【閲覧注意⚠︎】この小説はnmmnです。nmmnが苦手な方やタグの意味が分からない方は一度ご確認の上、再度閲覧をするかのご検討をお願いします。又、この小説は作者の妄想・フィクションです。
ご本人様(キャラクター等)には一切の関係・関連はありません。ご迷惑がかからぬよう皆で自衛をしていきましょう!
閲覧は自己責任です。
※その他BL要素有り( 🟦×🏺)
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🏺『』その他「」無線「”○○○”」
俺の身一つで、命一つで、この馬鹿げたロスサントスの平和が保たれるのであれば…それはこの上ない幸せなのだと思う。
…たとえ、今までの記憶が曖昧になったとしても。
『すぅ…、はぁー……、』
ダウンをしてから数時間。
刻々と刻まれていく時の流れが余りにも遅く感じて、張り付く汗や血の跡も若干パサついている。
むやみやたらにリスポーンをするなと釘を刺されてしまった為、まぁ一時間は待とうと腹を決めた結果がこれだ。
『…誰も来ねぇんだよな…、、』
北の端っこのコンビニでポツンと一人きり。
大型に向かっていたであろう署員たちの名前が“ピッピピーピッ”という子気味のいい音と共に通達され、どうやら医療崩壊も寸前の大型重複祭りが開催されているらしいと察する。
『そりゃ来ねぇかァ…(笑)』
てんやわんやな救急隊の姿を脳裏に過ぎらせ、つぼ浦は苦笑いを小さく浮かべた。
『だからリスポーンした方が早いと思うんだがなぁ…、つーか痛ぇしよぉ…、』
脇腹から溢れ出る生ぬるい感覚を無視して、どうにかこうにか言葉を漏らし続ける。
独り言でも呟いていなければ、今すぐにでも意識を失ってしまいそうだった。
『あぁ〜…、つれぇ、いてぇ…、腹減った…、』
しかし、一向に救急隊のヘリがやって来る気配は無い。
ただただ虚しかった。
他の署員とは少しだけ働き方が違って、だから一緒に行動することは何となくはばかられて、こんな自分にも配慮をするという頭があったんだなと今更ながらに驚く。
『ぜってぇ来ねぇしなァ…、…まぁいいか』
ストンと落ちてきた諦めの心に、つぼ浦のまぶたは急激に重みを増した。
次いでに眠気が増して、更にうつらうつらとして、仕方なしにリスポーンを選択したその数秒後……、自分の身体はいつの間にか病院のふかふかなベッドの上にある。
『ン、…んー…、、?、…?、』
しかも、なぜだか分からないが直近の記憶が残っていた。
コンビニの強盗犯に蜂の巣にされたことも、一時間以上その場で救助を待っていた事も、もちろん自分が警察だという事も覚えているし、なにより自覚がある。
『?、…覚えてるわ……は?、覚えてるんだが?』
忘れるよりかはそりゃあ良い事なのは間違いないが、今までとはまるで違う感覚につぼ浦の思考はグルグルと空回った。
ベッドから起き上がって、スタスタと擦れるようなサンダルの音を響かせて、つぼ浦は広々としたエントランスへと向かう。
「鳥野くんやめてよぉ〜っ!、」
扉を開けばやっと休憩を取ることが許されたのであろう救急隊たちがわちゃわちゃとしていて、つぼ浦の思考はただただひっそりと安堵の一色に塗り変わった。
泣きべそをかく寸前のももみがつぼ浦の姿を見つければ、その表情はパッと明るくなったと同時にハテナを頭上に浮かべて首を傾げる。
「つぼ浦さん!、?、あれ?、つぼ浦さん??」
『あぁ。邪魔したな』
