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戦いのゴングが鳴り響くと、青色の髪を靡かせ、水魔法使いのルル・フレアは駆け出す。
「お姉ちゃん!! 水魔法のウチに炎魔法の貴女は一度も勝ったことないんだから、大人しく棄権しておけばよかったのに…………!!」
そう言うと、大きな杖をその手に宿した。
「ひ、ひえぇ…………!!」
相対する桃色の髪、炎魔法使いのモモ・フレアは、ビクビクしながら、ナイト、アイク・ランドの背に隠れる。
「大丈夫です、モモ先輩! 今年が最後なんですから! 自分の魔法を信じてください!!」
そうして、青髪同士が相対する。
そのルルの背後から、中衛のメイジ、紫髪のアズール・ウォールが小さな杖を持って飛び出す。
“雷魔法・ビライト”
杖からは、微弱だが、無数の細い電撃が放たれる。
(僕の水魔法を読んで “感電” 狙いか…………! これじゃあモモ先輩を守れない…………!)
「シルフィ先輩!!」
「大丈夫、もう準備してあるわ!!」
「流石です! 一緒に行きます!!」
アイクの掛け声に、モモの背後で杖を構えていた氷魔法使いのメイジ、シルフィ・ラズが支援に駆け付ける。
“氷魔法・アグネス”
“水魔法・二重層”
二人の魔法が発動した瞬間、アイクの盾は凍り付き、アズールの放った電撃は地面へと誘導された。
しかし、その瞬間にルルはニタリと笑う。
一番背後に控えている岩魔法使いのシールダー、ゴヴ・ドウズの手が光る。
“岩魔法・ビルアス”
「ルル先輩は氷で防ぐことも計算して…………!」
「その通り……! 氷状態に雷が当たれば、私たちの作戦は完成したも同然…………!!」
氷が纏われている状態に雷が与えられると、一時的ではあるが、“感電” の痺れ状態を回避する代わりに、『物理攻撃の防御力』を下げられてしまう。
ルルは、大きな杖を振り上げる。
「大きい杖はフェイク!! それを打撃にするつもりだったのか…………!」
「し、しかも、ゴヴくんの岩魔法で身体強化までされてるよぉ…………!」
危機一髪と思われたその時、モモパーティの一番背後に控えていたヒーラー、セルフィ・ラズの杖も光る。
“風魔法・ビルアス”
セルフィも、ゴヴと同じ身体強化魔法をアイクへと発動する。
「大丈夫……私たちは敗けない…………!」
「そうだ、僕がこのパーティの盾なんだ……!」
“水魔法・三重層”
アイクの盾には、水の層が三重に集まる。
ゴォッ!!!
ルルの棍棒と化した杖がアイクの盾を直撃し、大きな音を立て、地面にはガッとヒビが入った。
周囲には、砂煙が舞う。
「ハァハァ……流石に、弱体化させて、私も身体強化させて、ここまでの威力を出したんだから、流石にアイクくらいは倒せたでしょ…………」
ガッ!!
