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家庭が安定していれば、専業主婦だった女性が子育てをほっぽっといて
水商売を選んで働きに出ることはないだろう。
カラオケ店のスタッフとして妻が働きたいと言い出した時、それが気分転換に
なり自分たち夫婦にとって良い方に作用するならと心良く賛同して送り出した。
だが、実際圭子が働いていたのは実入りのよい夜職だった。
今夜立ち寄ったクラブの若いホステスに聞いて知ったことなのだが、
新人ならそこまでもらえないが圭子のような経験者で、しかも昔その店で働いた
ことのある人間は時間給にして10000万円は貰ってるという話だった。
もしも、彼女が俺と別れて月20日間、1日3時間だけの勤務として……
60万。
税金が引かれるのでそのまんまというわけにはいかないだろうが、
思わずクラっときた。
娘と母親を抱えても十分やっていけそうだ。
この数字を帰宅後、自宅の書斎にしている自室で弾いた時、俺は大きな
不安と焦りに襲われた。
万が一にも起こりそうな俺たち夫婦の離婚が、現実味を帯びてきたからだ。
圭子が、離婚を本気で考えているかもれないと思うと匠平は居ても立っても
いられなくなるのだった。
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この時を境に匠平は休日には妻の圭子が掃除や料理に洗濯など始めるとすぐに
『何か手伝うことがあればするよ』と声掛けをし、手伝いを率先してするよう
心掛けた。
月に一度の割合で夫婦の閨事に関しても様子見をしている中、
圭子が働き始めたことを切っ掛けに子供部屋で寝落ちするようになりその延長線上
にて、そのままそれが習慣になってしまい夫婦の寝室に戻らず寝てしまうことも
増えたのだが、仕方がないと諦めていた。
だが、具体的に圭子の心情を知り、何か元のように自然に仲睦まじくなれるように
なるにはどうすればいいのか、ということを再度考えるようになった。
そしてそのことで物理的、身体的距離が開くと駄目だということにも
気づかされた。
そこで平日は無理だとしても、週末は寝る時間帯になるとできるだけ娘と
遊び、娘が『パパと寝たい』と言うように誘導し、川の字になり3人で
寝ることを心がけた。
娘と一緒だと圭子もリラックスしているように見える。
いいじゃないか、例え娘がいないとなかなか会話が成立しなくても
意思疎通を心掛けるのだ。
そんなふうに、匠平は家族の再生を目指して努力を続けることにしたのだった。
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