健康そのものな姿で退散しようとするつぼ浦を、ももみと雷堂は全力で引き止める。
「待って待ってまって!、つぼ浦さん!、めっ!」
『?、何がだ?』
「いやいやいや…、いや。ちょっと待って下さい」
雷堂が無線で何かを共有してから、つぼ浦の方へとまた目をやる。
「つぼ浦さん、こちらの手違いで救助が見送られていたようです。本当にすみません」
ポカンとするつぼ浦の手を取って、そのまま診察を手際よく行う。
しかし、やはりその褐色な肌には傷一つなく、いつも通りの健康体なつぼ浦匠がそこには居た。
「…つぼ浦さん、…やりました?」
『………何を言ってるか分かんねぇな』
ポクポクポクと三人の間で無言の時が流れ、最初に口を開くのは感受性が豊かな幼子。
「つぼ浦さん!、゙ぅ〜、、ごめんね゙ぇ〜(泣)ッ!」
子ども特有の頭に響くその声で、喉をしゃがらせながら全力の謝罪をエントランスに響かせる。
『〜〜〜ッ、おいおいやめてくれ、謝られたってこちとら意味がさっぱり分かんねぇぞ?、』
両手でパシリと耳を抑えて、つぼ浦は眉間に皺を寄せながら雷堂に目を向ける。
「大丈夫ですつぼ浦さん、今ちょうど保護者の方を呼びましたからね」
“お名前分かりますか?、どこまでの記憶がありますか?”と丁寧に問いかけられ、つぼ浦はシワになったその眉間を少しだけ緩めた。
『あ〜、そうだなぁ…、』
名前は分かる。
記憶もしっかりばっちり残っている。
記憶…、そう、記憶はあるのだ……けれど。
『…記憶は、…あんまりねぇな』
少しの疲れと好奇心で、そういう事にした。
最近ぐっすりと眠れぬほど疲れていたから。
単独での事件解決が難航し始めていたから。
『あとはなんだろうなぁ…』
色々と怠ける理由を考えて、次いでにもし記憶があるという事がバレた時の言い訳もずっと模索し続けている。
『……怒られるんだろうなァ…(笑)、』
キャップはどうだか分からないが、バレれば確実に角を生やすであろう人物が何人か思い浮かぶのがこの世のリアルだ。
『…まぁ、それもいいか』
そんな安易な考えに、なんだか自分が想像している以上にこの脳は疲弊しているのだと気がついた。
今なら精神的に、身体的に、めちゃめちゃ怒られたとて何も感じないのではないかとさえ思う。
『むしろ怒られた方がいいよな…、…心配、してくれてるって事だしな…。……あぁ、俺何言ってんだマジで』
ぶつぶつとそんな言葉を脳死で呟きながら、つぼ浦はうっすらと目を開く。
そこはいつも通りの天井で、いつも通りのひんやりと寝心地の良いソファと共に起床をした。
『ふぁ…、、ンー…、゙んん…。』
のそりと上半身を起き上がらせれば、瞬時に察知する人の気配。
ゆっくりとした足取りでこちらへと向かってくるその足音に、つぼ浦は目を擦りながら意識を研ぎ澄ませた。
「おはようつぼ浦。よく寝れた?」
『ン…、っと…、、アンタは…、』
「あぁ俺ね?、青井らだお。昨日迎えに行ったでしょう?」
普段は鬼の被り物している筈の人物が、珍しく童顔で整ったその素顔を何の躊躇もなく晒して、更にはまじまじと見下ろしてくる。
自身の腰に手を添えつつ、青井は小さなため息を一つ漏らしてからまた口を開いた。
「それで、よく眠れた?」
『あぁ。寝れた』
「記憶は戻った?」
『一日そこらじゃ戻らねぇだろうな…』
他国の一般常識を加味してみれば、どう考えても数日で戻るような記憶の抜け方ではない。
下手すれば半年かかったって仕方のない症状の筈だ。
