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俺の感情が、制御不能なまま言葉になっていく。
「尻軽って……言い方酷いよ…っ」
ハルは瞳を揺らしながら、俺を睨んだ。
その表情が、俺の言葉がハルを傷つけていることを物語っている。
なのに、俺は止まれない。
「事実そうだろ?その男にも散々言われたんじゃねえの?」
「っ!!」
ハルは唇を噛んで、俺を睨んだ。
「はっ、図星かよ」
「あ、あっちゃんには関係ないでしょ」
ハルはそう言って、俺をどかすと一人で歩き出した。
「おい、そんなふらついてるのに一人で帰す訳ねえだろ。車もう一回拾うぞ」
「……もういいよ、ほっといてよ」
そう言ってまた歩き出そうとするハルを、俺は腕を掴んで引き止めた。
「おい、ハル」
「あっちゃんみたいなさ、恋愛で一度も悩んだことがないようなスペック高いイケメンには分かりっこないよ!!」
ハルが大声を出すと、通行人が何事だとこちらを見てきた。
俺は咄嗟にハルの腕を掴んで、路地裏に隠れた。
そして、気がつけばハルを壁に追い詰めていた。
「お前、さっきなんつった?」
自分でも驚くくらい低い声が出た。
ハルはそんな俺を一瞬怖がったように見えたが、すぐにまた目がキッときつくなる。
「あっちゃんは……恋愛に悩んだことがないんでしょ?だから……っ!」
ハルのその言葉に、俺の中の何かが完全に切れた。
「ざけんじゃねえ…こっちはてめえのせいで15年間脳みそ狂わされてんだぞ…っ」
俺はハルを壁に押し付ける。もうこうなりゃヤケだ。
15年間必死に隠してきた本音をこいつにぶちまけてやりてぇとまで思っていた。
そしたらお前、どんな顔するよ?
驚くか?
中学の頃、高校の頃、お前にアプローチできないストレスを、お前と雰囲気とか顔が似てるヤツと遊んで発散してたって知ったら引くか?
お前と同じゲイだって知ったら?
お前のことがずっと好きだったなんて言ったら、困らせるか?
そんなことをグルグルと考えているうちに、俺はまた言葉に詰まった。
まあ、今ここでそんなこと言えりゃ、こんなに月日は経ってないわな。
「意味わかんない…あっちゃんのバカ!」
俺が迷っていると、ドンッと胸を押されて、俺が体制を崩した間に、ハルは逃げるように走り去っていく。
「ハ、ハル!」
ハルに押されて尻もちをついたおかげか、俺はやっと冷静さを取り戻した。
(ったく、何してんだよ俺は…あー!くそっ!!)
◆◇◆◇
後日、俺は富永と居酒屋で二人きりで飲んでいた。
もちろん話題は、昨夜のハルとのことだ。
「それで?そんな壁ドンしといて口説き文句のひとつも言えず、意味不明なこと言って帰った、と?」
富永は呆れたようにグラスを傾ける。
「いや…まあ、正論だけど、そ、そんなゴミでも見るような目で見るなよ!」
俺は悲鳴のような声を上げた。
「なあ頼む富永!こんなこと相談できんのお前しかいねえし…俺、どうしたらいいと思う…っ?!」
「はあ……まず謝れや」
「一応謝ったけど…LINEは完全無視されちまってる……」
「なら尚更会って謝罪しかないだろ。常識だろ、そんなもん」
「てかまず許してくれるかどうかすら…あいつに嫌われたらまじで死ぬ…生きてけねぇ……」
「急なネガティブやめろー、てか、いつもお前は磯村に棘のある言葉言い過ぎな。逆に今の今まで嫌われてないのが奇跡ってもんや」
「でも今回はまじでやべえ!やらかした感があんだよ…」
「だったらそんなウジウジしてねーでさっさと謝ってこいよ?気色悪ぃな」
「と、富永こそ大概口悪くねぇか?!」
「気のせい気のせい、あってもお前だけだから」
富永の言葉に背中を押されるように俺は数分もせずに居酒屋を飛び出し、腹を括り、ハルの家の前まで来ていた。
インターホンを押す指が震える。
まじで、どうすっか……。
そわついて玄関前を歩いてみたり、かと言って中に入る勇気は出ず、ドアの前でしゃがみこんでみたり。
そうこうしているうちにも時間は刻々とすぎていく。
押すぞ!!
そう決意してインターホンに手をかざしたときだった。
「ちょっと、なにしてんの…?」
声のする方に振り返ると、そこにいたのはハルだった。
……これは、もしかしてチャンスじゃねえか
俺は慌てて立ち上がり、ハルの目の前に立ちはだかり、勢いよく頭を下げた。
そしてそのままの勢いで叫ぶ。
「き、昨日は俺が悪かった…少々、やりすぎたっつーか…ひでぇこと言った自覚はあんだ。まじでごめん」
「え……そんなこと言うために、僕の家うろちょろしてたの?」
ハルは少し呆れたような顔をしている。
「あぁそうだよ……ハル…」
「あっちゃんのこと、絶対許さない」
「……っ!…」
その言葉に、好きな人に見捨てられるという畏怖感が全身に走り、思わず顔を上げると、ハルはにっこりと笑っていた。
「って、言ったらどうする?」
笑顔でそう言うものだから、こんなに怖い天使がいるかよ、と思わされる。
「びっ……びっくりさせんなよ…っ」
「あははっ…!変なの~」
ハルが急に笑い出すので、何事かと思えば
「昨日のこと、そんな真剣に謝ってくるとは予想外だったから…びっくりしちゃって」と言う。