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『凛として、凍てついた想いを』

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『凛として、凍てついた想いを』

4 - 第四章 『鬼は、誰よりも孤独だった』

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2025年08月03日

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夜明け前の空は、誰にも見えない傷のように、淡く、鈍く、広がっていた。

上弦の参・猗窩座は、森の中の巨岩に腰かけていた。

風は冷たい。だが、その温度すら、もう肌には感じられない。


鬼になって久しい。

“痛み”も、“寒さ”も、“渇き”も――何も感じなくなっていた。


だが、あの目だけは、焼き付いて離れない。


「……また、あんな目で……見られるとはな」


あの少年――凩 侃。

人間のままで、あそこまで強くなっていた。

あの時の弱く、必死で、自分の後をついてきた子供とは違う。

だが、根底にある“心”は――変わっていなかった。


「……でも、もう、俺とは違う場所にいる」


そう呟いた声に、影が応えた。


「情に流されたな、猗窩座」


森の奥、影のように現れたのは――鬼舞辻 無惨だった。


「貴様の“迷い”があの少年を守った。だが、今度は許さぬ」


「……」


「凛柱・凩侃。あれは、私の“器”となる存在。

人間などでは終わらせぬ。“鬼”として、永遠を共にさせる」


「ふざけるな……!」


怒鳴りかけた猗窩座の喉を、無惨の冷たい“気”が締めつけた。


「命令だ。次に接触したとき、“連れてこい”。

拒めば――貴様も終わりだ」


言い終えると同時に、無惨の姿は闇に溶けた。

残されたのは、焼けつくような命令の余韻と、己の無力感。


「……俺は、また……守れないのか」


猗窩座の拳が、岩を叩き割る。



鬼殺隊本部――朝


その頃、凩侃は本部の庭で鍛錬をしていた。

無言の型。静かな足さばき。

柱であることを自らに課すような、正確無比の動き。


そこへ、ある人物が足音を立てずに現れる。


「……侃くん。少し、話してもいい?」


それは胡蝶しのぶだった。

優しい笑顔。けれど、その眼差しは鋭い。


「……鬼になりかけた子を見たことがある。炭治郎くんのこと、知ってるわよね?」


侃は微かに目線を動かす。


「あなたにも、あの時の炭治郎に似た“兆し”があるの。

感情と力のバランスが、いま――とても危うい」


「……鬼にはなりません。俺は、人間です」


しのぶは少しだけ、悲しそうに笑った。


「そう……なら、いいのだけれど」


それだけ言って、彼女は去っていった。


侃は、ふと自分の手を見る。


手のひらが、少しだけ震えていた。


(俺は……)


(鬼じゃない。鬼になんて、なりたくない)


(……でも)


(会いたいと思ってしまった。戦いたくなかったと思ってしまった――あの人に)



柱の間でも――“疑念”が広がる


「猗窩座との関係が、浅くないってことは確かだな」


不死川実弥が、口を開いた。

会議室には数名の柱。鬼の動向と、侃の今後を協議していた。


「感情を引きずるな。柱だろうが、情を挟めば死ぬ」


「……不死川、それでも彼は斬るべき時に、刃を振るった。結果、敵を逃したとしても、それを責められる筋合いはない」

義勇が珍しく口を挟む。


「だとしても、“無惨が動いてる”となれば話は別だ」

しのぶが静かに補足する。


「……最悪、侃くんが“鬼にされる”危険性も考慮して、対処を……」


言い切らないうちに、煉獄が立ち上がる。


「凩を信じよう。

彼は人間として、ここまで来た。

俺は信じたい。あの少年の“凛”を、心の剣を」


沈黙。

それぞれの想いが、ぶつかることもなく、交差していった。



一方その頃――猗窩座は


“決意”していた。


無惨の命令に従えば、侃は鬼になる。

逆らえば、自分は消される。


だから――その前に、“連れていく”。


自分の意思で、侃を連れて逃げる。

人間のままで、どこか遠くへ。


「もう、殺したくない。

あの目を、泣かせたくない」


初めてだった。

誰かの“ために”動こうとする自分を、猗窩座は理解していた。



次回――運命が動き始める


侃のいる場所に、猗窩座が再び現れる。


連れていくために。

奪うために。

あるいは――守るために。


『凛として、凍てついた想いを』

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