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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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首都はほぼ壊滅状態で、イーリスを休ませるためにも、シャブランの森の近くで自然の魔力を使えば回復も早いだろう、とヒルデガルドも納得してポータルを開こうとするが、彼女の手がぴたっと止まった。


「なんじゃ、待たせるなよ。はようポータルを開かぬか」


「いや、なんだ、その。魔力が足りない」


今の彼女は魔導師と呼ぶにはあまりに弱々しい。仕方ない、と呆れたイルネスが彼女の杖に自分の魔力を注ごうとして、愕然とする。


「すまん、儂も魔力が足りぬ。イーリス、傷は痛むであろうが頼む」


「ボクがやるのか……。まあいいんだけど」


開かれたポータルはミモネの家のすぐ傍だ。イーリスが先に潜り、それからそれぞれが順番に抜け、全員が通ったのを確かめてからポータルを閉じた。落ち着いてくると、脇腹の痛みが強く感じて、膝をつきそうだった。


「大丈夫か? 無理をさせてしまったな」


「気にしないで。ミモネさんにも前にポーションの試作品を渡してるから、もしかしたら残ってるかもしれないし、聞きに行こう」


全員が無事──といっても怪我人だらけだが──の報告をしようと玄関の扉を叩く。そっと開けて顔を覗かせたミモネが、彼女たちの姿に目を見開いて固まった。内心、もう帰ってこないと思ったイルネスが、小さくなっているとはいえ、本当に帰って来てくれたのだ。嬉しすぎて、思わず飛びだすと彼女を抱きしめた。


「みんな帰って来てくれて良かった……。本当に良かった」


「うむうむ、ありがとうよ。じゃが、今は喜ぶのはあとにしとくれ」


ぬいぐるみのように抱きしめられながら、イルネスはヒルデガルドたちを指差して「中に入れてもらえると助かるじゃが」と言うと、ミモネは急に恥ずかしそうに立ち上がって、ごほんごほんと咳払いをし始めた。


「ちょっと取り乱しちゃったわ、ごめんなさい」


「構わない。それより、イーリスが怪我をしてるんだ」


「あら、酷い怪我だわ。入って、前に貰った薬がまだ残ってるの」


軽いけがなら一滴で治る高品質のポーションを使うのが勿体ない、とミモネは本当に少量ずつしか使っておらず、イーリスの大きな傷を塞ぐのには十分な量が残っていた。


「アッシュ、アベル! ポーションを飲ませたら彼女を二階へ連れて行ってちょうだい!」


怪我人はコボルトたちに任せて、ミモネはヒルデガルドたちを椅子に座らせ、ひと息ついたところでコーヒーを淹れた。


「さて、落ち着いたし話を聞かせて。結局、何があったのか」


「わかった。ゆっくり話そう、色々ありすぎたんだ」


ことの顛末を伝え、一度はイルネスも消えかかり、今度もまた旅に出なくてはならないと知ったミモネは、これ以上の危険などあってほしくはないと思いながらも、今のままでは消えてしまうであろう彼女を止められなかった。


絶対に帰ってくる保証もない。天を衝くような立派な角も、細身ながらもがっちりした体つきも、今はない。不安ではあったが、力を取り戻すためだと言われれば、受け入れることしかできないのだ。


「──それで、そっちの騎士さんは?」


「残念ながら俺は留守番だ。ついて行きたい気持ちはあるが、無理を言って悩ませるつもりはない。それに、首都も酷い有様だからな」


半壊した首都の復興には、指揮を執れる人間が必要になる。自身の屋敷さえ消し飛んでしまったのだ。自分には自分にできることを、とアーネストは首都に残るのを決意していた。もちろん、寂しくはあったが。


「すまない。君たちにしばらく会えないのは残念だが、とにかく必ず私も魔力を取り戻して帰ってくると約束しよう」


「でなきゃ許せないわ。せっかく生きて帰って来たんだから」


ミモネには彼女たちがどうしてそこまで強気でいられるのか分からない。命を落とすかもしれない旅に出ようというのに、一点の曇りもなく、何があっても大丈夫だと信じているのが不思議だった。


その根底には、何度も潜り抜けてきた修羅場の経験があるからだ。ヒルデガルドも、そしてイルネスもまた、最初から強かったわけではない。少しずつの積み重ねてきた努力が、絶対的な自身へ繋がっていた。


「まあ、これ以上は野暮よね。分かったわ、とりあえず今日のところは泊っていって。ちょうど食事の支度を始めようとしてたところだったの。できあがるまで、ゆっくり休んでて。お腹も空いたでしょう?」


ヒルデガルドは「いや、私は必要ない」と席を立つ。


「色々と準備をしておきたいんだ。二日後には、どこへ飛ばされるかも分からないし、念入りにな。イルネス、君もだぞ」


「ええっ、儂も!? メシは……メシはいかんのか!」


がたっと椅子を倒す勢いで立ち上がったイルネスの頭をぽん、と叩く。


「アバドンは多分、許可を出す。となれば、それなりに過酷な場所に飛ばすに決まってる。お互い、自分の身を守れる準備は必要だろ」


村で馬でも借りて、さっさとイルフォードへ帰りたかった。完全に枯渇したポーションの精製もしなければならなかったし、荷物もまとめておきたい。事前準備を欠かすとろくな結果に繋がらないぞ、と言われたイルネスも渋々ついて行くことにした。


「ではミモネ、また迷惑を掛けることになるが、イーリスのことを頼んだ。……五年経つまでには必ず迎えに来ると伝えておいてくれ」

大賢者ヒルデガルドの気侭な革命譚

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