テラーノベル
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1月9日。 午前10時。
都心ではそろそろ冬休みが終わったころだろう。
この島は北東北付近のため、冬休みが長いのだ。
羨ましい?
そっちは夏休み長いだろ。
「それじゃぁ、守君、紫音をよろしくね」
「はい、任せてください」
鬼道島病院入口。
しおりんのお母さんに見送られて、しおりんの車椅子ではなく、背中におぶっている。
行先は俺の居候先、桜花姉の家だ。
察しのいい人はお気づきだろう。この日は実写版「甘蜜」と「ヒナコ」の上映会である。
桜花姉はバイトだが蕾さんが休みということで3人で観ることになっている。
相変わらず桜は咲き続けているし、散ってもすぐに新しい芽が顔を出す。
キャスケットを被り桃色の髪。
まるで、しおりんは桜の申し子のようだ。
背中越しからしおりんが口を開く。
相変わらず胸をわざと押し付けてるのか、背中に柔らかい感触が伝わり、ドキドキする。
「まもっちってさ」
「うん?」
「ギャルゲーの主人公だよね」
「何故にそんな話題に……!?」
「けっけっけ、気づかないと思ったー?まもっちモテモテじゃん」
「いやいや、そんなことは」
「鈍いのか謙遜なのか分かんないけど、ライバルが多くて困るよ」
ふぅと口の中の空気を吐き出すしおりん。
「って言ったって、しおりんと蕾さんくらいだろ?」
「玲奈さんの例もあるじゃん?それに第3候補もいるしね」
「誰のこと?」
「さぁねぇ」
右手をヒラヒラと振る。
桜花姉の家に続く坂道を登り始める。
車椅子で来なかった理由はこれだ。
車椅子に不慣れな俺が坂道で下手に押したら大変だろ?
「まもっちさ」
「うん?」
「おすすめの漫画かラノベある?」
「いくつかあるけど、どうして?」
「入院中暇なんだよねー。リハビリと勉強中以外」
リハビリと受験勉強頑張っているようだ。
「美咲先生は今も家庭教師?」
「そ、仕事始まったし、新学期の準備で毎日来てもらってるわけじゃないけど、課題とかも結構出される」
「なるほど。でもそれだと本読む余裕なくないか?」
「息抜きは必要じゃん?で、島にある小さな本屋にいい本ないか探しに行きたいわけ」
「あそこ結構侮れないぞ。文学小説やらファッションやらの雑誌系。漫画もラノベもある程度揃ってるぞ」
「まもっち行ったことあるの?」
「そりゃあね」
「軌道変更。今すぐ本屋へGO!」
右拳を東側に突き出す。
「それはまた今度なー」
「ちぇー」
「そうだよ、しおちゃん。抜け駆けは許さないよ?」
ゴゴゴと蕾さん登場。
「ちぇー」
「わざわざお迎えに来てくれたんですか?」
「そうだよ。ライバルと2人っきりだから不安で」
「けっけっけ、心配性だなー。つぼっちは」
「誰のせいだと思ってるのー?またおんぶしてもらって……」
「車椅子だと不安でさ」
2人の会話に割り込む。
「つまり本人公認ということで」
「う〜!」
しおりんが勝ち誇り、蕾さんが唸る。
思考がよく回ることで。
感心する間に、居候先へ。
「蕾さーん、ドア開けて貰えます?」
「はーい」
ガチャ。
玄関の扉が開かれる。
鍵はかかっていない。
防犯対策?
