数日後の休日。二人は、街外れの小さな公園にいた。
噴水の横にある広場にはベンチがいくつか並び、子ども連れや散歩中の人たちがのんびり行き交っている。
ステージなんて立派なものはない。
ただ、良規の青いギターと佳奈の声が響く場所があればそれで良かった。
「本当にやるの?」
良規が笑いながらギターケースを開ける。
佳奈は胸の鼓動を押さえきれず、そわそわと辺りを見回した。
「だって、誰も聴いてくれなかったらどうするの……」
『その時はその時や。練習やと思えばええ。』
軽く肩をすくめる良規の言葉に、少しだけ安心する。
でも、いざ歌うとなると、足が震えるような緊張が押し寄せてくる。
良規はギターを膝に抱え、弦を軽く鳴らした。
青い音色が、空気をふわりと変える。
『いける?』
その問いに、佳奈は深呼吸を1つ。
「……うん」と小さく頷いた。
ギターのリズムに合わせて声を出す。
最初は緊張で喉が固く、思うように響かない。
けれど、良規の視線が”大丈夫や”と言うように優しく向けられて、少しずつ声が解けていった。
いつの間にか、公園にいた人たちが足を止めてこちらを見ていた。
子どもが手を叩き、年配の夫婦が微笑み合いながら耳を傾けている。
「……っ」
思わず胸が熱くなり、歌に込める力が強くなる。
良規のギターがそれに応えるように鮮やかに広がり、二人の音が空に溶けていく。
曲を終えると、思いがけない拍手が広場に響いた。
佳奈は驚きで目を見開き、良規と顔を見合わせる。
『なぁ、言うたやろ?』
良規が笑う。
佳奈も、自然と笑顔がこぼれていた。
小さな一歩。
でも、この初めてのステージの緊張と喜びは、きっと一生忘れない。
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