その瞬間、アイクは砂煙の中からルルを奇襲する。
「僕は……盾です…………!」
速度の遅いアイクの剣は、容易く交わされるが、倒せたと思っていたルルに汗を滲ませた。
「なるほど……。ゴヴの岩魔法のビルアスは、身体強化とシールドを張るけど、セルフィの風魔法によるビルアスなら、身体強化に治癒を施せるってワケね……」
冷静に息を整えると、棍棒に使っていた杖を、今度はしっかりアイクへと向ける。
「なら、治癒魔法する間も無く倒してあげる……! 私たちだって、これだけで終わらない…………!!」
すると、ルルの魔法発動に合わせるように、アズール、そして、控えていた炎魔法使いのメイジ、モモとルルの長女であるララ・フレアも横に並ぶ。
「ごめんね、モモちゃん……。どちらかの味方なんて本当はしたくなかったけど…………私も公式戦で戦ってみたかった……。あわよくば……平民でも戦えるって、平民の希望になりたい…………!」
そう言うと、ララは涙を浮かべて両手を光らせる。
“炎支援魔法・フレイア”
魔法発動後、ルルの身体は赤い光を放つ。
そして再び、アイクだけではなく、全員に向けて大きな杖を掲げる。
「これで私の水魔法には、ララお姉ちゃんの炎魔法も付与されて、当たった対象に “炎×水の蒸発” を与える。更に、アズールの雷魔法の追撃で “過負荷” を起こし、全てを吹き飛ばす威力にまで引き上げた。私たちの協力魔法……防げるものなら防いでみなさい…………!!」
ルルの杖には、膨大な魔力が溜められていく。
“水攻撃魔法・アクアジェット”
“雷魔法・グライト”
ゴゥ!! と、大きな音を立て、蒸気を発する水撃が放たれると、その中をバチバチと雷魔法が唸る。
まさに、水・炎・雷を合わせた合体魔法。
しかし、魔法を放った三人は目を見開く。
モモの盾だったはずのアイクは、モモの背後へと下がると、三人全員がモモに向けて手を翳した。
「あの子たち……支援魔法なんて使えないわよね……?」
「ち、違う……! あれは……!!」
さっきまでの怯えが消え、静かに目を見開くモモは、片手を掲げると、膨大な魔力が集められる。
“炎攻撃魔法・フルフレア”
ゴォッ!!!
魔法発動と同時に、モモの周囲に暴風が吹き荒れ、背後にいた三人までもを吹き飛ばし、巨大な炎撃を放つと、一瞬のうちに三人の合体魔法さえ掻き消し、ルル、ララ、アズールを気絶させた。
最後に残ったゴヴは、呆然と膝から崩れ落ちた。
「やっぱり……モモ先輩の魔法は強力ですね……」
アイクは、起き上がりながらもニヤッと笑う。
「え! え! えぇー!? ララお姉ちゃんも、ルルちゃんも気絶してる!?」
正気に戻ったモモは、自分が巨大な魔法を放ったことすら覚えておらず、困惑の中で涙を浮かべさせていた。
『勝者、魔法学寮 “ONESHOT” の勝利 ―――― !』
次第にアナウンスが鳴り響き、平民同士の試合だとナメていた観客も、盛大な拍手を送った。
決してナメていたわけではないが、ヒノトもまた、平民パーティの死闘に、唖然とさせられていた。
「最後の……何やってたんだ…………?」
「前衛のメイジ……モモ・フレアさんと言ったかな……。あの子は、前衛のはずなのに、ほとんどナイトくんの背後に隠れていたどころか、相手の強烈な打撃攻撃を受けた際に驚いて気絶していた……。それを、分かっていたかのように氷魔法のメイジが支え、何やら氷魔法を流し続けていた。リゲルくんのような、『魔族の力による暴走』とは違って、モモさんは恐らく、『理性がある状態で人を傷付けることを恐れ、魔法を発動したくない』のだと思う。それを、静かに覚まし続け、理性がギリギリ飛んだところで、全員でのシンプルな『魔力の譲渡』でモモさんに魔力を与え続けた。そして、最後の強力な炎魔法…………」
「めちゃくちゃ計算してんじゃねぇか……。相手の打撃強化も、合体魔法も凄かった…………」
「ああ……これこそが、“平民だからこその知恵による力” なんだろう……。膨大な魔力があれば、どうしても単純な魔法攻撃の強化を考えるが、彼らはいかに属性を掛け合わせたり、個性を活かすか考え続けているんだ……」
ヒノトは、ボロボロな戦士たちを見て震える。
「すげぇ……俺も早く戦いたい…………!」
「ヒノトくん……。『焦ることはない、じっくり魔法の掛け合わせを知っていこう』と言いたいところだが……。シード権のパーティの試合は後回しになる。だから、次がもう僕たちの試合だ。急ごう…………」
(次が出番だと分かっていたから、早めに切り上げようと思っていたのに、王族の僕でも見入ってしまった……。次の戦いも、決して気合は抜けないな…………)
そして、DIVERSITYの四人は控え室まで駆けた。