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「話は聞かせてもらったわ!」
ミノリ(吸血鬼)は、あるかないか分からない胸を張った状態でそう言った。
「うわっ! ビックリした……って、お前いったい、いつから聞いてたんだ?」
「え? そんなの全部に決まってるじゃない」
「……うん、訊《き》いた俺がバカだったよ。それで? お前はいったい何をしに来たんだ?」
「それはもちろん、あんたの服作りに協力してあげようと……」
彼はミノリ(吸血鬼)が最後まで言い終わる前に、彼女の口を手で塞《ふさ》いだ。
彼が暴れるミノリを寝室に移動させると、メルクはそっと襖《ふすま》を閉めた。
「んー! んー!」
「あっ、すまん。忘れてた」
彼がパッと手を離すと、彼女は彼の頭をポカボカ殴《なぐ》った。
「ナオトのバカー! いきなり何すんのよー!」
「痛い! 痛い! おい、ミノリ! 地味に痛いから、もうやめてくれ! ちゃんと謝るから!」
彼女は彼の背後に回ると、彼の肩に飛び乗って、両足をクロスさせた。
「や、やめてくれ、ミノリ。これは、さすがに……死んじゃう……から」
彼女は彼の顔が真っ青になっているのを知らないまま、締め付けを強くした。
「なら、もう二度とあんなことしないと誓《ちか》いなさい!」
「わ、分かった。誓うよ、誓うから、もうやめてくれ。ほんと、マジでやばいから……」
「……よろしい。じゃあ、ハグして」
彼女は彼から離れると、息を整えているナオトにそう言った。
「わ、分かった。ほ、ほーら、ミノリー。こっちにおいでー」
「わーい!」
ミノリは彼に抱きつくと、彼の左耳を甘噛みした。
「……はうっ!? お、おい、ミノリ。いきなり何してるんだ?」
「はっ! あたしとしたことがつい本能を剥《む》き出しにしてしまったわ。ごめんね、ナオト」
彼女は申し訳なさそうな表情を浮かべながら、彼の顔を見た。
「いや、いいよ。別に気にしてないから……。えーっと、何の話してたんだっけ?」
その時、メルクがやってきて、二人にこう言った。
「ナオトさんの服作りについてです」
「あー、そうだったな。えっと、それで、どうかな?」
「え? 何が?」
「いや、だから、俺に服作りのいろはを教えてほしいのだが……」
「いいわよー、何から知りたい?」
「いや、今じゃないから。というか、まだ全員と面談してないから始めようにも始められないから」
「あら、そう。なら、それが終わったら、呼んでね?」
「あ、ああ、分かった」
彼女は彼から離れると、寝室からお茶の間に移動した。
移動する前に、ミノリは「じゃあねー」と言いながら、なぜか手を振っていた。
彼は苦笑しながら、手を振った。
「……はぁ……疲れた」
「それ、本人の前で言っちゃダメですよ?」
「ああ、分かってる……。えーっと、お前とルルとニイナの服を俺がミノリと一緒に作って、完成したら渡す……でいいのか?」
「はい、バッチリです!」
「そうか……。じゃあ、お前との面談はこれで終わりだ。えっと、次は……フィアの番だな」
彼がそう言うと、彼女は未来予知をした。
「じゃあ、呼んできますねー」
「おう、頼んだぞー」
彼は彼女が寝室からお茶の間に移動するのを見届けると、深いため息を吐《つ》きながら横になった。
「……あー、疲れた……。少し休もう……」
彼はそう言うと、静かに瞼《まぶた》を閉じた……。
*
「……様……ナ……様……ナオト様……」
誰かの声が聞こえる。
この声は……フィア……だな……。
俺のことを心配してくれているのかな……。
なら、さっさと起きないと……いけない……よな。
彼は七秒くらいかけて、目を開けた。
すると、彼の目の前にフィアの顔……というより、口があった……。
「ちょ……お、おおおおおおお、おま……いったい何をしようとして……」
彼がひどく動揺《どうよう》していると、フィアは人差し指を彼の口に押し当てた。
「落ち着いてください、ナオト様。私はナオト様のことが心配で、ほんの少しの間見つめていただけです」
「そ、そうなのか?」
「はい、そうです」
「そうか……。けど、どうして俺はお前の太ももの上に頭を乗せているんだ?」
「それは……ナオト様が無意識のうちに……」
「俺は騙《だま》されないぞ。お前がやったんだろ?」
「……やはりバレましたか」
「バレるに決まってるだろ。というか、バレないと思ってたのか?」
「いえ、ナオト様なら、すぐに気づくと思いました」
「そうか……」
「はい……」
「えっと、じゃあ、自己紹介を……」
彼が最後まで言い終わる前に、メイド服を纏《まと》った天使は、ピシャリと言い放った。
「ナオト様、鎖骨《さこつ》を舐めてもいいですか?」
「…………は?」
その直後、彼の思考が停止した。
彼女の口から発《はっ》せられた言葉の意味が全《まった》く分からなかったからだ。
「……あの、ナオト様。聞いてますか?」
「え? あ、ああ、うん、聞いてるよ。えーっと、その……俺の聞き間違いじゃなければ、フィアの口から俺の鎖骨《さこつ》を舐めたいっていう言葉が発《はっ》せられたような気がしたんだけど、気のせいかな?」
彼がそう言うと、彼女はニッコリ笑った。
「いいえ、聞き間違いじゃありませんよ。私は今すぐにでも、ナオト様の鎖骨《さこつ》を舐めたいです」
「……う……嘘《うそ》だあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「いいえ、嘘《うそ》じゃないですよ。さぁ、ナオト様。私といいことしましょう」
「い……い……嫌《いや》だああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
その時、彼は誰かに頭を撫でられた。
その直後、彼はようやく悪魔から目覚めることができた。
「……グスン……ひぐっ……フィア……」
「ナオト様、いつまでも泣いていたら、体の水分が無くなってしまいますよ?」
彼は起きた直後から、彼女に抱きついている。
怖いものを見て、母親の足元にすがる子どものように彼は泣いている。
「……だって……だってー……」
「よしよし、怖かったですねー。もう大丈夫ですよー」
彼は心身が落ち着くまで、ずっと彼女に慰《なぐさ》めてもらっていたそうだ。