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他の看護師達と共に、鳴海は用意された大量の輸血パックを1つ1つ花魁坂の腕に取りつけていく。
そして最後のパックをつけ終わると、傍で一部始終を見ていた一ノ瀬の隣に立って花魁坂に視線を向けた。
「先生、準備できました!お願いします。」
「うん、ありがと!」
「なぁ、鳴海。なんであいつにつけてんの?患者につけるんじゃねーの?」
「まぁ見てなって。俺の友達はすげぇから」
患者の頭側にスッと立った花魁坂は、いつもと変わらない調子で負傷した隊員へ話しかける。
時折見せる笑顔は、とてもこれから大掛かりな治療をするとは思えない程に穏やかだった。
「旦那、腕と脚どっちが欲しい?腕なら口を1回、脚なら2回閉じてよ。」
「(パク…)」
「腕ね…了解っす。」
「こ…子供…生…れ…抱き…め…たい…」
「しっかり抱かせてあげますよ。ただ俺の血を大量に”入れる”んで、マジ超痛いっす。我慢お願いしゃっす!」
「少し口開けてね〜」
「あ、あぁ…」
優しく話しかけた鳴海が枕元に膝をつき、メメの作った赤い小人達が患者の頭や顔が動かないように手を添えて押さえる。
チラッと友人に目配せをすれば、花魁坂は小さく頷いてから自身の手首を切りつけて血を流し始めた。
「俺の血は戦闘向きじゃないけど便利なのよ。この血は鬼の回復力を何倍にもしてくれる。」
「あんたたちも!押さえるの手伝って!」
「ううぅうぅうう!!」
「輸血ガンガン減ってるぞ!?」
「あんたたち突っ立ってないで、血ドンドン持ってきなさい!隣の部屋にあるから!持ってきたらメメちゃんにパスして!」
押さえる側に回らなかった遊摺部・手術岾・漣は言われるままに、隣の部屋から輸血パックを持ってくる。
そして彼らからパックを受け取ったメメは花魁坂の傍に立ち、輸血が途切れないように阿吽の呼吸でパックの付け替えを行っていた。
そうして花魁坂の血を入れ続けること数分、
ついに患者の体に変化が現れる。血の作用で細胞が活性化され、左手に始まり、次に右手、そして続けて肺が再生されていく。
苦しそうな声が止むと同時に、患者の両手と肺はすっかり元通りになっていた。
「手と肺が…治った…!」
「久しぶりに見たけど、やっぱりすごいね…!」
「ありがと!なるちゃんのサポートのお陰だよ。」
「なぁ、時間おいて脚も治せないのかよ?」
「少量なら何回でも治せるけど、俺の血は一度に大量に摂取すると抗体ができちゃうんだ。そーなるともう脚の再生までは出来ないんだ。これ以上摂取したら、体がもたないしね。」
「じゃあ鳴海の血でやればいいんじゃね?この人にはまだ鳴海の血は入ってねぇだろ?」
「同じ治療系だからか相性が悪いしなるちゃんの能力は戦闘メインのだし、菌単体だと部位を作るまでの能力はない。だから1人の体に俺ら2人の血を入れるのは危険なんだよ。」
「そうなのか…」
自分の案が上手くいかないことを知り、残念そうな表情を見せる一ノ瀬。
メメ達に指示を出しながらそれを横目で見ていた鳴海
それを見た花魁坂は苦笑しては再び患者へと声をかけた。
「旦那方、貴方たちはもう戦闘部隊から外されると思うっす。でもこれからは援護部隊で一緒に戦いましょうよ。バチバチにいい最新の義足と義手作らせまっせ。ねっ、なるちゃん?」
「うん!腕の良い奴知ってるから安心して!きみの気持ちは俺が引き継ぐから!」
「そういうことっす!ま!とりあえずリハビリ頑張りましょうね。」
「気合い入れないと死ぬからね〜」
「ありがとう…感謝しきれない…」
「君たちに治してもらえて良かったよ…」
優しく穏やかな笑顔で声をかけてくる鳴海と花魁坂に、隊員達はそう言って横たわったまま涙を流す。
その様子を見た2人も、顔を見合わせて笑顔を向け合った。
そうして治療を終えると、後の処置をメメ達看護師に任せて鳴海と花魁坂は次なる患者の元へ…
歩きながら、花魁坂は終始静かに治療の様子を見つめていた一ノ瀬たちに話しかける。
“これが鬼と桃太郎の戦争だよ”…と。
「あの隊員たちが未来の君たちかもしれない。色んな理由で前線に行きたい気持ちもマジで分かる!けど!前線だけが戦場じゃない。前線で前を向いて戦えるのは、その背中を守ってくれる人がいるからってことを覚えときな。戦う人の後ろで、傷ついた鬼を全力で助けるのが俺やなるちゃんの…援護部隊の仕事だ…ここが俺らの戦場だよ。」
「あんたマジかっけぇ!チャラついてて嫌いだったけど漢だぜ!」
「分かる!チャラ男だけど痺れたな!」
「ふへー俺の株爆上がりじゃん。」
「ふふっ。良かったね、京夜くん」
「つーか鳴海もだから!」
「へ?」
「へらへらして情けねぇ奴かと思ってたら、めちゃくちゃすげぇじゃん!マジ頼りになる!」
「えー、嬉しい〜」
「バカ!鳴海は俺の天使なんだから当たり前だろ!?」
「ちょっと、四季ちゃん…!」
「でも本当すげぇよ。鬼の国の天使は伊達じゃねぇな!」