「そっかぁ…。…んー、、ロケランも駄目、手榴弾も駄目、ソファもダメなら、…本当に暫くは戻らないかもね」
『記憶なんて早々に戻るもんじゃないと思うが…どこで生きてたって、それが普通の事なんじゃねぇのか?』
「…まぁそうだね。そうかもしれない」
青井は素直に同意して、つぼ浦の言葉に困ったような笑みを漏らす。
「なぁんかつぼ浦が真面目なこと言ってるの。ちょっと面白いかも(笑)…、」
『はぁ??、アンタ俺の事バカにしてんのか?』
「馬鹿になんてしてないよ(笑)、ただ、記憶のないお前はこんなに話の通じる男なのに。記憶が戻ったら温度差で風邪ひきそう。(笑)、はぁ〜…、アイツ本当はド真面目に話せる奴なのになぁ…」
“まぁ、俺は分かってるけどね”と呟いて、青井はぱちりと視線を交わらせる。
『っ、なんだよ…、』
「…んーん(笑)、なんでもない」
緩やかな笑みとその瞳がつぼ浦を柔く捕らえて、つぼ浦は目を瞬かせながらカチリと硬直する。
そういえば記憶喪失諸々の前に、純粋に一つ忘れかけていた事があった。
…いや、正確にいえば忘れたかった記憶だ。
『(……あぁ、そういや俺、…アオセンの事が、??、多分…好き、だったんだよな)』
忙しない毎日で関わる機会も激減して、もう忘れてしまおうと強制的に心の内へと封じ込めては何重にも鍵をかけていた。
忘れかけていたその感情が、深い色をしたその瞳に見つめられることで開きかかっている。
「…?、何かあった?」
『、あ、っと…、いや、何もねぇ。何ともねぇ』
“気のせいだった”と強く言葉で言い聞かせて、つぼ浦はすぐさまそっぽを向く。
耳は少しだけ赤みを帯びて、その瞳には確かな動揺が見えた。
「……?、あっそぅ…、まぁ、体調悪くないなら何でもいいけど」
少しだけ心配げなその声と共に、つぼ浦の額には青井の柔らかな髪がさわりと触れる。
『ッ!、な、なんだ?、ちょ、近くねぇか?、゙ッ、おい、』
「はいはい静かに…」
褐色なそのおでこにひんやりとした肌を添わせて、ぴたりと数秒間だけ熱を測ってからそっと距離を置く。
「…んー…、、そもそも俺の体温が低いからなぁ…、わかんないや」
“まぁ大丈夫かぁ”と緩く呟いて、チラリと近距離でつぼ浦の瞳と対峙する。
『ッ、っ…、』
「………NEWつぼ浦は、俺の見た目が好みみたいだね。はは(笑)…、嬉しいよ。俺」
嘘か誠か分からぬ平坦な声色で、青井はにこにことそう呟いた。
”嬉しい”とは一体どういうことなのか。
そもそも“好み”とは一体…?。
『?、??、』
つぼ浦の頭の中がぐちゃぐちゃと悩みの種で溢れ返り、笑みを浮かべ続ける青井の瞳には困惑の表情を浮かべた男の姿が映し出される。
「…ねぇつぼ浦、本当に記憶が無いんだよね?」
『あ、あぁ。ねぇけど…、』
「じゃあ一つだけ真実を教えてあげる」
青井はそう言って、またつぼ浦の顔にそっと自身の顔を近づけた。
ふわりと清潔な柔軟剤の匂いが香って、青井はそのままつぼ浦の耳元で囁く。
「俺とお前はね、相思相愛だったんだよ。皆には内緒で、お付き合いしてたの。だから…困った事があったら、俺を頼ってね」
ゆっくりと咀嚼させるように呟いて、青井の身体がまた離れていく。
「じゃあ俺仕事あるから。またね」
子気味よく聞こえるその足音が遠くなり、つぼ浦は止まっていた息を途端に吹き返す。
『………、……は?』
秋の風が気持ちの良い今日この頃、俺は正真正銘、青井らだおという男になんの利益もないであろう大嘘をつかれた。
