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次の日は起きてから一口も、食べ物も飲み物も喉を通らなかった。自分のベッドに座り静かに青井の顔をひたすら見つめているとノックされドアが開いた。


「つぼ浦さん、少し良いかしら。」


「はい。」


「警察の皆が差し入れ持って来てくれたわよ、大好物ばかりだからどれか食べられたらって。」


「すんません、あざす。」


「それともう少ししたら検査を受けてもらうわ、その時また説明するから今は休んでいてちょうだいね。」


ぺいんとまるんが昨夜のつぼ浦の様子を事細かに救急隊員達に伝え、二度と同じ事が無いように様々な対策が施された。しかしそれとは裏腹につぼ浦はトイレ以外病室から一切出なくなり、お見舞いも全て断ってしまう。




「特段大きな異常は無し、か。となるとやっぱりメンタル面だよなぁ…」


「身体面、精神面共に今は落ち着いていますが早急になんとかしないと。」


「ウィルが前に診た時も食欲不振だったよな、どんな経緯だった?」


「えぇとあの時は…」


かげまるとウィルが治療方針について話しているが、確信めいたものは無く頭を悩ませている。


「トラウマか…うーん、やっぱり話してみるしかないか。」


「朝の様子見てやめたのでは?」


「そうだけど一度話してみない事には何も分からないだろ、幸い嫌な訳では無さそうだったし。『よつは、つぼ浦君今どんな様子だ?』」


「『疲れたからって横になっているわ。』」


「『了解、ありがとう。』タイミング見てだな。」


頃合いを見て夕方病室に入るとつぼ浦はまたベッドに座り青井をじっと見つめている。テーブルには様々な飲食店の商品が手付かずのまま乱雑に置かれていた。


「つぼ浦君、今良いかな?」


「検査すか?」


「いやそのままで構わないよ、少し話をしたくて。」


「話?もう退院できるのか?」


つぼ浦自身は普通に話しているつもりなのに、よく耳を澄ませばやっと聞こえる程の声しか出ていない。


「美味しそうな物が沢山ありますね、何か食べましたか?」


「いや、腹減ってないんで。」


「その腹減ってないというのは、前に私が診察した時と同じ感覚ですか?」


「あー……たぶん。」


「でもその時は少しは食べられてたんだよな、今日と違って。」


「その時はアオセンが心配だって言うから仕方なく食ってたんで。」


「俺達もつぼ浦君が心配で少しでも何か食べてほしいんだけど…らだお君には到底敵わないか。」


「ははっそっすね。てか俺よりアオセンはどうなんすか、怪我とかはもう治ってんだよな?」


「数値も安定しているしあとは目を覚ますのを待つだけ…ですね。」


つぼ浦はまた青井の顔を見る。他の人や物を見ている時は虚ろな目をしているが青井を見ている時だけは真剣で悲しげな、苦しげな瞳をしていた。


「…いつ目が覚めるかはらだお君次第だ。」


「……いつまで寝てんだよ、お寝坊さんすぎだろ…」


俯いてポツリと呟いた様子を見て今日は終わりにするか、と2人が目配せしているとぺいんがドアからそーっと顔を覗かせた。


「あのー、お取り込み中ですか…?」


「あっあれ!?他の隊員に止められなかったか!?」


「皆救助行ってるみたいで誰もいなかったすよ。」


「あーそうか…2人共申し訳ない、つぼ浦君は今日はお見舞いお断りで…」


「あーいっすよ、イトセン1人なら。」


「そうか分かった、何かあったら遠慮なく呼んでくれ。」


2人が病室を出て行くのと替わってぺいんがバツの悪そうな顔をしながら入ってきた。


「ごめんなんかダメだった?俺今起きた所で何にも聞かずに来ちゃったんだけど。」


「いや大丈夫す。すんません迷惑かけて。」


「はぁーお前なぁ昨日から迷惑迷惑って…いいか!?迷惑っていうのはな、裁判所でロケラン撃って大勢の負傷者出したり、白市民車で轢いて煽って上官が謝る事態になったり、そういう事を迷惑って言うの!!!」


「…え、は、すんません…」


「あの時はずっとヘラヘラしてたのにこんな時だけしょげて謝って、悲劇のヒロイン気取りかよ!!」


「分かった、分かったから落ち着けって!!!」


ぺいんに連られて自分でも驚く程の大声が出た。目を見開いてえ…?とお互いを見合う。


「え、つぼ浦普通に声出せんの?さっきはちっさい声しか出てなかったけど。」


「いや今日初めて…あー、あー、これ普通の音量すか?」


「うん丁度良いよ、いつから声出なかったの?」


「昨日の夜?からか?」


「…そっ…かぁ…あのさ、言いたくなかったらごめんなんだけど、昨日の夜どうした…?」


「あーそれがあんま覚えてないんすよね。なんか気付いたら海にいて、また気付いたらイトセンとまるんがいて、その次は病院のベッドの上で朝だった。」


「覚えてないんだ…今日体調は?」


「んー…いつもと変わらん、早く退院したいのに皆大袈裟なんだよな。」


記憶が断片的にしか無かったのは事実だが、朝起きてからずっと心の奥底に渦巻く「何か」に闇に引きずり込まれそうになっていた。声が出てなかったしお見舞いを断っていた事を聞いていたぺいんには「いつもと変わらない」なんて嘘は簡単に見破られたが、余計な心配をかけたくない彼なりの親切心だろうと気付いていないフリをした。


「そっか…てか大声で捲し立てちゃってごめん。違うんだよ、あれは本心じゃなくて…誰もつぼ浦の事迷惑だなんて思ってなくて、だからそんな事気にしないで早く元気になってほしいから、えっとそれで…」


「いやなんつーか、上手く言えねぇけど喝入れられたっていうか、スッキリしたっていうか…吹っ切れたぜ。悲劇のヒロイン気取りなんて言われちゃ俺も黙ってらんねぇからな、いつまでもウジウジしてられん。サンキューイトセン!」


「お、おお…?お前やっぱ変だな、役に立ったなら良かったけど。」


何が、どこがつぼ浦にハマったのかは全く分からないが、つぼ浦の瞳に僅かながら光が戻ってきたのが見えるとホッとして笑みが零れた。

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コメント

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つぼ浦ー!!! ぺいんやっぱすごいなぁと思うとともにつぼ浦の裏がまだありそうでわくわくどきどき、、

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