テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
30
74
桃 姫@フォロバ
48
第6話:甘美な朝と、囚われの烙印
水平線から昇る朝日が、海面を黄金色に染めていく。
船長執務室のキングサイズベッド。昨夜の嵐のような狂乱が嘘のように、室内には暖かく静かな空気が満ちていた。
シオン:「ん……んぅ……ふあぁ……」
まぶたに差し込む光を感じて、シオンはパチパチと蒼い瞳を開いた。
体に残る、心地よい重みとぽかぽかとした温もり。
しかし、ゆっくりと身体を動かそうとした瞬間、シオンは「あたたっ……」と小さく声を上げた。
シオン:「あれ……? 身体が……なんだかしびれて、重たい……?」
自分の身体を見下ろしたシオンは、ぽかんと固まってしまった。
はだけた白のナイトシャツの隙間から覗く、自分の白い肌。
首筋、鎖骨、胸元、そして太ももの内側に至るまで、赤紫色の鮮やかな「キスマーク」と「歯型」がびっしりと刻み込まれていたのだ。
シオン(心声):(うわぁ……すごいや! 赤い模様がいっぱい……! 昨日、みんなが僕の傷を治そうと一生懸命血を吸ってくれた痕だなぁ……)
自分の体がどれほど背徳的な姿になっているかも知らず、シオンは「みんなが僕を助けてくれた証拠」だと勘違いして、嬉しそうに頬を緩めた。
すると、すぐ隣から低い掠れ声が響いた。
レヴィ:「……起きたか、シオン」
シオン:「あ! 船長さん、おはようございます!」
左側に横たわっていたレヴィが、身体を起こしてシオンを見下ろしていた。
いつもは冷徹で完璧な船長だが、今朝は無造作に髪を乱し、胸元を大きく肌蹴かせて野性的な色香を漂わせている。その金色の瞳には、シオンへの隠しきれない甘い執着が宿っていた。
レヴィはシオンの腰に手を回すと、ひょいと自分の膝の上に抱き上げた。
シオン:「わっ……! 船長さん?」
レヴィ:「体の具合はどうだ。痛むところはないか」
レヴィの大きな手が、シオンの首筋の歯痕を優しく親指で撫でる。
シオン:「痛くないですよ! むしろ身体がぽかぽかして、とっても気持ちいいです。船長さんたち、僕の血をいっぱい吸ってくれたから……痛いの、なくなりましたか?」
レヴィ:「…………」
真っ直ぐな蒼い瞳で見つめられ、レヴィはフッと苦笑いを漏らした。
レヴィ(心声):(本当に……どこまで無自覚なガキなんだ。昨夜、自分がどんな声で泣いて、どんな顔で俺たちをねだっていたのか、何も覚えていないのか……)
レヴィは愛おしさに耐えかねたように、シオンの額に深く優しいキスを落とした。
レヴィ:「あぁ、おかげで傷も痛みも跡形もなく消えた。……お前の血は、極上だったぞ」
シオン:「えへへ、よかったぁ! 僕、船長さんのお役に立てて嬉しいです!」
ガルド:「おいおい、朝っぱらから二人でイチャついてんじゃねぇよ」
右側から、豪快なあくびとともにガルドが起き上がった。
ガルドの太い腕が後ろから伸びてくると、レヴィの膝の上にいるシオンの細い胴体をぎゅっと抱きすくめた。
シオン:「あ、ガルドさん! おはようございます!」
ガルド:「おう、ガキ。……チッ、お前、自分の恰好分かってんのか?」
ガルドの視線が、シオンのはだけた胸元と太ももに注がれる。自分が昨夜刻みつけた歯痕を見て、ガルドの耳がわずかに赤くなった。
ガルド:「服のボタン締めろ、アホ。……ほら、じっとしてろ」
ガルドはぶっきらぼうに文句を言いながらも、大きな手で器用にシオンのナイトシャツのボタンを一つずつ留めていく。その手つきは驚くほど繊細で、優しさに満ちていた。
シオン:「ガルドさん、お洋服着せてくれるんですか? ありがとうございます! ガルドさんってお世話上手ですね!」
ガルド:「べ、別にお前のお世話がしたいわけじゃねぇ! お前が無防備すぎるから手がかかるだけだろ!」
照れ隠しに声を荒げるガルド。だが、ボタンを留め終えた後も、ガルドの手はシオンの腰から離れようとせず、愛おしそうに何度もさすっていた。
フェニ:「ふふ、朝から賑やかですねぇ」
シオンの頭上から、フェニが滑らかな動作で起き上がってきた。
フェニは乱れた服を優雅に整えると、シオンの正面にかがみ込み、その顎を指先で持ち上げた。
