 グイグイと腕を引っ張る私の頭をガシッと掴むと、そのままグッと後ろへ押し退けたお兄ちゃん。



(まっ……、負けないんだからっ!)



 その力によろけながらも、必死にお兄ちゃんに近付こうと宙をもがく私の手。

 そんな私を見て溜息を吐いたお兄ちゃんは、その視線をひぃくんへと向けると口を開いた。



「おい、響。変な事はするなよ」


「はーいっ」



 小首を傾げてフニャッと笑ったひぃくんは、そう答えるとお兄ちゃんへ向けてヒラヒラと手を振る。

 一人暴れている私を見てクスッと笑い声を漏らした彩奈は、「後でね」と私に耳打ちをすると、そのままお兄ちゃんと共に部屋から出て行ってしまった。



(……お兄ちゃんのケチ! 一番聞きたいのは付き合うに至った経緯に決まってるじゃないっ! もうっ、全然わかってないんだから……。乙女はそういう話が好きってのが定番なのよ? ……いいもんっ。後で彩奈から色々聞いちゃうんだからねっ!)



 ボサボサになってしまった前髪を整えながら、私は一人そんな事を考える。



「俺も大好き〜っ!」



 扉の前で突っ立ったままだった私は、その声に反応して背後を振り返るとひぃくんを見た。



(えっと……、何の話し?)



 私を見つめてニコニコと微笑んでいるひぃくん。その手元を見てみると、蓋の開いた箱を持っている。

 状況を理解した私は、ニッコリと微笑むと口を開いた。



「私も、だぁ〜い好きっ!」



 彩奈達が上手くいって何だか無性に嬉しかった私は、そう告げるとひぃくんに駆け寄りそのまま飛び付いた。

 蓋の開いた箱から見えるのは、【大好き】と書かれた私の手作りチョコレート。そんな素直な気持ちを伝えたくなるバレンタインは、何だかいつもより私を大胆にさせた。


 スリスリとすり寄って甘える私を優しく包み込んだひぃくんは、クスッと笑い声を漏らすと「可愛いー、花音」と耳元で囁く。

 何だかそれが少しくすぐったくて、腕の中でモゾモゾと身体を動かす。そんな私を一度キュッと強く抱きしめたひぃくんは、ゆっくりと身体を離すとフニャッと笑った。



「花音の好きはどれぐらい? いっぱい?」


「えっ? う、うんっ。いっぱい好きだよ?」


「本当!? 嬉しいな〜!」



 私の答えに満足したのか、とても嬉しそうな顔をしてニコニコと微笑むひぃくん。



「じゃあ、地球が見えなくなるぐらい好きって事?」



(…………。……うん。ちょっとその例えはよく分からない)



「……うっ、うん。それぐらい好き……、かな?」



 よく分からない例えに戸惑いながらも、ヘラッと笑った私はそう答えた。



「じゃあ、俺と一緒だねーっ?」



 小首を傾げて嬉しそうにフニャッと笑ったひぃくん。



(そ、そうなんだ……。地球が見えなくなるぐらいって、どういう事?)



 イマイチ理解できないその表現を疑問に思いながらも、目の前で嬉しそうに微笑んでいるひぃくんを見て思わず笑みが溢れる。



「ねぇ、花音。……花音からキスして?」


「えっ!?」


「いっぱい好きならいいでしょ?」



 そう言って瞼を閉じてしまったひぃくん。



(自分からするのって、凄く恥ずかしいんだけどなぁ……)



 そんな躊躇ためらいはあるものの、大好きなのは本当の気持ちだし、正直、私だってひぃくんとキスがしたい。そう思った私は、意を決してひぃくんの顔にゆっくりと近付いていった──その時。

 私の視界に入った、小さい”何か”。チラリと視線を横に移してみると、そこには天井から垂れ下がった小さな蜘蛛が……。




 ────!!?




「ヒッッ……!!? いやぁああーーッッ!!!」




 ────バチンッ!




 驚きに思わず仰け反った私は、大声を上げると目の前のひぃくんを突き飛ばした。

 その数秒後、もの凄い勢いで開け放たれた私の部屋の扉。




 ────バンッ!!!




「……おい、響っ!!! お前な──っ!?」



 鬼の形相で怒鳴りながら入ってきたお兄ちゃんは、目の前のひぃくんを見るとピタリと動きを止めた。



「おにっ……、お兄ちゃんっ!! 蜘蛛っ!! 蜘蛛取ってぇー!! 蜘蛛っ!! 蜘蛛ぉおおーッッ!!!」



 ヒーヒーと悲鳴を上げながら、蜘蛛を退治しろと指差す私。そんな私の横では、体育座りをして両手で顔を覆いながら、メソメソと涙を流しているひぃくんがいる。

 そんな私達を見て、懸命に状況を把握しようとしているお兄ちゃん。



「いっぱい好きって言ったのに……。嫌って……、嫌って言った……っ」



 ブツブツと小さく呟きながら、両手で顔を覆ってシクシクと涙を流し続けるひぃくん。そんな姿を黙って眺めていたお兄ちゃんは、大きく溜息を吐くと口を開いた。



「ほんと、何なんだよお前ら……」



 小さく愚痴を溢しながらも、素早く蜘蛛を退治してくれるお兄ちゃん。



「…………。おい、響。今氷持ってきてやるから……ソレ、ちゃんと冷やしとけよ」



 そう言って呆れたような顔をするお兄ちゃん。その視線の先では、未だひぃくんがシクシクと涙を流し続けている。

 何やらどんよりとした暗いオーラを漂わせながら、体育座りをして一人部屋の隅っこで泣き続けているひぃくん。そのあまりにも重い空気には、なんだか近付くことすら躊躇ためらわれる。



(ご、ごめんね……ひぃくん……)



 私はその姿を遠目に眺めると、ヒクリと顔を引きつらせて心の中で謝罪した。



(後でちゃんと謝らなきゃ……)



 背中を丸めて、プルプルと震えながら泣き続けているひぃくん。

 その顔には、私の手形がクッキリと赤く残っていた。






ぱぴLove〜私の幼なじみはちょっと変〜

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