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講師の手拍子が、フロアに響く。
今日は元貴もいる。
久しぶりに三人揃ったレッスンだ。
「ターン!遅い!」
容赦なく注意が飛ぶ。
「一旦休憩!」
その声に、涼ちゃんが床に座り込んだ。
みんなで荒い息を繰り返す。
「りょうちゃん、必ずあそこ遅れるのなんで?」
「わっかんな…。ハード過ぎ…。」
Tシャツの裾で顔の汗を拭って、立ち上がって。
「でもやらなきゃ、上手くならないから。まだやれる、まだいける。」
BGMのように流れてる課題曲。
その音を聞きながら、涼ちゃんは振り付けを確認し始めた。
「元貴は?」
「これ以外に、ソロの振り付け覚えなきゃだから。頭混乱しそう。」
んなこと言ったって。
結局、完璧にこなしてみせるくせに。
「若井は?」
「必死。」
「あれ?違う?」とか大声で言ってるアイツよりはマシな程度で。
あ、講師の指導が入りだした。
ほぼ一日やってたレッスンは、夕方に終了した。
「体が…バキバキ…。」
ソファでひっくり返ってるのが、一人。
「風呂でも入って来い。」
キッチンで晩飯を作りながら、ソファで寝落ちしそうなヤツを声だけで起こす。
「ふぁい…。」
俺、いつからおかん業務まで、担うようになったんだろ。
バスタオルやらパジャマやらを抱えて、浴室へ向かって行く後ろ姿を見送って。
あれは、風呂で寝落ちする。
時間を見て、声をかけに行かないと、溺れるやつだ。
髪の手入れをきちんとするようになって、時間がかかるようになってるから…。
頭の中で時間配分をしながら、飯を作る。
「わかいー、僕もうご飯いいや…。」
お、寝落ちせずに出て来た。
それだけで偉い。
「もう、寝る…。」
「食べてから、寝ろ。」
人一倍虚弱体質な人が、何言ってるんだか。
「麺類だから、すぐ食べれるし。」
つゆの匂いに釣られたのか。
キッチンのカウンターに、腰を下ろした彼にそうめんを出す。
「いただきます…。」
半分寝ながら飯を食うとか、器用なことしてんなぁ。
器に顔突っ込みそうなんだけど。
持ってる箸も、落としそうなんだけど。
それでもなんとか食べ終えて、今度は歯磨きをしに洗面所へ消えて行く。
左右にフラフラしながら。
自分もカウンターに腰掛けて、飯を食う。
明日はなんかの診断受けに行くって言ってたな。
その結果を聞いてから、これからのビジュを決めるって言ってたし。
まぁ、元貴だし、昼過ぎだし。
朝はゆっくりでいいだろ。
食べ終わった食器を重ねて持ちつつ、後ろを振り返ったら。
「なんでそこで力尽きる…。」
あと数メートルで、部屋だしベッドなのに、ソファで力尽きてるヤツを発見した。
ちょっと突いたくらいじゃ起きない。
完全に爆睡モード。
とりあえず、食器は流しへ片付ける。
「これ、このままだとまた風邪引くよなぁ…。」
自己管理をしてくれ、して下さい。頼むから。
一度立ち入って、ちょっとハードルが低くなった彼の部屋のドアを開ける。
ベッドの上を片付けて、布団を退かして。
「はぁ…。」
まだまだ細くて軽い、涼ちゃんを抱き上げる。
抱き上げられて、手が動く。
「ん…」
不安定なのか、なんなのか。
その手は、俺の胸元を掴んだ。
「乙女か!」
起こさないように、小声でツッコミを入れつつベッドへ運んでやる。
布団を掛けて、その手をそっと外して。
「おやすみ、涼ちゃん。」
よく頑張ってるよ、慣れないことを。
涼ちゃんは何かを呟いたけど、それは聞き取れないくらいの囁き声だった。
音を立てないように、ドアを閉める。
「あ゛ぁー!」
俺も体がバキバキ。
伸びをして、風呂に入る準備をしに行く。
同居人が良い夢を見れてればいいな、と思いながら。