フェニ:「おはようございます、シオンくん。昨夜はよく眠れましたか?」
シオン:「フェニさん! はい、すっごくよく眠れました! みんなが温かくて、夢の中でもぽかぽかしてました!」
フェニ:「そうですか。ふふ……君が満足してくれたなら何よりです。……でも、シオンくん?」
フェニは狐のような目を妖しく細めると、シオンの耳元にスッと顔を近づけた。
フェニ:「昨夜、僕の指を甘噛みしながら『もっと……』ってねだった時の顔……とっても可愛かったですよ?」
シオン:「えっ……!? ぼ、僕、そんなこと言いましたか!?」
シオンの顔が一気に真っ赤になる。全く記憶にない(というより快感で頭が真っ白になっていただけの)自分の失態を指摘され、シオンはパタパタと手を振った。
シオン:「うぅ……恥ずかしいです……! 僕、変なこと言ってたらごめんなさい……!」
フェニ:「いいんですよ。むしろ、もっと変なことを言ってくれても良かったのに。……例えば『フェニさんだけが好き』とかね」
レヴィ:「フェニ、朝からくだらん誘導尋問をするな」
レヴィが低い声で割り込み、シオンを自分の胸の中にさらに強く抱き寄せる。
ガルド:「そうだぞフェニ! シオンが困ってんだろ! 離れろ!」
フェニ:「おや、お二人とも嫉妬ですか? 昨夜あんなにみんなで仲良く分け合ったというのに、朝になればまた独占欲全開ですねぇ」
フェニはくすくすと笑いながらも、シオンの手にそっと自分の手を重ね、指を深く絡め合わせた。
男三人の視線が、シオンという一つの「宝物」を巡って再び火花を散らす。
しかし、昨夜互いの理性を晒し出し、シオンの血と身体を共有したことで、彼らの間には奇妙な「絆」と「共犯関係」が生まれていた。
(誰もこの子を一人で独占することはできない。だが、他所の奴らには指一本触れさせない)
三人の男たちの想いが、一つに重なっていた。
◇
数時間後。
執務室で豪華な朝食を済ませたシオンは、船長たちの「お仕事」の邪魔にならないよう、一人で甲板に出て風に当たっていた。
シオン:「う~ん! 海の風、気持ちいいなぁ!」
昨夜の熱気が嘘のように、爽やかな潮風がシオンの蒼い髪を揺らす。
シオンは船の手すりに捕まり、どこまでも続く青い海を眺めて笑みを浮かべた。
シオン(心声):(僕、本当に幸せ者だな……。こんなに優しいお兄さんたちと一緒にいられて……)
その時だった。
見張り台の上にいた船員が、焦破した声を張り上げた。
船員:「せ、船長ーっ! 敵船です! 3時の方角から大型軍艦が急接近してきます!」
シオン:「え……? 敵船……?」
シオンが驚いて振り返ると、遠くの海から黒い煙を吹き上げながら進んでくる一隻の巨大な軍艦が見えた。
その船に掲げられているのは――かつてシオンを地下室に閉じ込めていた、貴族の国と同盟を結ぶ「聖帝国」の軍旗だった。
甲板に、レヴィ、フェニ、ガルドの三人が一斉に飛び出してきた。
ガルド:「チッ……! 聖帝国の奴らめ、あの貴族の館を潰された腹いせに追いかけてきやがったか!」
フェニ:「弱りましたねぇ。あの規模の軍艦となると、正面からやり合うのは少々面倒です」
レヴィは冷静に腰のカットラスの柄に手をかけると、冷酷な眼光で敵船を見据えた。
レヴィ:「迎撃の準備をしろ。一艦残らず海の藻屑にしてやる」
「おーっ!」と湧き立つ海賊たち。
だが、敵船の甲板から、巨大な拡声魔導具を通した甲高い男の声が響き渡った。
敵海軍将校:「聞け、『黒狼号』のならず者ども! 貴様らに降伏の勧告をする! 我らの目的は貴様らの命ではない! その船にいる『人魚の生き残り』――少年シオンの身柄だ!」
シオン:「……えっ……!?」
シオンは息を呑んだ。
敵海軍将校:「その少年の不老不死の血は、我が帝国の皇帝陛下に捧げられるべき聖なる宝! 少年を引き渡せば、貴様らの罪を免除し、莫大な金貨を支払ってやる! さあ、少年をこちらに渡せ!」
敵の狙いが自分であると知り、シオンの顔からスーッと血の気が引いていく。
シオン(心声):(僕のせいで……みんなが危険な目に遭っちゃう……? また、あの暗くて冷たい地下室に連れ戻されちゃうのかな……?)
