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side大森
あの悲惨な事故が起こってから2週間が経った。あの悲惨な事故というのは、涼ちゃんが大型トラックのタイヤに潰されてグチャグチャになった事故。
その日は久しぶりに3人とも収録やレコーディングが無くて、涼ちゃんが出かけようとインドアな俺たちを引っ張りだすようにして外に出た。帰りのその時、久しぶりで嬉しかったのか大通りとまでは行かない、そんなに人が居ないところの交差点で転けて大型トラックのタイヤに腹から膝ら辺までを潰された。大型トラックはそのままどこかに車を逃げるように運ばせて消えていってしまった。俺と若井は直ぐに駆け付けて救急車を呼んで涼ちゃん、と叫ぶことしか出来なかった。
だって涼ちゃん、微かな息しかしてないから。
俺が涼ちゃんの上半身を急いで持ち上げて再び涼ちゃん!と叫ぶと
「もとき…わかい、愛してる..。」
消えそうな顔で、目で涼ちゃんが俺の頬を撫でる。
そのあと、俺と若井が必死に名前を呼んでも涼ちゃんが返答することはない。数分後、救急車と警察官などがきて、救急救命士の人が降りてきて涼ちゃん容態をみてこれは酷い…と見て言った。
後から降りてきた救急救命士の人達も一瞬立ち止まっては目を丸くさせる。
その場で涼ちゃんは息を引き取って死亡と確認されて、病院で涼ちゃんの上半身と下半身をくっつけるための手術が行われた。死んだからする意味が無い、じゃなくて最期くらい涼ちゃんを今までに無いくらい綺麗にメイクをして、綺麗な服を着させて成仏させてあげたい。でも本当は成仏しないで俺たちを近くで見守っていて欲しい。わがまま言っちゃダメなのは分かってる、涼ちゃんの分も生きて涼ちゃんが望んでいたような未来を若井と描きたい。だけど、涼ちゃんが望んでいた未来は俺たち3人で仲良く、俺の作った曲を息を合わせて奏でて楽しく幸せに暮らすことを望んでいたんだ。なのに、なのにどうして。
絶対に涼ちゃんを殺したやつを見つけ出して、俺の手で殺してやる。
でもそんなこと涼ちゃんは望んでない。俺が犯罪者になんてなったら涼ちゃんも若井も悲しんでしまう。…それなら、社会的に殺せばいいんだ。
住所を特定して捕まえて、ニュースに何回も藤澤涼架を轢き殺したというテロップを出して、そいつが親にも家族にも友達にも職場の人にも、人として見られなくしてやる。
そのまま罪を償って死ねばいい。
今日は涼ちゃんの葬式。尊い笑顔で遺影に写される涼ちゃんはすっごく綺麗で美しくて、なんとも愛おしかった。あいつが居なければ今頃涼ちゃんは…なんて考えてももう意味は無い。
葬式には涼ちゃんの親族、俺、若井などしか来ない小規模な葬式が開かれた。
手を合わせて頭を深く下げて、上げては涼ちゃんの遺影を眺めて歯を食いしばる。
隣を見ると若井は、顔に手を当てて黙ってお経を聞いていた。周りの人はみんな泣いて嗚咽していた。俺は悲しいより怒りや悔しいが勝っていて泣けなかったけど、この中で誰よりも涼ちゃんを愛していた自信がある。
なんでかって、涼ちゃんと付き合っていたから、体を重ねたこともあるし、日本で認められるようになったら結婚しようとも誓いを立てていたから。
だからこそ悔しいし、いらつく。
葬式が終わって夜飯を別の式場で食べる。そこにはキノコが入ったパスタや、豪華なフルーツや色々なおかず、白飯があった。全部それを食べる気にならなくて、パスタに入っているキノコを食べて式場を出る。若井も着いてくるように出てきて、椅子に座っている俺の隣に腰をかけた。横髪を耳に引っかけて若井の顔を見ると、若井も振り向いて目を合わせた。暫く見つめあっていると若井が
「..食べる気にならないよな」
「………。」
黙り込んでいる俺を見て若井は俺を抱きしめた。最初はビックリしたけど黙って若井を抱き返すと、若井は笑顔になって俺から体を離した。そのあと若井は俺に頑張ろうぜ、と声をかけて席に戻ってしまった。
…ああ、涼架。逢いたいよ。
俺の生きがいだったひと。今すぐにあのふわっとした甘い香りで俺を包んで眠らせて。いっそそのまま永遠に眠らせて、現実に戻せないようにしてほしい。
俺の事嫌いになっていいから、目の前に現れて思いっきりハグして、キスをさせて欲しい。
いつのまにか涙が溢れていて、頬を伝って俺のズボンに落ちていく。急いで服の袖で涙を拭って、走って式場を後にする。若井の車に乗り込んでうずくまって泣いていると、やっぱり俺のことが心配になって探しにきた若井が車に走って乗り込んできた。泣いている俺の背中をさすって、若井が俺に言う。
「辛いよな….ごめん、生きてんのが俺で」
「は….、?」
何言ってんの?俺、今も前も若井が居なくなったら崩れ落ちちゃうよ。若井は涼ちゃんと同じくらい大切な価値で、親友で、世界一最高なバンドメンバー。だから、若井まで居なくならないで、生涯俺のそばにいて。
若井が俺の腕の中からするっと抜け出して居なくなれば、俺はもう、どうすればいいの?若井も涼ちゃんも居ないのにミセスを続けるの?顔も知らない初めての人と俺の曲を奏でるの?そんなの、そんなの耐えられない、絶対にやだ。
「もうっ、どうす、ればいいの..っ、」