心臓がきゅっと締め付けられて、それ以上の言葉が上手く出てこない。
『ッ…、…つきあって、ねぇ、し…、』
溢れ出た否定の言葉は廊下に溶けて、何事も無かったかのように新たな生活が動き始めた。
曰く、青井らだおはつぼ浦匠とお付き合いをしているらしい。
俺たちは相思相愛で…相思相愛という事は、あの心無きと称される程の青い鬼も俺のことが好きだという事になる。
『完全に弄ばれてるぜ…、、』
青井の手のひらの上でコロコロと純情な恋心?を遊ばれて、つぼ浦匠のメンタルは少しだけ不安定だ。
『そもそもアオセンが俺にそんな事を言ってなんの得になるのかも分かんねぇし…、嘘をつくにしても期間が長過ぎるだろ…、』
耳元で囁かれたあの言葉に悩まされて約三週間程、体感的には一ヶ月以上が経っている感覚に陥るが、時の流れはそこまで早くない。
刻々と時間が過ぎる中で、青井からの小さなアプローチにつぼ浦の頭はキャパオーバーしていた。
『こっそり手ぇ繋いでくるし、電話もかかってくるし…、もう意味分かんねぇよ〜…、』
ペショペショな声色でそう呟き、つぼ浦はカクリと項垂れる。
捗らない書類整理を放棄して、その身体はひんやりとした机に顔を埋めた。
カチリカチリと時計の音だけが響き、夜勤の仕事はつまらないが人が少ない。
各々どこかしらで雑談をしたり、軽くパトロールをしたり、無理やり一人きりになっても不思議に思われないのでこの時間を好んで選んでいた。
『…多分昔の俺だったら、こんな時間作らねぇけどな…、』
こうせざる負えない理由があるからこうしている。
心情を乱す原因から逃げる為には、もはやこうする他ない。
『はぁ〜…、、何なんだろうな…、マジで…、』
いっそのこと”記憶が戻りました”って言ってしまおうか。
『゙んー…、そしたらアオセンも気まずくなっちまうだろうしなぁ…、』
“本当に記憶が無いのか?”と問われた時に、首を横に振ることさえ出来ればこんな事にはならなかった筈だ。
『あーもうわからん、ちくしょう分からん!、』
ダンッと軽く机を叩いて、つぼ浦は上半身を起き上がらせる。
「わぁ、びっくりした」
『゙はッ、ッ〜…、』
正面を見れば、机を一個挟んだ先にペンギンの顔。
『おまえ、、…盗み聞きか?、』
「いやいや全く。“ちくしょう分からんッ!”しか聞き取れ無かったっすよ」
『盗み聞きじゃねぇか』
つぼ浦の鋭いツッコミに“タハッ”と風船が弾けるような笑いを漏らして、ペンギン頭の成瀬力二は問いかける。
「まぁ当人がそう言うのであれば否定はしないっすけど(笑)、なんか悩んでそうだったんで近づいてみただけっすね」
『悩みだァ?、…否定は出来ねぇな』
「でしょう?。何一人で悩んでるんすか?、まぁこの感じ、書類整理で困ってるんでしょうけど」
『…。…あぁ、その通りだ』
「やっぱり(笑)、もう言ってくださいよ〜」
本当の悩みの種とはまるで違うが、後輩が心配して寄ってきてくれた事に悪い気はしない。
「どこが分からないんですか?」
『えーっと…、ここだな』
隣に立った成瀬をチラリと見てから、空白になっている一覧を指でなぞって首を傾げる。
「ふむふむなるほど?、あ〜、これ前の襲撃の時の経費確認っすね。明記を確実にするならドリさんからだおさんか…、」
真剣に考えてから無線に話を通して、成瀬はつぼ浦の肩をポンと叩く。
「無線で伝えたらドリさんが来てくれるみたいです。パパっと書類整理終わらせてココアでも飲みましょ」
