テラーノベル
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その日。
僕たちはいつものようにロビーでだらだらしていた。
特に目的もない。
ゲームを探すわけでもない。
ただベンチに座ってブロキシコーラを飲んでいる。
平和だった。
とても平和だった。
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だから僕は思った。
いたずらしよう。
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シクサーは隣でチャット画面を眺めている。
今ならいける。
僕はそーっと手を伸ばした。
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ひょい。
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「あ」
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赤い角付きの黒い帽子。
ゲット。
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「おい」
シクサーが即座に気付いた。
怖い。
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でも返さない。
僕は帽子を自分の頭に被った。
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「どう?」
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くるり。
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「呪いのヌーブだよ!」
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僕は両手を上げてポーズを決めた。
がおー。
みたいな感じで。
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数秒。
沈黙。
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シクサーが固まった。
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「シクサー?」
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反応がない。
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「おーい」
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まだ動かない。
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「バグった?」
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「……」
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なんだろう。
すごく嫌な予感がする。
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次の瞬間だった。
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ぐいっ。
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「うわっ!?」
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突然後ろから引っ張られる。
視界が揺れる。
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気付けば。
僕はシクサーの腕の中にいた。
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「えっ」
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背中に体温。
肩に腕。
完全に捕獲されている。
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「し、シクサー!?」
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「動くな」
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耳元で声がした。
近い。
近すぎる。
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「え?」
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「ちょっと待て」
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「なにを!?」
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「心の準備」
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「なんの!?」
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意味がわからない。
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シクサーは数秒黙った。
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そして。
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ものすごく小さな声で言った。
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「……可愛すぎる」
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「え?」
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「可愛すぎて」
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「え?」
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「呪いどころか癒やしだわ」
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僕の思考が停止した。
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「……は?」
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シクサーも言ったあとで我に返ったらしい。
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「……」
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「……」
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二人とも固まる。
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数秒後。
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シクサーは帽子のつばをぐいっと下げた。
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耳まで真っ赤だった。
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でも。
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「一生被ってろ」
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ぼそり。
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耳元でそう言った。
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「!!!!!!」
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今度は僕が真っ赤になる番だった。
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「な、なんなの!?」
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「知らねえ!」
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「今変なこと言った!」
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「言ってねえ!」
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「言ったよ!」
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「聞き間違いだ!」
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「聞いたもん!」
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完全にパニックになっている。
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周囲のプレイヤーたちも気付き始めた。
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「なんか始まった」
「またやってる」
「新婚さんだ」
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「違う!!」
僕とシクサーが同時に叫ぶ。
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しかし。
その瞬間。
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僕の頭に乗った帽子が少しずれた。
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シクサーはそれを見る。
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じーっ。
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「……」
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「なに?」
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「似合う」
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「え?」
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「いや」
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「うん」
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「マジで似合う」
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真顔だった。
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僕は思わず笑ってしまう。
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「じゃあ返さない」
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「は?」
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「僕の帽子にする」
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「駄目だ」
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「なんで」
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「俺のだから」
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「じゃあ交換」
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「何とだよ」
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「ブロキシコーラ一本」
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「安すぎる」
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そんなくだらない言い合いをしながら。
僕は少しだけ帽子のつばを触った。
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不思議だった。
ただ帽子を借りただけなのに。
なんだか少しだけ。
シクサーの世界に入れてもらった気がした。
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そして後日。
ロビーでその帽子を被ったスクリーンショットが出回り、
プレイヤーたちの間では、
「シクサーの彼氏スキン」
という謎の名前で保存されることになる。
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もちろん。
本人たちは必死に否定した。
全然説得力はなかったけれど。
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ゆゆゆゆ
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