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第三章 氷晶と炎音
番外編② 春を待つ雪
フィルディア王国では、長い冬が終わりを迎えようとしていた。
季節はもうすぐ春。
けれどこの北の国では、まだ雪は大地を覆い続けている。
それでも、その日の空は珍しく晴れ渡り、柔らかな陽射しが白銀の世界を照らしていた。
窓から差し込む光が、部屋の中を優しく包んでいる。
王城の一室。
パチパチと火が燃える暖炉の前。
「……それから、王子様は――」
母親の優しい声が響く。
膝の上には絵本。
その隣には、八歳のジュウタロウと五歳のリリア。
二人とも真剣な顔で物語へ耳を傾けていた。
そして、少し離れた場所には
大きな白狼が身体を丸め、気持ちよさそうに眠っている。
「……リュカ、寝ちゃったね」
リリアが小声で言う。
白い毛並み。
大きな身体。
けれどジュウタロウ達にとっては怖い獣ではなく、生まれた時からずっと側にいる、大切な家族だった。
その時、ジュウタロウはふと顔を上げた。
窓の外、雪に反射した光が眩しく輝いている。
「……母上」
「どうしたの?」
「外で遊びたいな」
ぽつりと呟く。
すると
「私も!」
リリアがすぐに顔を上げる。
「お兄様、雪だるま作りましょう!」
その声に、眠っていたリュカが耳を動かす。
ゆっくり顔を上げ、大きく伸びをした。
まるで、自分も行くと言っているようだった。
母親は困ったように笑う。
「もう少し暖かくなってからにしましょう?」
そう言って、二人の頭を優しく撫でる。
「風邪を引いたら大変ですからね」
その時だった。
コンコン。
扉を叩く音。
「ジュウタロウ、俺!」
聞き慣れた声。
ジュウタロウが立ち上がり、扉を開ける。
そこにいたのは、赤茶色の髪をした少年、アロハだった。
アロハの父は、フィルディア王国の騎士団長を務める人物。
その息子である彼は、ジュウタロウと同い年。
幼い頃から王城へ出入りし、二人は兄弟のように育ってきた。
勉強も、剣の稽古も、庭で遊ぶことも、いつも一緒だった。
そしてそんな二人を追いかけるように、小さなリリアがついてくる。
その後ろには、子どもたちのお守り役のような白狼、リュカ。
白銀に閉ざされた国。
けれど、この三人と一匹にとって、
毎日は温かかった。
「今日、天気いいからさ!」
アロハが目を輝かせる。
「久々に外で遊ぼうぜ!」
ジュウタロウは母を見る。
少しだけ迷う顔。
すると母は、仕方ないわね、と微笑んだ。
「ちゃんと暖かい格好をして行くのよ」
「はい!」
三人の声が重なる。
-–
白い裏庭。
石畳も、木々も、すべて雪に覆われている。
けれど太陽の光を受けて、雪は宝石のように輝いていた。
「わぁ!」
リリアが駆け出す。
「危ないよ!」
ジュウタロウが慌てて追う。
「待てー!」
アロハも笑いながら走る。
その瞬間、リリアの足が滑った。
「きゃっ!」
小さな身体が雪へ倒れる。
「リリア!」
ジュウタロウとアロハが同時に駆け寄った。
「大丈夫?」
「痛いところないか?」
両側から手を伸ばす。
リリアは涙目になりながら、必死に堪えていた。
「……泣かないです」
ジュウタロウが少し驚く。
そして優しく笑った。
「偉いね」
アロハも笑う。
「でも無理するなよ。
ここはゆっくり歩くんだ」
そう教える。
すると、リュカが近づき、リリアの頬をぺろりと舐めた。
「ふふ」
リリアが笑う。
「リュカ、くすぐったい」
その笑顔を見て、二人も笑った。
-–
それから、三人は夢中で遊んだ。
大きな雪だるまを作る。
雪合戦をする。
リュカに乗って雪の上を走る。
冷たくなった手を、暖かい息で温めた。
何度も笑った。
やがて、雪の上に並ぶ三つの小さな雪だるま。
「これはお兄様!」
リリアが指差す。
「これはアロハ!」
「じゃあこの小さいのはリリアだな」
アロハが笑う。
そして、一番大きな雪だるま。
ジュウタロウが首を傾げる。
「これは?」
リリアは嬉しそうに笑った。
「リュカです!」
白狼が鼻を鳴らす。
「嫌なの?」
リリアが聞く。
けれど、ジュウタロウには分かっていた。
きっと嬉しいのだと。
「じゃあ」
ジュウタロウが笑う。
「来年も作ろう」
アロハも笑った。
「どんどん大きくしていこうぜ!」
母親は、少し離れた場所からその光景を見ていた。
優しい笑顔。
「ええ、楽しみだわ」
その言葉に、三人は笑った。
何気ない一日。
特別な出来事なんて何もない。
でも、確かに、大切な一日だった。
白銀の世界の中。
春を待つ雪のように、
小さな幸せは、静かにそこにあった。
コメント
1件
**みぅ🤍🥀:** 番外編なのに、なんでこんなに胸がぎゅってなるんだろう…💧 白銀の世界で遊ぶ三人とリュカが、ただただ温かくて、眩しかったです。 「何気ない一日」をこうして丁寧に描けるcomiさんのやさしさが、一ページ一ページに詰まってて、読み終わったあと、ほんのり涙が出ました。 本編とはまた違う、春を待つ雪みたいな静かな幸せ…大好きです。本当にありがとうございます🌙🤍