『お、おぉ。助かったぜ、ありがとうな』
内心二つの名の一つに心臓がバクバクとしていたが、どうやら別件で手が離せないらしいのでほっと息を吐く。
『(いや…、別にアオセンが来たってどうって事はねぇけどな。別に何ともねぇし…)』
きっとなんともない筈だと自分に言い聞かせて、つぼ浦は後からやって来たミン・ドリーと一緒に事務作業をテキパキとこなす。
「うん。やっぱりつぼ浦は要領がいいね」
『お、本当っすか?、まぁまぁまぁ(笑)、俺は天才ですからね』
トサトサと撫でられる頭に緩く笑みを浮かべて、少しだけ照れた様子でつぼ浦が鼻を鳴らす。
『てか珍しいんじゃないか?、俺を褒め散らかすなんて』
「つぼ浦さん、使い方がちょい違うかもです」
ぱちぱちと不思議そうな表情を浮かべながらそう呟く後輩に、ドリーは軽く言葉を返す。
「んー…まぁたまにはいいかなって」
『ふーん。そういうもんか…』
「ドリさんそんな事いっちゃって〜(笑)、本当はつぼ浦さんのこと心配してるからじゃないですかぁ?」
「心配はしてるよ。もちろんカニくんもね」
“最近撫でて貰えなくて寂しいんじゃないの?”といたずらげに呟いて、ドリーはそのまま成瀬の頭にも軽く手を乗せる。
「なんだかんだ言って、つぼ浦が一番後輩たちの良さを引き出してくれてたからね」
底なしに明るい言葉とポジティブな考えを事ある毎にポイポイと懐に投げ込んで、つぼ浦にとっては何ともない声掛けでも、後輩たちにとっては心がふっと軽くなるメンケアに繋がっていた節もあるのだ。
「俺でよければ褒め散らかす?、けど(笑)」
「ちょっ、なんすかマジでっ、ッ、っは(笑)、」
ペンギンの被り物でくぐもった声を漏らす成瀬は、つぼ浦とドリーに迷惑をかけぬようにとケラケラ面白げな笑いを響かせる。
「別に寂しくないっすよ(笑)、ガキじゃあるまいし(笑)…、ふはは(笑)、…ん〜まぁでも、もしつぼ浦さんの記憶が戻ったら、何か奢ってもらいたいっすね」
『ほぉ〜。俺より金を持ってる富豪が何か言ってらぁ』
「…ふふ、そういう気分なんですよ。…アンタも、何かしらの理由があって今の現状がある訳だし」
“ね?”とドリーに目配せをして、成瀬はまたクスクスと笑う。
記憶のないはずのつぼ浦匠が、3週間で後輩の経済状況やら先輩の教育方針など分かるはずも無い。
そもそも一言も伝えてはいないし、あまりにも警察業務に慣れる速さが尋常では無かったのだ。
「まぁまぁ…ピースは埋まりつつあるだろうし。いつ思い出しても良いように、俺たちは待つだけだよ」
ドリーと成瀬はこくりと一つ頷いて、つぼ浦の事務作業が終わるまでとことん丁寧に付き合った。
『だァ〜ッ…、終わったおわった〜…、』
今日も今日とて事務作業。
日を跨ぐ度にあれだけ嫌悪していたはずの書類整理や筆記がすらすらと出来るようになって、気がつけば誰の手も借りずにそつなくこなす事が出来るようになっていた。
まぁそれはそれとして、肩は凝るし頭は使うし、真夜中の作業を終えたつぼ浦はコキリと首を鳴らす。
『ふぅー…、、いやぁ、やっぱやれば何でも出来るもんだな』
おかげで最近は人との関わりを自然に断つことができているし、何より心の乱れが少ない。
『…別に一人になりてぇって訳でも無いが、、こんな時間があっても良いか』
お昼の仕事は先輩後輩関係なく声をかけてくれるし、なんなら小型犯罪の対応を一緒に行ってくれる奴もチラホラ居る。
『……前よりかは、…まぁ、寂しくねぇな』
