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今、俺の勤める旅館には大所帯の客が来ている。
みんなは知らない、俺だけが知っている彼の素性。
「ルークさん、おかわりいいですか!」
「はーい! ちょっと待っててねー!」
彼らは、この世界の救世主だ。
「ふう……本当、以前と変わらず、とてもいい温泉ですよね、ここの温泉は」
ヤマトくんは、風呂上がりにベランダへと赴いた。
俺が呼んでいた。
「はい、これ」
「え、いいんですか?」
「サービスだよ。また一回り成長したみたいだね」
俺は、ヤマトくんにコーヒー牛乳を差し出した。
「初めて会ったのも、この旅館のベランダだったね」
「そうですね……あの頃は、こんな旅になるだなんて想像もしていませんでした……」
少しの静寂の後、ヤマトくんは口を開ける。
「そう言えば、あの時ルークさん『この世界が壊れるのが見たい』って言ってましたよね……? なんか、ずっと助けられていたような気がするんですけど……」
「あー、あれか。あれは君たちを焚き付ける為だよ。君には強くなってもらう必要があったからね」
「なんだ……そう言うことだったんですか……」
「それより、面白い話をしよう。君たちはさっき、この楽園の国に着いたわけだけど、あの自由の国の王様、キング様と、この国の神ゴーエン、今ではどうなってると思う?」
「うわ、考えてませんでした……! 確かに……神を信じていない王様と、神を露骨に体現しているゴーエン……。一触即発じゃないですか……!」
焦るヤマトくんに、俺はニタリと笑う。
「それがなんと、キング様の腕が買われて、ダンさんと一緒に漁に出ているんだ! ゴーエンも国の管理は面倒とか言って、キング様を王様に担ぎ上げたのにな!」
「え、じゃあキングは今、王様をしながら漁師になってるんですか!?」
「そうなんだよー! 笑っちゃうよねー!」
そして、俺は一枚の紙を差し出した。
「これ……喧嘩祭りじゃないですか……!?」
「もちろん、ヤマトくんなら出るよね……?」
「え、えぇ!? 出ないですよ!?」
「今年の出場者はすごいぞ〜! 守護神のダンさん、キング様、ヴォルフ、フーリン、カザンさん、ガドラ、正義の国からも何人か参加するみたいだな」
「えぇ……元龍族の一味、勢揃いじゃないですか……」
「ああ、今度は戦いじゃない。祭りだ。こうして、元々争い合っていた俺たちは、全員祭りに参加できる」
ヤマトくんは、少しだけ嬉しそうにしていた。
「君のお陰だよ。……さあ、出るかい?」
「はい……」
そう言うと、ヤマトくんは満面の笑みを向けた。
「そこまで焚き付けられたら、出るしかありませんね。こんなに楽しみな戦いは、世界始まって初めてです!」
そんな和かなヤマトくんに、もう一度別の紙を見せる。
「ちょ、ちょっと! もう既に申し込んであるじゃないですか!! ルークさん!?」
「アハハ! こんなに弄られる世界一お偉い神様なんて、他の世界どこを探してもいないだろうね!」
すると、ヤマトくんは自分の胸に手を当てる。
「はい……。僕はもう、“傍観者” じゃないですから!」
そしてまた、ニコッと笑った。
――
喧嘩祭りは、例年、楽園の国近郊の、小さな島国で行われる…………予定だったのだが。
“岩神魔法 クロノ・スタシス”
炎の神ゴーエンと、俺、水龍アークとの戦いでボロボロになってしまった闘技場を、岩の神カズハは、更に巨大な岩盤を地面にし、一回り大きな闘技場を作り上げた。
「す、凄い……! こんな広い会場なんて……!」
「ふふ、そりゃあ何と言っても…………今までとは “規模” が違うからね」
「規模ですか……?」
不思議そうなヤマトくんは、参加者表を見て驚く。
「トーナメント方式の撤廃に…………神の参加が許されてる…………!?」
そう、今年からの “喧嘩祭り” は ――――――
「さあ、腕が鳴るぜ!!」
【業炎】の加護、楽園の国、炎の神ゴーエン。
「荒っぽいのは好きじゃないが、勝ちに行こうかな!」
【大地】の加護、守護の国、岩の神カズハ。
「さあ! みんなでたくさん遊ぶぞ〜!!」
【海人】の加護、自由の国、水の神ラーチ。
「みんなと会うのは久しぶりだ…………」
【雷轟】の加護、正義の国、雷の神ロズ。
「回復なら任せてくださいね〜!」
【疾風】の加護、自然の国、風の神ヒーラ。
そして、
「まさか、お前も出るなんてな」
「貴方がそれを言うんですか? 唯一神ともあろうお方が…………?」
「僕はもう唯一神じゃない。こんな戦い、誰が勝ってもおかしくない。特に、お前がいるならな! ミカエル!!」
【救済】の加護、天使の国、元光の神ミカエル。
「ふふ、お久しぶりですね、皆さん」
「貴方は…………!」
ヤマトくんから森羅万象の力を授かった、元龍族の一味の長にして、現唯一神の責務を追うカエンさん。
「私は参加しませんよ、今日はゆっくり、彼らと一緒に観客席で楽しませて頂きます」
そう言うと、カナンや、仙人、九条姉弟、ロイ、アゲル、ルインの大所帯を引き連れ、また朗らかな笑みを浮かべていた。
「今年から七神の皆さんも参加できるようになると聞いたもので。君が参加するなら、魔法の使えなくなってしまった君には分が悪すぎるでしょう」
そう言うと、カエンさんはヤマトくんの肩に手を当てる。
ブオッ…………!