伯母さんがいるからへーきへーき。
「伯母さーん、しおりん連れてきましたー」
「はーい、リビングへどうぞー」
家主の返事を聞き、靴を脱ぎサンダルに履き替える。
パタパタ。
「へぇー、ここがさくらっちの家かー」
「来るのは初めて?」
俺が訊く。
「そりゃあね。人生をほぼあの病室で過ごしてたんだから」
「守君、ドア私が開けるね」
ガチャ。
蕾さんが開けてくれた。
リビングのガラステーブルには既に実写版「甘蜜」と「ヒナコ」のブルーレイを並べられていた。
「準備いいねー」
「俺、ここに持ってきた覚えないぞ?」
「え?」
漂う不穏な空気。
「私が準備しといたの」
ニコニコした蕾さんが空気を破る。
「どして?」
しおりんが問う。
「できるオタク妻として当たり前♡」
「いや、勝手に漁られるのは困りますよ」
「ダメだった?」
うるうると涙目かつ上目遣いで聞いてくる。
「いや、俺だって見られたら恥ずかしいものくらい……」
「大丈夫、薄い本は全部没収しといたから」
「俺のお宝あああああああ!!!!」
ニコッと爆弾発言。
「姉御、どんなのありました?」
しおりんが蕾さんに耳打ちする。
「うんとねー、責められるものが多かったかな」
「ふむふむ、まもっちはMと」
ああ、もういいや……。脳内フォルダに変態って記されたけどもういいや……。
「よし。まもっちの趣味もわかったし、そろそろ甘蜜観よ!」
「そうだねぇ」
俺は覇気が抜けた。
とりあえず主役のしおりんを3人がけのソファの中心へ。
「ダメだよ、守君」
「なぜです?」
「しおちゃんは左側。そして私が右側。そして守君が中央」
しおりんを抱えて左側へズラす。
そして自身は右側へ。
どーん。
「これじゃあ、俺が主役みたいじゃないですか」
「しおちゃんが中央だと、守君にくっつけないでしょ?」
ピト。
肩をくっつける蕾さん。
「けっけっけ、そういうことか、つぼっち」
しおりんも習う。
2人の体温が伝わりドキドキしてくる。
「それじゃあ、再生係はワタシが」
伯母さんが再生機にディスクを入れて甘蜜が流れる。
視聴中。
「私は貴方のもの」
「ずっと離さないよ」
レイサのハニートラップシーン。
無意識なのかわざとなのか2人がやけに寄ってきた。
ドキドキ、心臓が高鳴る。
「ふふふ、ずっと一緒よ」
デートという名目で敵国の情報収集するシーン。
二人の女の子は、俺の手と自分たちの手を絡めてくる。
大胆すぎる……!2人とも……!
「君がスパイだったとは……!」
「ええ、そうよ。恋人ごっこはおしまい」
レイサが、アレックスに銃を向ける迫真のシーンではしおりんと蕾さんが、体を寄せて胸やら肩やらが当ててくる。
「それでも君が好きだ!」
「……!?」
アレックスがレイサに抱きつく。
「「キャー!」」
わざとらしく、しおりんたちが俺の腕に自分たちの腕を絡める。
ドッキンドッキン!
俺の精神が持たない……!
「私はスパイよ?それでもいいの?」
「構わない。君と一緒なら」
レイサとアレックスが船の上でキスをするラストシーン。
「僕も好きな人とこんなキスしたいなー」
「私も」
左右から囁きが聞こえる。
俺は終始ドキドキして、作品に集中できなかった。
「次ヒナコねー」
「うん!」
しおりんが平然と次の視聴予定の作品の要求をする。
蕾さんが席を立ち『ヒナコ』のディスクがプレイヤーへと挿入される。
俺は胸の高鳴る鼓動を抑えていた。
平常心平常心……。
「すぅーはぁー」
「どったのまもっち?」
「君たちが俺の心を乱してくるから瞑想してた」
「ですってー、奥さん。聞きましたー?」
「はい、私に囲まれて興奮してたそうですね」
「興奮は!してない……」
しおりんと蕾さんがからかって来る。
反論しようにも、事実2人に抱きつかれたりしてドキドキどころか興奮はしていたので、ハッキリ言葉に出来なかった。
『くっ……!アタシの霊力じゃあ、この悪霊は祓えないの……!?』
『負けないでヒナコちゃん!』
『ヒナコ!』
『ヒナちゃんなら勝てる!』
『みんなの霊力がアタシに注がれる……!これなら……!』
『はぁぁぁぁぁ!!!』
『『『いっけえええええええええええええ!』』』
『やった……!やったよみんな!……みんな……?嘘でしょ……!?ねぇ!嘘って言ってよ!』
『ヒナコに霊力を分け与えた影響だね』
『Qちゃん?みんなは!?みんなはどうなったの!?』
『あの娘たちの魂は冥界に行ったよ』
『なんで……?』
『へこたれてる余裕はないよ。今度はあの娘達を助けに冥界に行くんだ』
『みんなを助けられる?』
『うん、君ならね』
「ここで1クール終わって、2クールからが本番って言われてるよね、ヒナコって」
「そ、冥界編からが1番燃えるよね」
「だよな!引き込みかたと魅せ方上手いよなー、島田さんって」
蕾さん、しおりん、俺が感想を述べる。
気がついたら1クールイッキ見である。
この後、桜花姉・しおりんのお母さん・美咲先生に俺たちは怒られてしまった。
数日後、冬休みもそろそろ終わる頃、俺たちは港である人を待っていた。
揃っているのは、桜花姉・しおりん・蕾さん・眠子さん。そして俺だ。
毎度の事ながらしおりんの車椅子係は俺だ。
相変わらず桜が散り、海にぷかぷかと浮かんでいた。
ブオオオオオオオン!