寝不足や事件の難航を言い訳にしていたが、どうやら根本的な理由はそこにあるらしい。
自分みたいな奴がそんな事を思うような人間であると認めたくは無いが、実際問題そうなのだから仕方が無い。
『人間って脆いなァ、、』
いつだって感情的なものに振り回されて、本当に人間という生き物は大変だ。
ぐーっと両腕を伸ばして、それから深くため息を漏らす。
『はぁ〜…、』
「…つぼ浦。お疲れさま」
『゙ッ!、っ、あぁ、びっくりした。アンタか…』
ポンッと背後から乗せられた両手に声も出ぬほど驚いて、つぼ浦はくるりと椅子を回そうと身じろぐ。
しかし、青井の手はつぼ浦の両肩にそっと乗せられている為容易に動けず、結局チラリとその顔を一目見てから大人しく正面に視線を戻した。
「書類整理終わった?」
『あぁ、終わったぜ』
「ふふ(笑)、偉いねぇつぼ浦、…よーしよし」
後頭部の斜め上からそんな言葉が降ってきて、つぼ浦の身体はピクリと震える。
“偉いねぇ”と褒めながら、ゆっくりと静かに頭を撫でてくるその行動には未だに慣れていなかった。
『っ、ッ…、あの、アオセン』
「ン〜…なぁに?」
『そのだな…、なんか、ちと小っ恥ずかしいと言うか、こうも毎日褒められると、、゙ん〜、天狗になっちまうぜ!』
ピコンと頭の中で閃いて、つぼ浦は言葉を続ける。
『いいのか?、俺が天狗になったらアオセンの制止も聞かずにロケラン撃ちまくるぞ?』
「ふは(笑)、いいよ別に。俺は対応課だからね」
『ちくしょう確かにそうだったな。アンタならどうにか出来ちまうか』
“くっそー…”と悔しげに眉を寄せて、つぼ浦は困ったように自身の頬を軽く引っ掻く。
「随分と信頼を寄せてくれてるみたいだね」
『あ?、何がだ』
「どうするの?、実は俺が超絶仕事のできない先輩だったら」
『ンな訳ねぇだろ。アオセンだぞ?』
「いーや。いやいやいや…」
『謙遜すんなって。アンタは自分の事になるといっつも消極的になる!、良くねぇぞほんとに』
誰がどう見てもできる奴、あいつは凄い奴だと口を揃えて言うだろう。
「そうかなぁ…そうだと良いけどね」
『はぁ?、俺が言ってんだぞ。そうに決まってんだろ』
ずっとずっと陰ながら努力する姿を見てきた俺が言うのだから、絶対に間違いなどあるはずがない。
「そっかぁ(笑)、じゃあそうかも。ありがとうね、つぼ浦」
緩まったその声色を空気に漂わせたまま、青井はぎゅっと背後からつぼ浦を抱きしめる。
途端に香る煙草の匂いは、恐らく働き詰めでどうにもならなかったストレスを解消した痕跡だろう。
『゙っ、アオセン、く、苦しいぜ、』
「そんな訳ないでしょ。こんなに優しく抱きついてるのに…ね?」
目尻に軽くキスをして、青井はクスクスと笑う。
『っ、…ッ〜…、アオセン、まッ、マスク、鬼のヘルメットはどこにやりやがった?、いっつも着けてただろうが、』
「つぼ浦と居る時は外してたよ」
『んな訳ねぇって、、』
恥ずかしさやら焦りやら、色々な気持ちがごった返して声が若干うわずる。
「……つぼ浦はさ、俺のこと嫌い?」
『はぁ?』
「俺は好きだけどね」
唐突に問われたその言葉と愛のストレートパンチに頭の処理が追いつかない。
『アンタは、っ、俺は、…、でも、俺たちは、その…、あれ、なんだろ、』
「恋人だって?」
『…そう、だから、……俺も、そうなんじゃ…ねぇのか?、分かんねぇけど、、』
最初は戸惑いが勝っていたが、いつの間にかこの甘々な青井らだおの生態にも慣れてしまって、それに絆されてしまっている自分もいる。
