じゃあね、と電話を終えようとするお母さんに
「お母さん」
‘うん?’
「今日ね、颯ちゃんが作ってくれたハヤシライス、美味しかったの」
‘いいわね。颯佑くん、お料理するのね?’
「スクランブルエッグもすごく上手なの」
‘そうなんだ’
「今度の日曜日には、水族館に行くの」
‘楽しいデートね?’
「うん、そう」
‘じゃあ、もうケーキ食べないと…遅くなると太っちゃうよ’
「そうだね」
‘良子、ありがとう。様子が…今までよりもわかって安心した…嬉しい…ありがとう’
もう少し話をして電話を終えた。
「リョウ、ケーキどれ食う?紅茶はぴったり今いれたぞ。こっち来て」
キッチンから呼ばれて、スマホをテーブルに置きキッチンへ入ると
「お疲れ」
颯ちゃんが両手を広げて微笑んだ。
ぽすん………その胸に収まり
「…お母さんはお母さんだった…」
「そうか…ただ娘を大切に思う親だな」
「うん…今日はショートケーキとガトーショコラを食べようと思ったけど…太っちゃうよね?お母さんにも言われた」
「少しくらい太るくらいでいいだろうけど、気になるなら一晩中運動する?」
「…さすがにそれは…明日……颯ちゃんも私もお仕事です…」
「じゃあ、一晩中よりは短縮で」
颯ちゃんは、私の額にとても優しいキスをした。
数日後、お母さんから荷物が届いた。
在宅とは言っていないので、私が仕事から帰る時間を考えたのか、19時から21時着と時間指定された冷蔵便を開けてみると
「お母さん…」
銀行名が下に書かれたメモ用紙が一番上にある。
【全部今日作って翌日着だから、あと1、2日は冷蔵庫で大丈夫。食事の足しにしてね。毎日暑いからしっかり食べて。蒸し鶏はすぐ冷凍してもOK】
ししとうの煮浸し、干し椎茸の含め煮、きんぴらごぼう、ひじき煮、そして蒸し鶏が
「多くない…?ふふっ…」
それぞれ大きな容器に入っている。
私の好きなものばかり。
でも、お母さんがお父さんのところへ行ったあとは、一度も食べていないものばかりだ。
「ただいま」
「…あっ…おかえり、颯ちゃん……」
「どうした?リョウ?」
キッチンで荷物を開けたまま座り込んでいた私に、足早に寄って来た颯ちゃんは
「おばちゃん?」
容器をひとつ持ち上げて中身を覗くようにして言った。
「うん…お母さんから今、届いた。昨日作ったって…」
「楽しみだ。手洗ってくる。一緒に食おうな、リョウ」
すでに冷しゃぶサラダは作っていたのだけれど、それでは颯ちゃんの白米が進まないから、具沢山味噌汁と市販の漬物で夕食にしようと思っていた。
それを知った颯ちゃんは
「まだ味噌汁出来てなくてちょうどいいな。メインが冷しゃぶ、副菜がおばちゃんの惣菜」
「うん。蒸し鶏は冷凍するよ。ゆっくりメニューを考えてないと…あれこれパッパッ……とは難しい」
「ゆっくり楽しみに食えばいい。全部皿へ盛り付けて写真撮っておばちゃんに送るわ、俺」
4種類の惣菜と、たくさんの野菜と豚肉、ゆで卵の乗った冷しゃぶサラダが小さなテーブルを埋めつくし、それを写真に撮る。
「よし、いただきます」
手早く送信した颯ちゃんが手を合わせるのを見て、慌てて私も手を合わせた。
「リョウ、ちょっと焼酎飲む?」
「しばらく飲んでないね…飲む?」
「そういうメニューだよな」
「確かに。ご飯にも合うけどね」
「米のおかわりやめて焼酎にする」
全種類を少しずつ自分の皿へ取り、まず椎茸を口に入れる。
美味しい…思わず目を閉じ、香りも存分に味わうと思い出した。
「この椎茸…細く切ってそうめんの薬味にしても美味しいの」
「うまそう。明日そうめんでも食いたい」
「そうする」
「冷しゃぶもうまいな。これだけで栄養満点」
颯ちゃんは私の茹でただけ、切っただけのものも忘れずに誉めてくれる。
コメント
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お母さんとの距離がいい感じになりそう😌 久しぶりに食べる変わらない母の味を颯ちゃんと食べられる幸せ🍀その食卓の写真を良子ちゃんじゃなく、颯ちゃんがおばちゃんに送るのがいいな🥹 焼酎か〜(☝ ՞ਊ ՞)☝うぃーーwww