恐怖で身をすくませるシオン。
自分のせいで船や仲間たちが傷つくかもしれない――そう思ったシオンは、ぎゅっと拳を握り締め、一歩前へ出ようとした。
シオン:「僕……僕が行けば、みんな助かるなら――」
「バカ野郎が!!」
ガルドの雷のような怒号が響き、シオンの細い肩が強く引き戻された。
シオン:「ガ、ガルドさん……!?」
振り返ると、ガルドが恐ろしいほどの怒りの表情でシオンを見つめていた。だが、その目はシオンを責めているのではなく、シオンを守ろうとする強い想いに満ちていた。
ガルド:「お前……また自分を犠牲にしようとしてんのか! 冗談じゃねぇぞ! 俺たちがそんな条件に乗ると思ってんのか!」
フェニ:「そうですよ、シオンくん。僕たちを甘く見ないでください」
フェニが優しくシオンの前に立ち、盾となるように立ちはだかった。フェニのいつもの笑みは完全に消え、殺気あふれる冷ややかな瞳で敵船を睨みつけている。
フェニ:「僕たちの『宝物』を金貨ごときで渡すわけがないでしょう。……帝国も、随分と身の程知らずな買い物をしようとするものですね」
そして、レヴィが静かに歩み出ると、シオンの頭にポンと手を置いた。
レヴィ:「シオン。言ったはずだ。お前は俺たちの『戦利品』であり、俺たちの所有物だと」
レヴィはカットラスを鞘から引き抜くと、その刃を空へ向けて掲げた。
レヴィ:「俺のものに手を出そうとする奴らは……神であれ皇帝であれ、すべて叩き潰す。……野郎ども! 敵艦を血の海に変えるぞ! 全砲門、開けぇ!!」
「ウオオオオオオっ!!!」
船員たちの咆哮が海に轟く。
シオンは、自分を守るために立ち上がる男たちの背中を、震える瞳で見つめていた。
(みんな……僕なんかのために……こんなに怒ってくれてる……)
胸の奥が、熱く、熱く込み上げてくる。
自分はもう、一人で暗い地下室で血を流すだけの「道具」ではないのだと。
命をかけて自分を愛し、守ってくれる「大切な場所」がここにあるのだと、シオンは心から理解した。
シオン:「船長さん……ガルドさん……フェニさん……っ!」
シオンは涙を拭うと、男たちの背中に向かって、全力で声を張り上げた。
シオン:「僕……どこにも行きません! ずっと、みんなと一緒にいます!! だから……頑張ってください!!」
少年のまっすぐな叫びが、海賊たちの士気を爆発させる。
レヴィは不敵に口角を上げると、シオンに振り返り、極上の笑みを向けた。
レヴィ:「あぁ、任せておけ。……お前の帰る場所は、この船の上だけだ」
激しい砲撃音が響き渡り、迎撃戦の火蓋が切って落とされた。
狂愛の海を進む『黒狼号』と男たちの戦いは、少年の絆を深めながら、次なる死闘へと突き進んでいく――。
コメント
1件
リオンです。第6話、読み終わりました。 朝のまったりとした甘やかな空気から一転、聖帝国の襲来。緩急のつけ方が上手いなと思いました。特にシオンが自分のキスマークを「傷を治してもらった痕」と純粋に勘違いして嬉しそうにしているのが、無自覚な誘惑というか……読んでいて苦笑いと同時に「危ういなこの子」と感じさせられました。 そして終盤、自分を差し出そうとしたシオンをガルドが「バカ野郎が!!」と一喝するシーン。あそこ、すごく良かったです。言葉は乱暴なのに、その奥にある「お前を守る」という確かな意志が伝わってきて。三人それぞれの守り方の違いも描かれていて、読みごたえがありました。 「自分の帰る場所」が確かにここにあるとシオンが実感するラスト。次が気になります。