「…じゃあ好きってこと?」
『……、そう、だと…、思うぜ、』
認めてしまった途端、ストンと心に謎の安堵感が広がった。
何に安堵しているのかも分からないが、きっと嫌悪するような気持ちではない。
「…そっか。」
青井はしばらく黙ってから、小さく息を漏らして口を開く。
「………、…お前は本当に…嘘が下手だね」
困らせていると分かっているのに、今の今まで辞めることが出来なかった。
「こういうのはね、ちゃんと本音を言わないとダメなんだよ?。…嫌なら嫌って、ちゃんと言わないと」
『、アオセン?、』
ギュッと腕に力が入って、つぼ浦は身体をぴくりと跳ねらせる。
「…ごめんねつぼ浦。大好きだよ」
静かにそう呟いて、青井はつぼ浦の呼び止める声も聞かずにその場を後にした。
最近避けられている。
あの鬼に、確実に避けられている。
『俺が何したって言うんだよ……、』
あんなにもちょっかいを掛けて来たはずの姿が数日見えないだけで、イライラとストレスが止まらない。
アオセンは俺のことが好きで、俺もアオセンの事が好きな筈なのに。
『…ん?、そうだったっけか、?、…まぁ、元々好きだった事には変わりねぇしな…いいか』
毎日のように好きだなんだと囁かれ、人の気配が無ければここぞとばかりに手を繋いだり、頭を撫でたり、甘すぎるその好意を惜しげも無く与えてくれていた姿が今は無い。
『クソ…なんか調子狂うぜ…、』
非日常が当たり前の生活だと刻まれてしまったこの身体には、いつの間にかあまりにも耐え難い生活になっていた。
小さく舌打ちをかまして、つぼ浦は無線に耳を傾ける。
「“らだお寝まーす、お疲れ様でした〜…”」
「「“おやすみ〜”」」
気だるげな声で退勤を宣言し、青井は皆に労いの言葉をかけられる。
『…ふぅー…、、よし』
つぼ浦は人知れず無線をぶち切って、今世紀最大に自身の聴覚認知機能を抜群に開花させた。
『……、』
本署の入り組んだ部屋の一つ一つ、長い廊下と他の署員の足音、そして…青井らだおのかかとを擦るような歩き方。
夜遅いので人は少なく、だからこそよくよく耳をそばだてれば何処に誰がいるのかなんて直ぐに分かってしまう。
伊達に特殊刑事課を名乗っている訳ではないのだ。
一人一人が軍隊に匹敵する強さを持つ者…まぁそれも特殊な奴らにとってはただの玩具だが。
『……。いたわ』
瞑っていた目をゆっくりと開いて、つぼ浦は一目散に廊下を駆け抜けて行く。
「…ん、…?、…ぇ?、え?、っちょッ!、」
『カットーッ!、』
角を曲がればそこには青井が居て、つぼ浦はスライディングを綺麗にかましてから何事も無かったかのように鼻を擦る。
「゙いっ、ててて…、ッ〜…、腰打ったァ…」
『老体にはキツいか?』
「誰がおじさんだ?」
『言ってねぇぜ』
「言ってないか」
カチンとキレかけたその思考をすぐさま冷やして、青井はよたりと立ち上がる。
その顔には鬼の被り物がしっかりと取り付けられていて、つぼ浦がいるとてそれを外すつもりはないらしい。
『…、アオセン』
「ンっと…、ふぅ…。なぁに?」
『少し話がある。付いてきてくれ』
「どこに?」
『どこだっていい』
「じゃあ此処でいいんじゃない?」
背を向けたつぼ浦の肩を軽く掴んで、青井は息を吐く。
「何かやらかしたの?、それとも道に迷った?」
『此処で働いてもう二ヶ月だ。流石にもう迷わないぜ』
広い本署の天井を見上げてから、つぼ浦は少しだけ思考をぐるりと巡らせて青井に向き直る。
