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本当に、なんで俺はまだここにいるのか、わかんなくなってくる。
いや、分かってる。
少しは、いや、だいぶ期待してたんだろう。
ハルとまたこうやって会える日を。
そう、期待してたんだ。
そんな俺の胸の内をかき乱すように、ハルが不満げな顔で言ってきた。
「あっちゃん一気に飲み過ぎだよ!」
「おー……お子ちゃまは黙ってろ。お前なんてどうせ1杯飲んだだけで顔が真っ赤になりそうだしな?」
ああ、違うだろ
なんでこんなこと言っちまうんだ
「もー怒った。だったら僕も!!」
俺の言葉にムキになったのか、ハルは自然と注文係になっていた後藤に向けてそう言った。
俺も対抗心と、これでハルと話せる!という期待から、さらに後藤に追加注文をする。
「望むとこだ」
ハルと俺の声が、まるでシンクロしたかのように重なる。
『お、おう…大丈夫なのか?そんなに飲んで…』
後藤が心配そうな声を上げるが、俺とハルは「いいんだよ!」と声を揃えて答えた。
「てめ、被せんな!」
「それはあっちゃんでしょ?!」
その様子を横で見ていた富永が、愉快そうに口を開く。
『はあ、こりゃまた競い合いが始まりそうだな…』
富永の言葉通り、俺たちは意地になってジョッキを空にし続けた。
◆◇◆◇
数分後
誰かが「二次会行く人ー?」と声をかけたときには、ハルはすでに机に頭を突っ伏して眠っていた。
酒に強い俺ですら、調子に乗って何杯も呑んだせいで、二次会に行けるほど頭は働いていなかった。
ということで、まだどちらかと言えば意識のある俺が、ハルを家まで送ることになった。
店の前で、二軒目に行く他の奴らを見送る。
みんなが楽しそうにしているのを見て、俺はなんとなく寂しい気持ちになった。
酔い潰れて重くなったハルを抱えるようにしてタクシーに乗ると、運転手にハルの住所を伝える。
車が発進してから数分が経った頃、眠っていたはずのハルがむくりと体を起こした。
「起きたか?もう他の奴ら二次会行ったから、家まで送ってくからな」
俺がそう説明しても、ハルは全く返事をしない。
妙だと思い、隣にいるハルの顔を覗き込むと、それは今にも吐きそうな人間だった。
顔が真っ青だ。
「す、すみません!やっぱここで大丈夫です!!」
慌てて運転手にそう言って、車を止めてもらい
料金を払うと、すぐにハルを連れて車から出た。
外の冷たい空気が、少しだけハルの顔色を良くしてくれる。
ハルの腕を自分の肩に回して抱える。
「おい、しっかりしろ」
今度こそ目が覚めたのか、ハルは俺から離れて、近くの壁に手を着いた。
「あ…っちゃん…?うっ…おえ…」
「ったく…ちょっとそこら辺でしゃがんで待っとけ。近くのコンビニで水と袋買ってくっから」
近くのコンビニは……あそこだな。
俺はハルを置いて、全速力でコンビニに駆け出した。
そして、水と袋、それから少し大きめのタオルを購入してハルの元へ急いだ。
戻ってくると、ハルは路地に座り込み、口元に手を強く押し付けながら、肩で息をしていた。
苦しそうだ。
俺が近づくと、ハルはゆっくりと顔を上げる。
その顔は蒼白で、額には冷や汗がにじんでいた。
俺はハルの背中をさすりながら、ペットボトルの水を口に近づける。
すると、ハルは少し躊躇った後、俺の手からペットボトルを奪い取り、それを一気に半分ほど飲み干した。
大丈夫か…と思って、買ってきた袋を広げると、ハルの口元に持っていく。
俺が袋を広げて構えているのを見ると、またも申し訳なさそうな顔をするが、もう吐く寸前まできていたのだろう。
すぐに袋の中に吐瀉物を吐き出した。
ビニール袋のガサガサとした音が止むと、俺はその袋を近くのゴミ箱に入れにいった。
戻ってくる頃にはハルも落ち着いたようで、安堵した表情で「ほんと助かった…あっちゃんありがとう」と笑顔でお礼を言ってきた。
「本当に世話がやけるな…まあ、ムキにさせた俺にも原因はあるかもしれねえけどよ」
なんだかいつもより、柔らかい言葉が出るようになった気がした。
酒のおかげか?
言葉の節々は相変わらず悪いが、ハルはそんなこと気にせずに口を開く。
「あっちゃんがいてくれて良かったよ」
「お前一人で帰ってたらあのままタクシーん中でゲロってたかもしんねえしな」
「それもそうだけど…今、傷心中だったから…一緒にいてくれて助かった…」
「は?傷心中?」
俺は耳を疑った。
「まあ……うん。恋愛の傷って言えばわかりやすいかな」
「お前、恋人いたっけ?」
俺がそう尋ねると、ハルは苦笑いしながら頷いた。
「なんだ、またクズ男に引っかかったのかよ」
「そ、そんな言い方…っ!」
「懲りねえなお前も」
「だって……好きになっちゃったんだし、仕方ないでしょ……」
ハルの言葉に、俺の中の何かがプツンと切れた。
なんでだろ、無性にコイツにムカついてきた。
やべえ。
「はっ…だからお前アレだろ?女でいう︎︎"︎︎尻軽女︎︎"︎︎なんだよ。そうやって高二のときも悪い男や女に騙されて、なんで学習しねぇかな」
思ってもないことがポンポンと口から出てくる。