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番外編 【新田は書店で気づかれないように立ち止まる】最終話
翌週、営業から初速報告が回ってきた。
爆発的ではない。
だが、悪くない。
地方の中規模書店で意外と動きがよく、感想投稿も少しずつ増えている。派手ではないが、確実な滑り出しだった。
新田はその数字を見て、静かに息を吐いた。
瀬尾が横から顔を出す。
「どうでした」
「何がです」
「だから、発表会」
「うるさいですよ」
「泣きました?」
「泣きません」
「じゃあニヤつきました?」
「それもありません」
「ほんとかなあ」
新田は資料を閉じた。
「ただ」
「ただ?」
「書店員のポップが、ちゃんとしてました」
「うわ、それ嬉しいやつだ」
「……まあ」
「よかったですね」
新田は返事をしなかった。
だが否定もしなかった。
デスクの引き出しには、昔の落選原稿。
机の上には、今売られている一冊。
そのあいだに積もった時間と、苛立ちと、説教と、修正と、生活の匂いを思う。
担当編集というのは、つくづく面倒な仕事だ。
腹も立つ。
報われないことのほうが多い。
それでも、ときどきこんなふうに、こっそり書店で立ち止まってしまう。
誰にも気づかれないように。
けれど確かに、胸のどこかで誇らしい顔をしながら。