『…なぁアオセン、アンタは俺のことを好きだと言った。けどあの時、謝ってたよな』
「それ掘り返すかぁ…。…うん、そうだね」
逃げられぬようにと、肩に乗せられていたその手をぎゅっと掴んでつぼ浦は離さない。
『なんで謝ったんだ?、俺は多分、…いや、ちゃんと嬉しかったのによ』
「……迷惑だったかなぁって、思って」
困ったような声色で、青井の顔はふいと横を向く。
それが一種の拒絶にも見えてきて…、つぼ浦はグッと目元の熱さを堪えた。
『なぁ、アンタが言ったんだぜ?、俺はアンタが好きで、アンタは俺が好きで、、それじゃあダメなのか?、…もう、俺は用済みか?、』
コロコロと手のひらで遊んでいたおもちゃに飽きてしまって、また別のおもちゃでも手に入れたのだろうか。
「……。…その気持ちはさ、本当にお前の気持ち?、心の底から、そう思えてる?」
『ぇ?、』
「……あのねつぼ浦、俺は真っ白になったお前の記憶の中に、真実だなんだと抜かして無理やり入り込んだだけなんだよ」
“まぁ、それも最初だけ”
「その後はさ…お前、嘘が下手だから。数週間もしない内に記憶があるなって分かったよ。…だけど、俺はその事が分かってても辞められなかった」
戸惑いつつも、だんだんと満更でもないような声色で喉を鳴らすその姿が、あまりにも愛し過ぎた。
「記憶が曖昧なフリをしているお前に、俺はここぞとばかりに愛を押し付けたよ。…でも、もうそろそろ思い出さないと、他のみんなも寂しがるでしょ?」
『……戻ったら、全部無かった事になるのか?』
「それは…んー…、、お前の、気持ち次第かな」
小さく首を傾げてから、青井はつぼ浦をチラリと見つめる。
『俺は、ッ、俺は、…、アンタの事が、…すき、だぜ、…。好きで、封じ込めてたもんを、アンタがまたこじ開けた。全部アオセンが悪ぃんだ、だから、(泣)…捨てないで、くれよ、』
溢れ出てきた涙がポロポロと静かに頬を伝って、暖色なシャツに染みを作る。
この発言自体も手繰り寄せられたものなのか、はたまた自分の意思で言っているものなのかも定かではない。
でもこんなにも好きになってしまったのだから、もう縋り付くことしか出来ない。
「…いいの?、俺で」
『アンタがいいんだ。記憶が戻ったって、…俺は、アンタの事が好きだ』
「そういうことにするの?」
『ん、する。っふ(笑)、』
目元を撫でられるだけで嬉しくて、つぼ浦は青井の首にするりと腕を回した。
『なぁ、顔見せてくれよ』
「今はだめ」
『なんでだよ、俺の前では見せてくれんだろ?』
「ンー…、じゃあ後でね。今はすっごく悪い顔してるから。…また後で」
青井は不満げなつぼ浦の表情にクスクスと笑いを漏らしてから、優しく優しく頭を撫でてその身体を抱き寄せる。
『ッ、く、苦しいぜ、アオセン、』
「そんな訳ないでしょ(笑)。優しく抱きしめてるんだから」
“ね?”と呟けばそれ以上なんの抵抗も見せずに、つぼ浦はきゅっと青井の服を握りしめた。
「…つぼ浦、俺のこと好き?」
『ン、好きだぜ』
「んふふ(笑)、じゃあ良かった」
即座に返ってきた言葉に安堵して、青井は頬を緩める。
塗り替えた憧れや小さな恋心は、これからはもっと深く、淡く、大切な感情になっていくに違いない。
だってお前は俺のことが好きで、俺は…、もっとずっと、どうしようもない程にお前の事が好きなんだから。
マインド純情恋心[完]
コメント
8件
最高!つぼ浦とらだおいいですねぇ