船が到着。
『鬼道島へ到着〜』
アナウンスが流れて、まばらに人々が島へと上陸する。
待ち人はすぐに現れた。
紳士服に高そうな茶色のコートを右腕にかけてちょび髭が特徴の男性。
島田信幸さんだ。
「やぁやぁ、皆さんご無沙汰です」
島田さんが俺たちに気づき、挨拶をしてくれた。
「長旅ご苦労さまです」
「「お久しぶりです」」
「「初めまして」」
桜花姉がペコッと頭を下げる。
俺達も真似る。
「いえいえ、ありがとうございます。そちらの車椅子のお嬢さんと派手な方はお初ですね」
「「はい!ファンです!」」
しおりんと眠子さんがハモる。
「はっはっは、嬉しいねぇ」
照れながら髭をいじる。
「希導守君」
「はい」
「君はギャルゲーの主人公なの?」
「なんでそうなるんですか?」
「だって」
俺の周囲を見渡す。
「女の子に囲まれてハーレム状態じゃないか」
けっけっけと笑うしおりんと、ふふふと微笑む蕾さん。そして、ぎこちなく俺から視線を逸らす眠子さん。
「監督さん、今回は準備してきましたか?」
桜花姉が島田さんに話しかける。
「はい。汚れてもいいスニーカーに土埃がついても目立たない黒いジャージを持ってきましたよ」
そういい、エメラルド糸の派手なキャリーケースをポンポンと叩く。
「わかりました。すぐに向かいますか?」
「いえ、まずは宿屋で着替えてから行きます」
「島の地理に不慣れでしょう、同行しますよ」
「それではお言葉に甘えて」
テンポよく桜花姉と島田さんが予定を立てる。
「あの!」
しおりんが身を乗り出す。
「後でいいのでサインください!」
「アタシにもお願いします!」
しおりんと眠子さんが頭を下げる。
「もちろん良いですとも」
快諾にパァっと表情が明るくなる2人。
宿屋につき、島田さんは中へ。
俺たちは外で待つことになっていた。数十分後、ジャージ姿にスニーカーの島田さんが姿を見せた。
「皆さんお待たせしました」
「いえ、大丈夫です」
うんうん。
桜花姉の答えに全員同調する。
「それでは向かいましょう」
淡々と答える桜花姉。
これから俺たちが向かうのは、鬼がお宝を見つけたという洞窟だ。
不思議だ。
桜花姉は鬼絡みになると人が変わったように、無表情になる。
数十分ほど歩く。
大きな洞窟が口を開けていた。
「ここですね」
「はい」
桜花姉が懐中電灯の光を照らす。
「伝説では鬼がここに来たのは、一生どころか3世代ほど先まで遊んで暮らせるほどの宝があったとか」
「そうですね」
「おとぎ話が本当なら夢ありますけどね」
蕾さんの言葉に、ピクっと桜花姉の肩が揺れる。
「おとぎ話か、はたまた事実か……。実に気になるところです。」
島田さんがつぶやく。
「ここです」
あまり深くなかった洞窟。
すぐに到着点へたどり着いた。
「ここの壁に注目してください」
桜花姉はライトを壁へ当てる。
そこには『未来の島民へ。生活に困ったらここの宝を使いなさい』
石で掘ったのか、そう刻まれていた。
「誰かがイタズラで掘ったという可能性は?」
蕾さんの問い。
桜花姉は構わず島田さんに説明する。
「ここで鬼は宝を見つけて私たち先祖に分け与えたそうです」
「しかし、賊に奪われたと」
「おとぎ話にしては出来すぎですよねぇ」
「そうですねぇ」
蕾さんと眠子さんがぼやく。
「詳細につきましては落ち着いた場所で話します」
「よろしくお願いいたします」
桜花姉と島田さんが会話する。
「宝だってさ、まもっちだったらどうする?」
しおりんが話しかける。
「うーん、想像出来ないな」
「僕も。でもさ、伝説が本当なら夢があるよね」
「そうだよなぁ。あの文字もかなり前に掘られた感じだったし」
「二人はおとぎ話信じてるの?」
蕾さんが俺たちの会話に混ざる。
「前にもまもっちのお義母さんに言ったけど、実在してたら面白いよね程度だけど」
「俺は半信半疑だなぁ」
「所詮おとぎ話だからね」
蕾さんが切り捨てる。
「桃太郎ってご存知ですよね?」
「はい」
「あれ、実はほぼ実話でその宝を奪いに来た賊が桃太郎なんです」
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