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「聖女様、お支度よろしいでしょうか？」
修道女見習いのセリーヌは、毎日決まった時間にやって来るリーゼロッテのお世話係だ。
――早いもので、もう半月が経つ。
教会堂へ到着した初日、すぐに御偉方との謁見が待っていた。
リーゼロッテの感想としては……。純粋な信仰をしている者と、全くそうでない者の2種類の人間がいるのだと正直呆れた。
その中でも、圧倒的に最悪だったのは、まるで俗人上がりのような枢機卿だった。
昔は、俗人でも枢機卿になれたらしいが、今は聖職者からしかなれない。
だとすれば、枢機卿は国の政治に関わる為、ずる賢……もとい。計算高くなってしまうのかもしれない。
テオは、聖女の側仕えとして助祭の衣が与えられた。
テオを側に置く条件は、こちらから出したのだが――。ユベールが、あんな思いをしてまで試験を受け手に入れた助祭の資格を、体裁のためだけで簡単に与えてしまって良いのだろうかと、教会に不信感が募る。
まあ、それは置いておいて。
テオの助祭姿はあまりにも美しく、銀髪が風に靡くだけで修道女達の感嘆のため息が聞こえて来る。
（……修道女がマズくない？）
そんな聖職者のひとり、聖女の役目は主に大聖堂に礼拝にやって来る貴族に、祝福や加護を与えることだった。
怪我や病気も癒しをかけて治したりもするのだが。今のところ、リーゼロッテがら。
とはいえ、いざその祝福をする場になると、聖女じゃないので祝福や加護がよく分からなかった。
だから、片っ端から少量の癒しをかけておいたのだが――。
物凄く元気になって帰って行く貴族達を見て、慌てた司教から指導された。祝福の言葉と共に、ほんの少しの魔力を浴びせれば良いと知った。
（なるほど、その程度でいいのかぁ）
リーゼロッテは指導を受けながら、司教を観察する。
（あの時、ラシャドに魔石を渡したのは、この司教の筈だけど……。うーん、悪い人に感じない。なんでだろう？）
ちなみに，この教会の聖職者の中で、ファーガスのようにテオの魔力に感付く者は、誰一人いなかった。
お陰で、安心してリーゼロッテはこの教会堂と修道院に、魔力感知の魔法を張り巡らせることが出来た。
あの魔石を作っている魔術師が、誰かと接触する為にやって来るかもしれない。可能性が高いのは、司教だろうが。
（どう考えても、この教会内にその術者は見当たらないわ）
不思議なことに、ここへやって来てから一度も魔石からの指示が聞こえない。
まだ、リーゼロッテを操る必要が無いという事なのだろうか。
（……ん？）
リーゼロッテの魔力感知に引っかかった者がいる。
他の貴族とは、魔力量が全く違う。
『テオ、誰かやって来たみたいね』
『奴は何しに来たのだ？』
『んん？ 奴？』
テオと念話していると、セリーヌがやって来た。
「聖女様、お客様がいらっしゃいました。枢機卿様が、お呼びです」
セリーヌに連れられて教会堂に行くと、そこからは司教に案内される。
普段は一切使われていない、特別な応接間に促されるまま入ると――その客人は居た。
「初めまして、聖女リーゼロッテ」
そう声をかけてきたのは、第二王子ジェラールだった。
テオはジェラールの魔力だと判っていたのだ。ジェラールなら、魔力が多くて当たり前だ。王族なのだから。
いつも、魔道具でやり取りをしているのに、今日やって来ると知らされていなかった。
一瞬、驚きでリーゼロッテの眉が上がったが、枢機卿に気づかれないように、習った通りの聖女の挨拶をする。
ジェラールは悪戯っ子みたいに、その姿を楽しそうに眺めていた。
（絶対、私を驚かせようとしたのねっ。全く……子供かっ！）
「聖女リーゼロッテ、貴女に頼みがある」と、ジェラールが話し出す。
それは、王家からの正式な依頼。
今までの聖女よりも、リーゼロッテが力のある聖女だと耳にした王と王妃が、王太子の病を診てほしいと言ったそうだ。
（ああ、だから正式に会いに来たのね。まあ、事前に言わなかったのは……わざとだろうけど！ ボロが出たらどうするんだか。後で文句言ってやるっ）
とはいえ、一度は王太子に会ってみたいと思っていたので、ちょうど良かったかもしれない。
王命を受けて、断れる訳も無いのだから。
リーゼロッテが登城する話は性急に進んで行った。勿論、内密に。
◇◇◇◇◇
――数日後、ジェラールが迎えにやって来た。
どうして王子が直接迎えに来るのかと、突っ込みたかったが……。人前でそんな無礼な態度は許されないので、聖女らしく楚々としてジェラールの馬車へ乗った。
テオは枢機卿の手前、御者の隣りに乗る。
枢機卿もジェラールの馬車に、一緒に乗り込もうとしたが……。ジェラールはちゃっかり枢機卿用にと、別の立派な馬車を用意しており、そちらに乗るようにと言った。
こういう時、女好きな無節操な馬鹿王子との評判は役に立つのだろう。
「やっと、二人だけになれたな」
魅力的な笑みを浮かべ、今にも口説き出しそうな言葉を発する。
リーゼロッテは嫌そうに顔を顰めた。
「今度から、ちゃんと連絡してください。ボロが出たら、どうするんですかっ」
「はっ！ リーゼロッテがそんなヘマをする訳が無いだろう。堂々と、離宮に潜り込む程の神経の持ち主が、何を言っている」
ジェラールは久しぶりのリーゼロッテとのやり取りが、楽しくて仕方ないようだ。
それからの道中――。
馬車で邪魔が入らないうちに、王太子の病状についてを詳しく聞いた。
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