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凪川 彩絵
#独占欲
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と言うことはもしかして一緒に?☺️
廊下に出た途端パッと点った、足元を照らすセンサーライトの明かりが目に刺さる。
さっきみたいにリビングにいてくれると思った晴永はすでに作業を終え、寝室へ入っているらしい。
「晴永さん、お願い、助けて!」
ノックも忘れて、そのまま晴永の寝室の扉を平手でペシペシ叩く。
と、中からガサガサと衣擦れの音がして、低い声が返った。
「……どうした」
扉が開く。
スウェット姿の晴永が、怪訝そうにこちらを見る。
瑠璃香は半歩、無意識に近づいていた。
「へ、部屋に……」
言葉がうまく出ない。
「何だ」
「く、蜘蛛が……」
一瞬の沈黙。
晴永が、スッと瞳を眇める。
冗談を言っている顔ではないと察してくれたのだろう。
「どこだ」
短く問う。
その冷静な声音に、瑠璃香は救われた気がした。
「わ、私の……部屋です」
情けないと分かっているのに、指先が半ば無意識に晴永の服の袖を掴んでいた。
気づいて、慌てて離そうとした、その瞬間。逆に、手を繋がれていた。
大きな手のひらは瑠璃香のものより温かくて、何だか安心感がある。
「行くぞ」
晴永はそれ以上、何も言わなかった。
瑠璃香の手を引いていることも、距離が近いことも。
ただ当然のように瑠璃香の前に立つ晴永の背中が、やけに頼もしく見えた。もう、この背中から離れたくないと思ってしまうくらいに――。
***
瑠璃香の部屋へ戻ると、さっきまで天井近くにいた小さな影は、もうどこにもなかった。
「……あれ?」
壁も、天井も、カーテンの裏も。
晴永があちこち探してくれているのに恐る恐る付き従って目を凝らしても、それらしい影は見当たらない。さっきまで瑠璃香をからかうみたいにピョンピョン跳ねていたあの虫は一体どこへ消えてしまったんだろう?
「どこ……行った、の……?」
つぶやいたらその事実が改めて認識されて、背筋がゾクリと泡立った。
見るのも怖いけど、見えているほうがまだマシ。
どこにいるのか分からないほうが、ずっと怖い。
「……無理」
思わず呟くと、晴永が瑠璃香を振り返った。
「いなくても怖いか?」
「は、はい……。だってさっきまでは、確かにそこへいましたもん」
視線が泳ぐ。
クローゼットの隙間、ベッドの下、カーテンの影。
どこに潜んでいるか分からない。
胸の奥がひゅっと縮んで、晴永と繋がれた手へ、無意識に力がこもる。
「今にもどこかの物陰から飛び出してきそうで怖いです……」
震える声で訴える瑠璃香の逼迫した心情なんてお構いなしに、なまこがからからと回し車を回す音が響く。
「だったら……今日はもう、ここで寝るのはやめろ」
晴永が淡々と言う。
反論できなかった。