ヤマトくんの周りにはふわっと空気が舞い込み、虹色に少しだけ光り輝いた。
「わっ! 懐かしい感覚……!」
「神の加護魔法は使えません。まあ、そもそも喧嘩祭りで加護魔法は禁止らしいですけどね。でもその代わり、今まで使っていた魔法なら一時的に使えるようにしました」
「ありがとうございます! これで皆さんと戦える!」
「それでは、ヤマトくん。ご武運を……」
「はい! カナンをよろしくお願いします!」
そして、参加者は大きな闘技場に集結した。
「申し訳ないですが、手は抜きませんよ、ヤマト」
「こっちのセリフだわ!」
「アンタ達だけで盛り上がらないでよ!」
「ハハっ、みんな楽しそうで何よりだな!」
「ヤマト、私、勝ってもいいのね?」
当然、セーカ、アズマ、ホクトの三人も参加。
「さーて、暴れてやる……!」
「ふふ、全部僕が潰すけどね……!」
「ふん! 我が真の力を見せてやろう!!」
「アハハ……みんなすっごいやる気満々だなぁ……」
元龍族の一味メンバー、ヴォルフ、フーリン、ガドラ、そして俺、ルーク。
「鍛えられた私の前に跪くが良い!」
「兄さんとの戦い……楽しみだ……!」
「神が相手でも俺が勝つ!」
「全身全霊で戦います……!」
国王キングに、フーリンの弟、カザン、炎の神守護神ダン、仙人ディムに仕えているリオラ。
他の守護神たちは、七神の代わりに国の守備を仰せつかっていた。
そして、七神も勢揃いし、遂に幕は開かれる。
まるで、夢のような光景だ。
神も、兵士も、英雄も、笑顔で拳を振るう。
全力で、魔法を放つ。
それなのに、こんなに温かい気持ちになれるのは。
こんなに優しい魔法を、こんなに温かい世界を、創ってくれて、ありがとう。
最後に残ったのは、やはりこの五人だった。
七属性魔法を扱うヤマトくん、元光の神ミカエル、炎の神ゴーエン、岩の神カズハ、そして、光魔法を扱う俺。
「やはり、光魔法を扱う者は手強いな!」
「やっぱ、戦闘を何千年も欠かしていない七神のお二人は一味違いますね…………!」
シュッ…………!
突如として、俺の背後に二人の影が襲い掛かる。
「俺もそう感じていた……! まずは消えてもらおうか、光魔法の使い手よ…………!!」
「ハハハハ! 貴様とはケリを付けたかったのだ!!」
炎の神と岩の神が一緒に…………!
奥では、ヤマトくんとミカエルが、互いの光剣を手に火花を散らしていた。
仕方ない…………!
“光魔法・リフレクト”
俺は、二人に両手を向けると、光を放つ。
「な、なんだこれ…………!」
二人の放った魔法は、そのまま二人を襲い、二人はそのまま場外へと吹き飛ばされた。
「少し卑怯かと思って使わなかったのですが、魔法を反射する魔法です。でも、武闘派の七神がお二人で共闘なんて、それこそ卑怯ですからね」
「ふふっ、読み切れなかった私の負けだ! やはり貴様は見所がある! これからもコキ使ってやるぜ!!」
「あちゃ〜、アリシアちゃんにドヤされそう〜……」
そして、最後の一人が、俺に光剣を向ける。
「さあ、最後の戦いです」
「ああ……ミカエル…………!」
俺はかつて、唯一神にご執心の光の神に見捨てられた天使の国の村人だ。
憎い気持ちは、もう残っていないと言えば嘘になる。
でも、この一振りは…………
「行くぞ…………!!」
“光魔法 ブラックヘル”
“光魔法 ラーク”
大きな孤島を、光が輝く。
幻想的な光は、様々な陽気な幻覚を見せる。
「まさか、ここに来てそんな魔法を最終手に使うとは思ってもみませんでした。遊戯魔法……。子供を楽しませる為に生み出された魔法、ラーク……」
光に詳しいミカエルであれば、その真意が分かる。
本来、この魔法は子供を遊園地に連れて行ったような感覚に陥らせるような、遊戯的な魔法。
しかし、幻覚作用を持つ光は、対光魔法に対し、自身の光を失わせる。
ミカエルはそのまま、バタリと倒れた。
その奥から、笑みを浮かべながら少女が駆け寄る。
「あはは……ヤマトくんが負けた理由が分かったよ。嬉しいなぁ……最高の優勝賞品だ…………」
少女は、倒れそうな俺をそのまま抱き締める。
「優勝おめでとう! かっこいいよ! お兄ちゃん!」
闇の神はもういないはずなのに、これは僕が見ている幻か、はたまた ―――――――― 。
こうして、喧嘩祭りは幕を閉じた。
この世界は、辛いこともあるけど、まだ笑えるよ。
さようなら、ありがとう。
また会えるその日まで、笑顔でいてね。
リメイク 完