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「何だ? 面倒だなぁ……」
煙草を灰皿に押し付けた律は文句を言いながらも玄関へ向かいドアを開けると、
「何の用だ?」
玄関から聞こえてきた律の声は明らかに不機嫌で、誰が来たのか気になった私はこっそり覗き見る。
立っていたのは知らない男の人で、心なしか律に似ているような気がした。
その人は覗き見していた私に気付くとニコリと笑みを浮かべながら
「もしかして、律の彼女? 意外だなぁ、彼女が女子高生だなんて」
そう茶化すような言葉を発すると、そんな彼に更に不機嫌さを増したらしい律は、
「アンタには関係ねぇだろ? さっさと用件を言え」
より一層低い声で言い放った。
「……はいはい。律がきちんとやってるのか父さんも母さんも鈴も心配してるからね、様子を見に来たんだよ」
「心配される事なんざねぇよ。子供じゃあるまいし。俺は忙しいんだ。帰ってくれ」
それだけ言うと、律は強引にドアを閉めて鍵を掛けてしまった。
「……律……?」
無言で部屋に戻って来た律は窓際に座り煙草に火を付け始めた。
「……大丈夫?」
怒りとは裏腹に律の表情は少し悲しげに見えたから『大丈夫』かと問い掛けると、煙を吐き出しながら律は、
「……今のな、一つ上の、兄貴」
「……え? お兄さん!?」
驚くべき事実を口にした。
訪ねて来た人は律のお兄さん。だから、律に似ていたのだ。
「追い帰しちゃって、良かったの?」
「ああ。関わりたくねぇからな」
律は煙草を咥えたままで冷蔵庫に向かいビールを取り出すと、再び窓際に座りながらプルタブを開けて勢いよくビールを飲んだ。
話しかけづらい雰囲気の律をよそに私は再び夕飯の準備を始めたのだけど、どうしてこんなにも不機嫌なのか理由がサッパリ分からなかった。
律のお兄さんが来てから数日が経ったある日曜の昼下がり、井岡さんとの打ち合わせに出ていて律が不在のアパートで、私は一人留守番をしていた。
家事もひと通り終わったこともあってソファーに座ってまったり過ごしていると、陽当たりがよく、ついウトウトしかけてしまう。
そんな時、来客を知らせるインターホンが鳴って一気に目が覚めた。
けれど、出がけに誰か来ても出なくていいと律が言っていた事もあって居留守を使っていたのだけど、コンコンッとドアをノックする音に加えて、「律?」と彼を呼ぶ女の人の声が聞こえた瞬間、私は迷わず玄関に駆け寄ってドアを開けた。
ドアを開けると、立っていたのは小柄で可愛らしい女の人だった。
私を見て驚いた様子の彼女。
「あの、ここ、古屋 律のお部屋、ですよね?」
部屋を間違えたと思ったのか、律の部屋かと確認する彼女。
「そうですけど、あなたは?」
そんな彼女に私が不機嫌気味に問い掛けると、
「わたし、古屋 鈴と言います。あの、律は居ますか?」
「律は出掛けてますけど……」
「そうですか。ではまた日を改めて来ると伝えてください」
ぺこりとお辞儀をした彼女はそれだけ言うと、足早に去って行った。
古屋 鈴。律と同じ苗字の彼女。
(御家族の、誰か? それとも、親戚?)
気になって仕方がなかった私は夕飯の買い出しに行くのも忘れ、ボーっとしたまま律が帰って来るのを待つ。
「ただいま」
そして陽が暮れた頃に律が帰ってきた。
「どーした? 元気ねぇな?」
「今日ね、古屋 鈴さんって人が来たよ」
帰って来て早々昼間訪ねて来た女の人の話をすると、
「鈴が?」
それを聞いて心底驚いた表情の律。
「……誰……なの?」
不安で仕方が無かった私は一番知りたかった質問を投げ掛けると、
「鈴は――義理の姉貴だ」
一瞬の沈黙の後、そんな答えが返ってきた。
「義理の、お姉さん?」
「ああ。兄貴の、嫁さん」
そう素っ気なく言った律は煙草に火を点けた。