俺が言葉を吐き捨てる。
「よく頑張った、全部頑張りすぎたよ、涼ちゃんが亡くなったのに葬式に来たことも、絶対に受け止められない現実を受け止められているのも、今こうやって俺と話してくれてるのも、頑張った。もう話さなくても大丈夫だよ。涼ちゃんもきっと見守ってる、信じよ。..あと、ひとつ言わせて」
若井が真剣な顔で話だし、俺の顔を覗き込んだ。
「俺は絶対元貴のそばに居るから。」
その言葉に更に涙が溢れる。若井、本当にお前は頼れる人だ。いつでも冷静に事を受け止めて、本当は自分も辛いのに俺を慰めて俺の心の穴を埋めてくれる。さっきの言葉、本当に安心したし、信じるからね__
あれから3週間が経ったころ、涼ちゃんの親御さんから遺品整理はあなた達にして欲しくて、と家まで来てそう言った。俺はすぐに承知してスマホで若井を呼び出した。
若井が家に来たらすぐに走って涼ちゃんがいたマンションの部屋まで行った。
ドアを開けるとあのころの涼ちゃんの匂いが鼻腔をくすぐる。すぅ、と深呼吸をすると頭に色んな涼ちゃんとの思い出が蘇ってきて涙が出そうになる。グッと堪えて靴を脱ぎ部屋に上がると、涼ちゃんの服、私物、キーボード、俺たち3人が仲良くレコーディングをしている写真立てや、フェーズ1のときに撮ったであろう5人の姿が入る写真立てがあった。若井は部屋を見渡して涼ちゃんらしい部屋、と呟いた。
たしかにそうだ。俺がこの前家に遊びに来た時も服が散らばっていたのに、棚のものやキッチンは綺麗に整頓されていた。
俺たちは涼ちゃんの服やアクセサリー、写真立てや涼ちゃんの大事なものだけを持って遺品整理を終わらせた。本当は全部持ち帰りたかったけど、流石に無理じゃない?と若井に聞かれたから辞めとく事にした。
若井の家に2人で言って改めて涼ちゃんの私物をまじまじと見る。
これは3人お揃いで買ったアクセサリー、これは涼ちゃんと俺のお互いのメンバーカラーを逆にして買ったマフラー。これは涼ちゃんの誕プレにあげた服。色々な思い出が頭にどんどんと浮かんでくる。涼ちゃんの服を抱きしめていると、若井が
「….なにこれ?」
若井の手には1つの小さなUSBがあった。元貴へ、と書いてあった小さな箱から出てきたらしい。俺が見逃していたっぽくて若井が持ってきてくれたらしい。
急いで若井のノートパソコンを持ってきてUSBを差し込んでみると、涼ちゃんがソファに座っている動画が出てきた。
再生ボタンを押してみると動画内の涼ちゃんがこちらに視線を向けて話し出した。
『えっと、こんにちは、藤澤涼架です?あ…挨拶要らないか…..見つけてくれてよかった、ありがとう。実はこれ、元貴と若井へのメッセージなんだけど、話すね?、もし俺が2人よりも早く死んじゃった時に見て欲しかったんだあ!それで、見てるって言うことは遺品整理とかし終わって見つけてみてるんだよね?あ、当たり前か..。….ごめんね死んじゃって。2人には希望を持って生きて欲しいし、おれを忘れないで欲しい。てか絶対忘れないでね?忘れそうになった時はこの動画とカメラロール遡って!!』
いつも通りの涼ちゃんだ、優しくて少しわがままで、俺たちを愛している涼ちゃん。
そのまま見ていると涼ちゃんが急に真面目な顔をして正座に座り直した。
『…それで、こんな俺を愛し続けてくれてありがとう。2人について行って良かったと思う、しあわせだったよ。まだ話したいことは山々あるけど、メモリがきついな…。2人といれて本当に幸せでした、俺のことを忘れないで、2人でミセスを続けて、仲良く生きていってください。それが一番俺にとって幸せです。本当にいつもいつも感謝してます!!!見守ってるよー!!ファイト!! 』
そこで動画は止まった。
俺も若井も泣いていて、2人の嗚咽が部屋に響く。暫く2人で泣いていると、涙を拭った若井が俺に今日は泊まって欲しい、と言われたからうん、と返事をして俺も涙を拭った。
すると若井が立ち上がって
「…死ぬなよ、俺も生きるんだから」
若井の言葉に不意に笑いが出る。なんだよ、と拗らせながら若井が俺の肩を小さく突いてきたから、若井の顔を見上げて
「俺、友達に恵まれたわ」
と笑顔で言うと若井は照れたように俺も、と顔を逸らしながら言った。頑張ろう、と大声を出して、若井のことを強く抱きしめる。
そうだねと俺の背中を撫でながら若井が言ったときに、聞き馴染みのあるお風呂のチャイムが鳴った。入ってくると俺に声をかけて若井が風呂場に向かった。
….藤澤涼架、俺の最愛の人。
アホでマヌケでおっちょこちょいな所もあるけど、世界一優しくて気遣いができて、努力をしてきた人。そして宇宙一綺麗で美しい人。あなたが死んでも俺が忘れることは一生ないし、俺たちと奏でてきた音楽を捨てるつもりは一切ない。だから、安心してずっと見守っていて欲しい、俺たちを愛してくれてありがとう。 涼ちゃんの性格も、愛らしい顔や華奢な体型も、涼ちゃんが奏でるキーボードやフルートの音色も全部愛してるよ。
見ててね、絶対俺たちならやれるから。
本当に大好き、愛してるよ
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読んでくれてありがとうございました!!
次回も大森×藤澤だと思います