〈早乙女 裕香 の真実〉
_はぁ、疲れたな
教師という職業は何故こんなにも辛いものなのかと私は考えていた。
寝る時間を惜しんで授業の用意をしても、生徒たちは皆机に突っ伏せて見向きもしない。1時間ずっと顔を見ない者もいる。その後は教師一同の会議が始まり、考査の時間割やイベント事の役割の割り振りが行われる。土日は部活動の監督や遠征の付き添いでほとんど時間が失われる。勿論、残業代は出ない。
こんなにも過労職だからか、職を離れる者や精神を壊す者も多い。しかし、最近の私は体も心もすこぶる軽かった。私には心当たりがある。
佐伯の存在である。彼女と付き合い始めてからは仕事が楽しくなった。毎日彼女と会えることを考えるだけで幸せになれた。法的に言えば未成年に手を出すことは許されていない。だが、彼女の存在は私にとって唯一の救いでもあったのだ。
松上の事件について彼女は何と思っているのだろうか。恋仲である私が罪を犯したことに対して嫌気がさしたのは確実だろう。しかし、誰かにこんなにも愛されるということは非常に心地の良いものであると感じることができた。
この時、初めて佐伯に恋心を抱きつつあることを実感した。教師という職業柄、いや一般的な考えとしてかなりまずい過ちをしていることにも佐伯も私も気づいている。この恋仲も殺 人も世間に知れ渡れば、教師としても人間としても終わりの幕を閉じるだろう。
頭によぎる、私にある選択肢は一つ。
目の前にある生徒たちの提出物の採点を終え、職員室を後にした。
遠くに見える華奢な後ろ姿に私は目を細めた。揺れるポニーテールに、後ろからでも分かる、ノートを精一杯抱えて大きく上がる肩。
_可愛いなぁ。
私は三番目の曲がり角まで先回りし、彼女を押さえつけ”名残惜しく”体中を愛撫した。