「透子・・なんて言ってた?婚約のこと。やっぱオレが結婚すると思い込んでた?」
『そりゃぁな。さすがにそんな話急に聞かされたらな。それどころかまだ樹が本気で好きじゃないのかもしれないって自信無くして不安なってたぞ』
「え・・?そこまで・・?はぁ・・そんなはずないだろ。オレがどんだけ好きだと・・・」
そう言いつつも、そんな風にまた透子に思わせた自分にムカついて、悔しくて。
ここまで信じさせて、好きになってもらうまで、時間こんなにもかかったのに。
また不本意な理由で透子を不安にせるとか、オレ何やってんだよ・・・。
『でもお前がどれだけ透子ちゃんのこと真剣に想ってるかは、ちゃんとオレが伝えといたから』
「ありがと修さん」
『お前も多分いろいろあるんだろうからさ、大変だとは思うけど』
「だからと言って透子不安にさせちゃダメだよね・・・」
オレのこの環境のせいで、透子にも必要のない不安をさせてしまっているのは事実で。
『そうだな。透子ちゃんちょっと自信無くしかけてたけど、でもとりあえず樹の話聞いてやってって言っといたからさ。ちゃんと話し合えよ、樹』
「わかった。ちゃんと透子に説明する」
『あっ。でも透子ちゃん今日かなり荒れて、うちの店で閉店までずっと飲み続けてたんだよね』
「えっ?大丈夫なの?透子」
『あ~。酒は悪酔いしないように薄めておいたから大丈夫。でもまぁ精神的にな・・・』
「そっか・・・。とりあえずすぐ電話入れてみる」
『あぁ。まぁなんかあったらオレらなら相談乗るからさ。話聞いてやるだけでもよかったらそれでもいいから、いつでも連絡してこいよ』
「修さん・・・。ホント、ありがと」
『おう。頑張れよ樹』
「うん」
オレは修さんの言葉と気持ちを噛みしめながら、修さんとの電話を切った。
一番知ってほしくなかった人には、こうやって知られてしまう。
ずっと隠しておくつもりはなかったけど、ちゃんと自分の口から透子には伝えたかった。
透子をどれだけ不安にさせているだろう。
オレをどう思っているだろう。
自分の気持ちはずっと透子だけにあるから、もしかしたら大丈夫なのかもと、勝手に思っていたのかもしれない。
変な男のプライドで、自分の口から伝えたいだとか、ちゃんとケリをつけてからだとか、結局そんな理由は、今になればただの言い訳にしかならなくて。
オレの言葉を聞かず、一人で不安になっている透子がいるのは明らかで。
だけど、今透子が何を思って、どこまで不安になって、どこまでそれを信じているのかは、もう直接聞かなくちゃわからないから。
もう言い訳とか説明とかどうでもいい。
ただ透子の言葉にちゃんと応えたい。
透子が不安になっていること全部取り払いたい。
想いが溢れて来て、透子の携帯を鳴らす。
だけど何回鳴らしても繋がらなくて、呼び出している音だけが虚しく耳に響く。
この繋がらない時間が、呼び出しているコールの数が、透子の気持ちを表しているようで。
オレをそんな風に拒否られているようで。
ただ不安と心配だけが重なっていく。
今度は玄関のドアを出て、隣の透子の部屋のチャイムを押す。
だけど、やっぱり何の反応もなくて。
こんな夜遅い時間、修さんの店からはもう帰っているはずで。
反応がないのはもう眠ってしまったのか、それともオレだとわかってそうしてるのかはわからないけど・・・。
だけど、すぐ隣にいるはずなのに、壁一枚、ドア一枚向こうに、透子はいるはずなのに。
また会うことが出来なくて。
こんなことオレは何度繰り返してしまうのだろう。
片想いしてる時から、この近くて遠い距離に何度も苦しくはなっていたけど。
想いが通じてからも、こんな苦しさあるだなんて思ってなかった。
透子と離れさせられるかもしれない自分の境遇が悔しくて恨みたくなる。
だけど、何より悔しいのは一番大切な透子を不安にさせていることで。
そして、自分が頼りなくて、ちゃんと透子を守り切れないかもしれないという不安や、このまま透子と離れてしまうかもしれないという不安が、自分の中で一瞬でもよぎったことがまた悔しくて。
オレだけは、オレを信じて、透子を信じて、この想いを貫かなければいけないのに。
だから一日でも早く今は透子にこの気持ちを伝えたい、誤解を解きたい。
そして一秒でも早くただ透子に会いたい・・・。