「(また謎の単語出てきた…)」
「よっしゃあ!なんでもするぜ!ジャンジャン指示くれ!」
花魁坂の言葉に、テンションが上がる一ノ瀬と矢颪。
この一件で一ノ瀬はもちろんだが、矢颪もまた鳴海へ尊敬の眼差しを向けるようになるのだった。
照れ臭そうに生徒たちと話す鳴海を、花魁坂は優しく見つめていた。
鳴海が次なる患者の元へ向かおうとしていた一方で、花魁坂は一ノ瀬にあるお願いをする。
それは昨日運ばれてきた幼き少女・芽衣のケアだった。
両親が見つかっておらず、すっかり塞ぎ込んでいる彼女のことは、鳴海も気になっていた。
だが次々に運ばれてくる患者の対応で、なかなか相手ができずにいたのだ。
一ノ瀬の真っ直ぐで相手を思いやれる性格は、この短期間で鳴海も十二分に分かっていたし、この役割は適任だと彼らがいる方に笑みを向けた。
と、そんな穏やかな空気を切り裂くように、突如無数の足音が聞こえてくる。花魁坂を呼ぶ看護師の緊迫した声に反応して、和室の中にいた鳴海が廊下へ出れば、目の前を担架に遺体を乗せて運ぶ援護部隊の面々が足早に通り過ぎていった。
「あらぁ…」
「あらま…たくさん来たね。」
「京夜くん、これ…どういう…」
「俺も今状況聞くとこだから」
「(不自然な死体だな…)」
「見回りをしてた援護部隊が、大量の死体を回収したみたいです。ざっと30人ぐらいです。」
「30!?」
「そんな量の死体が放置されてたわけ?誰も気が付かなかったの…?」
一ヵ所に複数の遺体があること自体は、各部隊がチームで動いている以上有り得ない話ではない。
だがそれでも、30という人数は異常だった。鳴海と花魁坂が顔を見合わせてそんな話をしていると、不意に幼い声が聞こえてくる。
「待って!パパ!ママ!」
「芽衣…」
「芽衣ちゃんのご両親だったのか…」
「うああぁぁぁ!!パパァ…!ママァ…!」
「慣れないね…本当に…」
「うん…」
運ばれてきた遺体の中に自分の両親を見つけ、その場で泣き崩れる芽衣。
まだまだ親の愛情が必要な年齢である。だがこの瞬間から、彼女は天涯孤独の身になってしまったのだ。
その絶望や孤独、悲しさを含んだ泣き声は鳴海や花魁坂の心にも暗い影を落とす。
「…ちょっと水飲んでくる」
「うん、分かった。…大丈夫?」
「大丈夫。芽衣ちゃんのこと、お願いね。」
「了解。」
1つ大きく息を吐いて気持ちを切り替え、グッと顔を上げる鳴海。
自分のことを気にかけてくれる花魁坂に少し笑みを見せてから、鳴海は廊下に出た
戻ってきて治療を始めて少し経った頃、鳴海はふと隣の和室が騒がしいことに気がついた。
隣は今さっき運ばれてきた死体が安置されているだけ…騒がしくなる要素はない。
周りにいた看護師たちも自分の仕事をしつつ、不思議そうな表情で隣にチラチラと目を向けていた。
そしてついに無視できない程の騒々しさを感じた矢先、障子が外れる大きな音が聞こえてくる。
只事じゃないと鳴海が廊下に続く障子を開けると、さっき運ばれてきた死体が立ち上がり、看護師や援護部隊に襲いかかっていた。
とりあえず目の前にいるゾンビのような死体を拳で殴り飛ばした。
「えぇ…何事?」
「な、鳴海隊長ぉ!きゅ、急に死体が動き出して…!」
「(! それって…もしかして…!)他は?!」
「無陀野先輩と前線に行きましたっす…」
「そうだった配置してる戦闘部隊はみんな前線に送ったんだった…メメちゃん達は自分の仕事して!俺が何とかする!」
「うっす!」
廊下に飛び出て辺りを見渡せば、一ノ瀬や花魁坂もまたゾンビ化した死体に襲われていた。
先程まで2人の傍にあった死体は芽衣の両親だ。まだ彼女自身もすぐ近くにいる…
どれだけ想像を膨らませても、最悪な過程と結末しか浮かんでこない。
どんどん倒していき、鳴海は悪い想像を打ち消すように、現在進行形で襲われている友人の元へ走った。
「京夜くん!!」
「なるちゃん…!危ないから来ちゃダ…メ…って、すごい。」
「ケガしてない?」
花魁坂に襲いかかっていた死体の首を吹き飛ばすと、鳴海は彼の顔を覗き込む。
京都を出て行った頃とは比べ物にならないほど強くなった友の姿に、今の状況も忘れ、花魁坂の表情には笑みが浮かんだ。
だがそれも束の間、すぐに次の死体が襲って来る。
咄嗟に花魁坂を守るように抱き寄せると、鳴海は目を瞑り、降りかかるであろう痛みに備えた。そんな2人を助けたのは、来る途中で無陀野から貰った特注のハンドガンを手にした一ノ瀬だった。
「鳴海!チャラ先!」
「四季ちゃん…!」
「ありがとう…援護部隊は戦闘はからっきしなんだ。患者を安全な部屋に避難させたいから、仲間の死体の対処お願いできるかな?」
「あぁ…芽衣を頼むよ。」
「援護部隊!早急に患者の避難と二次被害の回避に努めろ!ケガした人は1箇所に!京夜くん、お願いね。」
「了解!」
ゾンビ化した隊員たちを相手にする生徒たちを心配そうに見やりながら、鳴海もまた自分の仕事へと戻って行った。